横浜中華街に行ったら、どこで何を食べればいい? 魂が震える本物の味はどこにある? 当連載は、横浜で美味を求める読者に向けた横浜中華指南。伝統に培われた横浜の味と文化をご紹介します。
◆目指すゴールとコンセプトはコチラ(1回目の連載)でご覧ください。

そろそろ旧暦の端午節。2019年は6月7日(金)です。

端午節は中華圏ではかなり重要な日で、春節などと並び、4大伝統祭日に数えられます。この日は各地でドラゴンボートレースも開催。2019年、横浜のドラゴンボートレースは6月1日(土)~2日(日)、6月8日(土)~9日(日)です。

2014年のドラゴンボートレースの模様。photo by Shutterstock.com

そして、ドラゴンボートレースと今回ご紹介するちまきは、深い由縁があります。

なぜ端午節にちまきを食べるのか?

その由来は、中国の春秋戦国時代(紀元前770年~紀元前221年)、楚の国の文人で政治家・屈原(紀元前300年前後)が左遷されたことに遡ります。

屈原は絶望し、旧暦の5月5日に入水自殺。すると民衆は、屈原の遺体を先を争うかのように船を出して探し、彼の遺体が魚に食べられないよう、ちまきを水に投げ込んだというのです。この故事から、端午節には今でもちまきを食べる習慣が伝わっています。

原典となる『太平廣記』を紐解くと、こうあります。

「屈原は五月五日に汨羅水に身投げした。楚の国の人々はこれを憐れんで、竹筒に米を詰めて水に投じる祭が生まれた。漢の時代に長沙の河のほとりに三閭大夫(屈原)と名乗る男が現れ、曰く『毎年送ってくれるのは嬉しいのだが、河に棲む魔物に食われてしまう。匂いの強い葉でくるんで糸で縛ってくれると良い。この2つは魔物が嫌うのだ』」。

古樹軒で行ったちまきづくり教室。photo by Saori Kuwahara

この話が、米を笹の葉で包み、紐で結ぶ由来になっているようです。ゆえに、ちまきの加熱はお湯でゆでたいもの。なぜなら、水の中の屈原へのお供え物を意味しているからです。

さて、横浜中華街の有名ちまきといえば、路地裏の名店「ちまき屋」。しかしこちらの店、かなり有名になってしまい、手作りというともあって、休日は予約引き取りのみ。 その予約も約1ヶ月半待ちで、幻のちまきとなっています。

しかしご安心ください。「ちまき屋」に限らず、横浜中華街には伝統的なちまきを作る、おいしい店が多数存在しています。今回の記事では、そのなかでも比較的買いやすいちまきをご紹介。次回は入手困難な逸品をご紹介する予定ですのでお楽しみに。

ちまきの王様!菜香新館の限定「正宗広東ちまき」は家族みんなで食べられる

ゆでる前に計ったら、重量なんと585g!おすすめのゆで時間は一般的なちまきの2倍の約30分。大きめのお皿に乗せても、皿が小さく見える。まさにちまきの王様です。

漫画のようなサイズのジャンボちまき。他店のちまきもいくつか計ってみましたが、平均すると250g前後ですからほぼ2倍以上。

包みは、これまたびっくりするほど立派な竹の皮が2枚。ちまきの醍醐味でもある、皮をむくときのワクワク感もMAXです。

丁寧に包まれているのもうれしい気持ちに。

中の具は、アヒルの塩卵、しいたけ、干し貝柱、豚肉、緑豆など。強烈なインパクトのある外見とは裏腹に、中の味付けは上品で薄味。細かく刻まれたしいたけもいい仕事をしています。

中心の黄色い部分は塩卵。その周りにもろもろっとしているのは緑豆です。

しつこさを感じさせない高級店の味付けに、朝から丸ごと1個いけそうな気持ちになりますが、さすがに出社前に30分ゆでるのは厳しい。どちらかというと、土曜の朝など、週末にのんびりと1日を始めるのにぴったりのちまきですね。

ちなみに「菜香新館」は飲茶ができるレストランとして有名。行列もできるため、筆者はなかなか行けていないのが残念なのですが、売店でちまきを買うなら、並ばずに購入できるため、横浜中華街のちまきとして、最初におすすめしたい逸品です。

「菜香新館」の「正宗 広東ちまき」

【2019年の販売期間】4月15日(月)9:30 ~6月7日(金)21:00まで 詳細はこちら
【特徴】上品な薄味。緑豆のホクホク感。
【合わせたいドリンク】爽やかな香りのジャスミン茶。

和菓子グレードの笹の葉の威力!大珍食品公司の端午節スペシャル広東ちまきは香りが凄い

続いてご紹介するのは、肉まんの記事でご紹介した、“土日祝日の14~16時のみ現れる幻の店”、関帝廟裏の大珍食品公司。

こちらは通年ちまきを製造していますが、この時期だけ、いつものちまきとは違う、端午節限定品があるのをご存知でしょうか。これがまた、商売度外視で作られた逸品なのです。

中華菓子・饅頭などを製造する大珍食品公司。つくり手本人から直接買えるのが工場直売屋台です。(※中華街大通りの本店売店にも販売所はあります)

その限定ちまきは、緑鮮やかな笹の葉包み。普段のちまきは茶色い竹の皮です。

昨年、おすすめされて大きな期待もせずに買った筆者は、このちまきに度肝を抜かれました。鍋から取り出した瞬間、キッチンに爽やかな山の香りが立ちのぼったのです。

端午節限定のちまきは、香りのよい笹の葉包み。

聞けば、乾燥の笹の葉ではなく、和菓子に使うグレードの笹の葉を何枚も組み合わせて粽を包んでいるとのこと。この香りだけでごちそうですね。

そして、笹の葉をそーっとはがしていくと、丹精な見た目のごはんが現れます。

食べ終わっても笹の香りが部屋に満ちています。

中に入っている具は緑豆、落花生、豚バラ肉、アヒルの塩卵、貝柱とオーソドックスな材料の組み合わせ。緑豆が多めに入っているのが、じゃがいもを蒸したかのようなホクホク感を生んでいます。きっと子どもも大好きな味でしょうね。

一帯に広がる笹の香り、口に入れたときにじゅわっと広がる脂、貝柱の旨味が持ち味の、季節限定の逸品です。

大珍食品公司の端午節限定ちまき

【2019年の販売期間】ゴールデンウィークから端午節(6月7日)まで
【特徴】塩味。香りが抜群。緑豆のホクホク感。
【合わせたいドリンク】おとなしめのお酒か中国茶。

端午節限定!同發売店の「瑶柱咸肉粽」は叉焼と小豆が入ったこだわりの味

ド派手な中華街大通りで、中国の老舗の貫禄を醸し出しているのが「同發」の菓子売店。大通りの喧騒の中で、ここだけ昭和50年台を思わせる佇まいが存在感を放っています。

「同發」は裏通りに大きな駐車場や菓子工場を持っており、メイド・イン・中華街をしっかり守っているお店。ここにも端午節限定でちまきが並びます。

風格のある外観は、入るのにちょっと勇気がいる感じ。その門を超えていこう。

具の貝柱や塩卵までは普通ですが、特徴的なのは皮付き豚バラ肉の焼物。明治時代の創業以来、窯で焼き上げる焼味(シュウメイ:専用窯でのロースト料理)が人気の同店では、名物を惜しみなくちまきに入れているのです。ファンならこのちまきも買わずにはいられませんね。

小豆が風味だけでなく見た目にも特徴的です。

そして、一般的には緑豆が入っていることの多い広東風ちまきですが、小豆が入っているのも特徴のひとつ。日本人に慣れ親しんだ小豆の味が、口の中でなぜか郷愁を誘います。

貝柱は他の具に紛れて見えませんが、豊かな旨味がもち米に染み込んでいます。ひと口食べて「ビールを持ってきて!」と叫びたくなりましたが、朝食でこれから仕事というタイミングだったので我慢しました。こちらも休日のランチにぴったりの一品です。

同發売店瑶柱咸肉粽(貝柱と豚肉のちまき)

【2019年の販売期間】5月中旬から端午節(6月7日)まで
【特徴】名物の皮付き豚バラ肉の焼物入り。小豆の懐かしい風味。
【合わせたいドリンク】ビール!

小さめでシンプル。萬珍樓の上品な「鶏ちまき」

豚肉入りが多い広東ちまきですが、「萬珍樓」売店をのぞくと「端午節 鶏ちまき」を売っていました。こちらは中華街ではあまり見かけない長細い形。正四面体ではなく牛角型です。

萬珍樓は牛の角のような形が特徴。

ゆで時間は10分。朝の忙しい時間にはありがたいですね。小さいサイズなので、ランチなど食事にするには少々足りないのですが、もしかしたら飲茶で提供しているのかもしれません。

鶏肉入りで小ぶりサイズ。

お味は、薄味で高級店らしいものでした。メインの具は、鶏肉のみというシンプルさ。しかしよーく味わうと、なんともよい味が染み込んでいます。朝ごはんにぴったりという印象を受けましたが、白ワインなどにもマッチするのではないかと思います。

萬珍樓の鶏ちまき

【2019年の販売期間】通年(通販あり)詳細はこちら
【特徴】牛角型。鶏肉入り。
【合わせたいドリンク】番茶、またはジャスミン茶など緑茶系

 

ちまきのゆで時間は長め&3分置こう

最後に、ちまきのゆで時間ですが、いくつかの店に尋ねてみると、大きさによって15分~25分(冷蔵品の場合)で、迷ったら長めにするといいとのこと。冷凍の場合はさらにプラス5分。熱湯にいれてから時間を測ってください。

また、ゆで上がったら3分ほど置き、ちまきの表面が乾いてから食べると、中がいい状態に落ち着くのでよいそうです。いつもは蒸し器やレンジ加熱の方も、こだわりのちまきを入手したら、次回はぜひゆでてみてくださいね。

大き目の鍋に湯をたっぷり入れてゆでましょう。photo by Takako Sato

横浜中華街 2019年端午節 ちまき販売スケジュール

横浜中華街では、端午節に合わせてちまきを作る店が多くあります。5月中にご紹介する関係で、今回詳しくご紹介できなかったものを含め、筆者が確認できた横浜中華街のちまき販売スケジュールをお知らせします。

菜香新館 4月下旬から
大珍食品公司および大珍楼(中華街大通り)ゴールデンウイークから
同發 5月18日(土)から
南粤美食 6月3日(月)予定 ※先行販売完了。店頭予約および店のTwitterで5月27日~5月29日予約受付予定
紅棉 6月5日ごろを予定
聚楽 6月に入ってから

 

ちなみにこちらは「南粤美食」の試作中の広東ちまき。特徴はササゲ(赤飯に入れる、小豆に似た豆)と、ピーナッツ、貝柱、塩卵入り。端午節用には竹の皮を使い、さらに豪華な内容になる予定とのこと。先行販売品を入手した人のツイートからは、高い評価が立っています。

ご紹介したお店

菜香新館(さいこうしんかん)
住所:神奈川県横浜市中区山下町192(MAP
TEL:045-681-2280
営業時間:平日11:30~21:30 土日祝日 11:00~21:30

大珍食品公司(だいちんしょくひんこうし)アウトレット
住所:神奈川県横浜市中区山下町130-3(MAP
TEL:045-681-2280
営業時間:主に土日祝日 14:00~16:00ごろ ※不定期営業

同發(どうはつ)中華菓子売店
住所:横浜市中区山下町148(MAP
TEL:045-681-2280
営業時間:11:00~21:30
無休

萬珍樓(まんちんろう)本店
住所:横浜市中区山下町153(MAP
TEL:045-681-4004
営業時間:11:00~22:00
無休


text & photo:ぴーたん
ライフワークのアジア樹林文化の研究の一環として、台湾・中国・ベトナム・マレーシアを回って飲食文化も研究。10数年前の勤務先で、江西省井岡山に片道切符で送り込まれたことを機に、中国料理の魅力に目覚め、会社を辞めて北京に自費留学。帰国後もオーセンティックな中国料理を求めて、横浜をはじめ、アジア各国の華僑と美味しいものについて情報交換をしている。