宴席の華!仔豚の丸焼き、どう焼いて、どう食べる?

ジューシーに焼き上げたダックやガチョウ、赤く艶やかに焼き上げられた叉焼など、焼味(シウメイ|siu1 mei2|燒味)は、広東料理を代表する美味だ。

香港や広東省にはこれらの専門店があり、日本でも本格的な焼味を出す店はあるので、きっと食べたことがある方も多いだろう。一方、基本的に注文でしか作らない焼味もある。それは乳豬全体(仔豚の丸焼き)だ。

乳豬全体(仔豚の丸焼き)。この日は3頭あった。

焼乳猪や烤乳猪とも呼ばれるこの料理は、現地なら常時提供しているレストランもある。しかし、その場合は片皮乳豬、すなわち皮のみ盛って提供されるのが一般的だ。

かたや、乳豬全体と呼ばれる仔豚の丸焼きは宴席の華。伝統的には結婚式や清明節の墓参りなどにも欠かせないもので、広東人の古いしきたりと繋がっている。

仔豚の丸焼きを作ってくれた香港出身の陳さん。職人のいい顔をしていらっしゃる。

「大珍楼」では、5階に設けられた仔豚専用の炭火の炉があり、特別な宴会でリクエストがあると、焼味専門の職人がスタンバイし、当日食べるタイミングで焼き上げてくれる。

我々の丸焼きを手掛けたのは、香港出身でこの道34年の陳さん。聞けば、香港の「鏞記(ヨンキー)」で腕を磨き、横浜中華街の広東料理の老舗で働いている、まさにその道の達人であった。

仔豚はまず内側を炙ってから、皮を色よく焼いていく。さまざまに角度を変えて炭火を当てると、みるみる色がついていく。

広東省の伝統的な技法には、飴を塗りながら鏡面状に仕上げ、肉ごと切り分けて提供する光皮乳猪があるが、今回は炙り焼いて爆ぜさせた皮をメインに食べる香港式の麻皮乳猪とのこと。

仔豚は1頭あたり5.5kgのハンガリー産が3頭。仕込みは前日に椒塩(山椒塩)や酒を塗り込み、酢や飴をかけて皮をしっかりと乾かしたものを、当日焼くという流れだ。

大きな炉から炭火の熱がぐわっと立ち上る。この一帯は、体感的に熱めの風呂と同じ42度くらいあったのではないかと思う。

仔豚の皮は元来ねっちりとしたコラーゲン質だが、部位によって厚みや質感が異なるため、適宜皮に穴を開け、油を塗りながら、サクサクとした食感に爆ぜさせる。最終的に、全体をこんがりと色よく、クリスピーに焼き上げるのが職人の腕の見せ所だ。

色よく焼き上がってきた仔豚。

こうして焼き上げた皮の食感は非常脆(スーパークリスピー!)。包丁で切り分けるそばからサクッ、パリッと弾むように軽やかな音を立て、食べる前から勝利を確信した。

目に電球を光らせるのもなぜか広東の伝統だ。光っていない仔豚を見たことがない…。

食べ方は北京ダックにも似て、自家製の割包(中に具を挟める饅頭生地)に甜麺醤を塗り、葱、黄瓜とともに豚の皮を一緒に挟んでガブリ!

片皮乳猪全体(仔豚の丸焼きの皮)。世界各地に豚の丸焼きはあるが、そのザクザクとした皮と対照的に、仔豚の皮は繊細で儚い。

焼き上げた皮の表面の凹凸は、仔豚ならではの繊細さ。口にすると、いったいどうしたらこんなにサクサクになるの?というくらい軽やかで、豚ならではのコクもしっかり。

1頭の仔豚から切り出される皮は24枚で、残った頭や脚は肉付きのままいただいたのだが、広東語では「乳豬」と呼ばれるだけあって、肉と皮を一緒に食べると、どこかミルキーな味わいが感じられた。

肉にも下味を入れてあるので、このままでも十分おいしくいただくことができる。

豚の丸焼きは世界各地にあるが、このように繊細な食感に仔豚を焼き上げる技法が確立しているのは、広東料理ならでは。また、仔豚を焼き上げるところから、切り分けて皮を食べ、さらに肉と皮とその間にある脂も一緒に食べ…という一連の体験ができるのは“乳豬全体”ならではといえる。

さて、次のページでは、この日最も原価をかけたスープ、そして料理の数々をご紹介しよう。

NEXT>お宝ゴロゴロ!至高の蒸しスープ「広東式佛跳牆(ぶっちょうしょう)」とは?