お宝ゴロゴロ!至高の蒸しスープ「広東式佛跳牆(ぶっちょうしょう)」とは?

この日提供された広東式佛跳牆。仕込みの途中、厨房で見せていただいた。

香港人や広東人は“スープ星人”だ。さまざまな食材を組み合わせた例湯(日々のスープ)は日本人にとっての味噌汁的な存在だし、街角のスープ専門店に立ち寄れば、体調に合わせて手軽に栄養補給もできる。

複数の生薬を取り合わせて一包にまとめた養生スープの素はあちこちで売られており、煎じて飲む漢方薬だって、考えようによっては精進スープみたいなもの。

一方、美食の観点から見ると、スープは食材のエキスを抽出した栄養とうまみの塊。液体そのものが至高の存在といえる。

過日、「大珍楼」の広東料理会で出された例湯(本日のスープ)。具をよけて、スープのみが碗に取り分けられる。(2022年5月撮影)

そんなハレの日もケの日もスープをたしなむ食文化において、スープ界の最高峰に位置付けられているのが佛跳牆(ぶっちょうしょう|fótiàoqiáng|フォーティャオチァン |簡体字:佛跳墻)である。

鶏や豚などの肉や家禽、金華ハムなどの加工品、フカヒレ、ナマコ、浮き袋など、海の乾貨を贅沢に使ったスープは、漫画『美味しんぼ』などでも紹介されているので、聞いたことがある人も多いだろう。

そんな佛跳牆は、清朝(1644-1912年)末期に誕生したとされる福建省発祥の料理。福州市にある「聚春園」がルーツの味を受け継いでいるとされる。

本場の佛跳牆は、80C(ハオチー)の記事「山口祐介の江南食巡り⑦ 聖地巡礼!中国の超高級蒸しスープ・佛跳墻(ぶっちょうしょう)発祥の店に行ってきた」でご紹介しているのでそちらに譲るとして、実は佛跳牆には2つの系統がある。

まずひとつが発祥の地の福建式だ。こちらは器を直火にかけて炊いて作り、福建老酒を香りづけに使うのが特徴。そしてもうひとつが、今回の宴席に出た広東式。こちらは海の乾物を多く用い、蒸して作るのが基本だ。

蒸すメリットは、壷の中の水分が激しく対流しないため、スッキリと透明感のあるスープがとれること。筆者の知る限り、日本の高級中国料理店で食べられる佛跳牆は、ほぼこの広東式で作られている。

佛跳牆の具を見てみよう

今回、壷の中に収まったのは、丸鶏、豚肉の塊、金華ハムに、干し鮑、大粒の干し貝柱、干しつぶ貝、魚の浮き袋、牛アキレス腱、どんこなどの乾貨をたっぷり。乾物はそれぞれに下ごしらえをするため、数日前からの準備が必要となる。

左奥より時計回りに、ヨシキリザメのヒレ、牛アキレス腱、魚の浮き袋、干しツブ貝、金華ハム、干し貝柱。この他に、海参や干し鮑、鶏や豚などの生の食材も入る。
今回の佛跳牆には吉浜産の干し鮑も入った。サイズは30頭(1個20g)!
佛跳牆の仕込みの真っ最中。

さらに、時間差でフカヒレ、ナマコも壺の中に投入。こちらは味を抽出する食材ではなく、味を含める食材なので、既にうまみが抽出されたスープの中に後から入れ、じんわりと味を含めていく。

乾物のナマコも数日かけて戻す。戻し終えたナマコは12cmほどの大きさに。
ナマコを処理する王立明料理長。奥には佛跳牆専用の壷が見える。

蒸したての熱々の状態でテーブルに運ばれた佛跳牆の壷は、蓋を取ると同時に、海の乾貨と動物性のうまみを湛えたふくよかな香りが、湯気にのってテーブルの上へと流れ落ちていく。その香りはやわらかに広がり、眼前の碗にスープとして蓄えられる。なんと贅沢なひとときだろう。

「取りますよー、はい、1、2、3!」栗原支配人の掛け声でカメラを構える我々。
スープはたっぷりの材料を使い、大きな器で仕立てた方がおいしくなる。
めいめいに取り分けられた佛跳牆。本日最も原価がかかっているのはこのスープ。もう1杯飲みたかった…

さらにこの日は、佛跳牆の中で味を煮含めたフカヒレ、ナマコ、出汁となった干し鮑を別の皿で仕立てて出すことに。なぜなら、それぞれスープに入れておくには立派すぎる大きさなので、陸会長のアイデアで、料理として提供することとなったのだ。

まず、1枚100gほどあるヨシキリザメの尾びれは、蟹と卵白の仕立てでフカヒレ姿煮となった。淡泊な中にもスープのしっかりとしたうまみがあるのは、いかにも広東料理らしい。

佛跳牆大排翅(佛跳牆フカヒレ姿煮)

また、干し鮑とナマコはこっくりとした醤油風味の煮込みで登場。ナマコは約12cmと想像以上に大きく戻っており、ぷるんと跳ね返る弾力を残した食感が身上。

干し鮑はブランドとして名高い岩手県吉浜産のもので、30頭(1斤600gあたりの個数=乾物の状態で1個20g)を使用。噛むとむちっと密度が高く、ミネラル感を蓄えた〝うまみの塊”と化していた。

佛跳牆吉浜鮑・佛跳牆海参(ナマコと吉浜産干し鮑)。干し鮑のサイズは30頭だ。

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