熊の掌、伊勢エビ、アカハタの蒸しもの…点心アソートまですべてがクラシカル

ここからは、当日提供された料理をさらりとご紹介していこう。まず、前菜盛り合わせに始まり、前出の仔豚の丸焼き、佛跳牆とフカヒレ、干し鮑、ナマコの煮込みを経て、熊の掌の特製煮込みが登場した。

和味紅焼熊掌(熊の掌の特製煮込み)。周囲に散らしたのは、揚げたうずらの卵とブロッコリーだ。

この日は群馬県から入荷した若齢の熊の掌を、醤油味の紅焼(ホンシャオ)で仕立てていた。掌は小ぶりだがぷっくりしており、指に合わせて包丁を入れると、生の鶏モモ肉ほどの厚みがある。

和味紅焼熊掌(熊の掌の特製煮込み)。指に沿って包丁を入れた状態。

断面は半透明のコラーゲン質が厚めの層になっており、ねっとり、ぷるりとした食感が身上。大きな熊の掌の場合、肉もしっかりついていることが多いので、小さい掌のほうがよりぷるぷりした部分が多いのだろう。

続いては伊勢海老の水晶炒めだ。水晶とは透き通るような透明感を表現しており、調理法は清炒、すなわちすっきりとした塩味の仕立て。海老の身の下には黄ニラの炒めが隠れている。

水晶炒大龍蝦(伊勢海老の水晶炒め)。殻に対して身は少ないので、実際には卓数より多い伊勢海老を使っている。

周りに並べた三角形の食材は、揚げたトーストにバターの組み合わせ。陸会長曰く、伊勢海老の爪を表現しているとか。このあたりのセンスはザ・オールド広東だ。

続いて魚の蒸しものが登場。こちらも宴席には欠かせない料理で、本日の鮮魚はアカハタだ。蒸し魚といえばハタは王道中の王道。香港から戻ったばかりの会長も、口にするやいなや「現地よりおいしい」と納得の味であった。

清蒸大海斑魚(赤ハタの蒸し料理)。提供前に、ネギの上に熱々の油をかけて香り高く仕上げる。

食事の〆となるのは、もち米を詰めた地鶏の丸揚げ。中抜きした丸鶏に、加熱済のおこわを詰めてこんがりと揚げた、重量級の一品だ。鶏の腹を切り分けると、鶏のうまみが染みたおこわがたっぷり。腹パンでもするりと入ってしまうから怖い。

鳳呑炸檽米飯(地鶏の丸揚げ もち米詰め)。鳳呑とは鶏に詰め物をした料理に用いられる料理用語。

デザートも他の料理に負けない“格”があった。パパイヤの種を取り、実を残したまま器に仕立てたものに、燕の巣のシロップ煮がこれでもか!と入った、温かい糖水(デザートスープ)である。

燕窩燉萬寿果(パパイヤの器入り海燕の甘味)

燕の巣は掃除が大変な食材のひとつ。シンプルに氷砂糖で味付けしており、すくいとったパパイヤを合わせて南国の味を楽しんだ。

そして最後に振る舞われたのが、甘い点心の盛り合わせ。大きな皿に、自然を模して華やかに盛り付けられた点心は、まるで拼盤(ピンパン:皿に食材で絵を描くように盛り付けられたもの。よく前菜に用いられる)のようだ。

像生甜拼点心(甘味甜点心盛り合わせ)。フランス料理のミニャルディーズ的なポジションだが、世界観は全く異なる。

点心はそれぞれピーナッツ餡や、蓮の実餡、小豆餡、カスタード餡が包まれており、どこか素朴で不細工な表情もたまらない。

洗練されすぎない素朴さもまたオールド中華の味わいだ。

全13品が出し終わったところで、料理長の王立明さんが登場。「今日はやり切った…!」という清々しい表情と贅を尽くした料理に、会場にいる全員から大きな拍手が贈られた。

「大珍楼」の今のチーフは潮州出身。

こうして4時間にわたる「廣東官府菜」の会は無事お開きに。横浜の中にあるオールド広東の宴会場で、技巧を尽くしたド迫力の料理は、円卓を囲んだ各人の心に深く刻まれたことは間違いない。

大珍楼
住所:神奈川県横浜市中区山下町143(MAP
TEL:045-663-5477
営業時間:11:00〜21:00
不定休
オフィシャルサイトX(旧Twitter)

参考文献
小吃技术培训「烤乳猪,广东人爱吃光皮还是麻皮?
横浜中華街オフィシャルサイト「中華街小故事 その6 中華街がグルメの街になったワケ


TEXT&PHOTO サトタカ(佐藤貴子)