飲むように食べられる!ありとあらゆる火鍋でクレソン
最も簡単で、最もクレソンを大量消費できる食べ方は、「火鍋(鍋料理)」である。狙わんとするところは「上湯西洋菜」と一緒。香りも味もクセが強く、しっかりした食感のクレソンは、鍋のスープを吸っても個性を失わないので、配菜(鍋の具)にぴったりなのだ。
こちらは、とある火鍋店で頼んだクレソン。短く切り揃えることもなく、山盛りに出てくるのが現地流だ。
ちなみに、このとき食べていた火鍋は鮮鰐魚頭骨湯鍋。ワニの頭の骨でとったスープでワニの肉やモツを煮込んで食べるワニ鍋だ。ワニは白身魚と鶏肉を掛け合わせたような味と食感で、部位によって魚寄りになったり鶏寄りになったりするが、獰猛な見た目とは裏腹の淡白な味わいが特徴だ。
鴯鶓火鍋を食べたときにも、店員にクレソンを薦められた。鴯鶓とは、エミューのこと。オーストラリアにいるあのエミューである。四つ足以外は何でも食べると言われる広東に住むと、こういう食事が日常になるのであった(笑)。
もう少し穏当な火鍋を挙げるなら、潮汕牛肉火鍋だろうか。潮汕地区(広東省北東部)の名物料理で、中国では珍しく、牛骨ベースの濃厚なスープで牛の様々な部位をしゃぶしゃぶしたり、ブリブリの牛肉団子を煮たりして、客が自分好みに調合したタレをつけて食べる。
この鍋でも、クレソンは当然のように「配菜」として顔を出すのであった。
最後に、今ではなかなか食べられなくなってしまった僕の大好物をご紹介しよう。
ひと昔前まで、広州の冬の名物と言えば、香肉煲であった。香肉(香りが良い肉、美味しい肉)という名前の肉がたっぷり入ったこの料理の正体は何かといえば、犬肉鍋である。
広州の犬肉鍋は、シンプルかつ豪快な味付けが身上。薬味の生姜は丸ごと何個も入っているし、葱もぶつ切りがたっぷり。これに八角・陳皮をガツンと効かせるのが特徴で、あとの調味料は醤油くらいだ。
そして、「香肉煲に最も合う青菜は?」と広州人に聞いたら、恐らく最も多い答えはにんにくの葉だろうが、同率2位はクレソンと唐生菜(非結球レタス)ではなかろうか。クレソンの強い香気は、香肉の力強い旨味にもぴったり合うのである。
この記事を書くに当たって当時の写真を見返していたので、今、たまらなく香肉煲が食べたい。声ばかり大きい動物愛護主義者の抗議に嫌気が差し、広州の香肉煲の専門店が次々と閉店してしまったことは、中国食文化史上の痛恨事だと思う。
ということで、今回はクレソンをテーマに様々な中華料理をご紹介した。日本ではクレソンを大量に売っていないし、値段も高いので、日常的にクレソン料理を作るのはなかなか厳しい。クレソンがもっと安くなりますように!
尚、80C(ハオチー)からは全3回の連載を頂いたので、来月もまたお会いしましょう。お楽しみに!
今なお色褪せない名作!「中国全省食巡り」全15回はこちらから |
TEXT&PHOTO 酒徒