焼けた葱の香りが食欲をそそり、サクサクの生地がやみつきになるねぎ餅。台湾では、街のあちこちでみるファストフードで、葱油餅ツォンヨウビン|cōng yóu bǐng|蔥油餅)、または葱抓餅ツォンジュァービン|cōng zhuā bǐng|蔥抓餅)の名前で親しまれています。

作り方はシンプルです。小麦粉で作った生地を伸ばし、表面に油を塗ってねぎを巻き込み、薄く伸ばしてから、焼くOR揚げたらできあがり。食べるときは、できたてをそのまま味わうのもよし、卵やベーコン、ソーセージ、野菜をのせたり、巻いてもOK。いろいろな食べ方ができるので、飽きが来ないのも魅力ですね。

最近は日本でもねぎ餅が楽しめる店が増え、冷凍食品でもいろんな商品が選べるようになりました。そこで当記事では、台湾のねぎ餅(葱油餅・葱抓餅)にフォーカス。店や家でとことん楽しめる情報をお伝えします!

台湾のストリートフード「葱油餅(ツォンヨウビン)」の歴史

今では台湾各地に見られるねぎ餅ですが、発祥の地・中国から台湾へ持ち込まれたのは、中国東北地方からという説が有力です。

中国の北部は粉ものの種類が豊富。台湾のねぎ餅専門店の店名には、天津や山東など中国北方の地名が入る店もあるので、そこから台湾に渡ってきた可能性もあります。

台北「天津蔥抓餅」 photo by Yuka

時代を振り返ると、1949年以降、国民党と中国から台湾へやってきた新移民(外省人)のために、台湾には眷村(ジュァンツン|juàn cūn)と呼ばれる居住地が設けられました。

陳玉箴の『「台湾菜」の文化史』によると、当時この地域の住民は、公的機関からの給与だけでは暮らしが厳しく、副業で郷土料理を作っていたとあります。そのメニューの1つがなんと葱油餅。このことを鑑みても、葱油餅が外からやってきたことは間違いないでしょう。

同じ“ねぎ餅”でも、葱油餅と葱抓餅はどう違う?

ところでこのねぎ餅、台湾では葱油餅(蔥油餅)・葱抓餅(蔥抓餅)と2つの呼称があります。これはどういうことなのでしょうか。

実際、台湾でも「何が違うの?」といった記事を見かけたり、葱油餅の人気ランキングに葱抓餅の名を掲げる店がランクインしていることがあります。そこで、台湾のみなさんにヒアリングしてみると、両者の違いが見えてきました。

葱油餅(ツォンヨウビン)の特徴

[焼き方]多めの油で揚げることが多い。
[かたち]ねぎを巻き込んだ生地を平たく丸く伸ばしたものや、少し厚めの生地にねぎの餡がたくさん入るものがある。
[食感]表面パリッ、中はモチモチ。

「點水樓四谷別館」の葱の包み揚げ

葱抓餅(ツォンジュァービン)の特徴

[焼き方]抓(zhuā|ジュァー)は“つまむ”という意味。焼き上がる前に、トングでつまんだり、ヘラなどで層を持ち上げるようにして回し、パイのように生地の層をしっかり出す。
[かたち]生地の層が見られる。焼き上がったら、ピッツァをカットするように、八等分ぐらいに切り分けて提供することが多い。
[食感]外側はサクサク、中は空気を含んでふんわり。

台北「忠將蔥抓餅」の九層塔蛋蔥抓餅。九層塔は台湾料理によく使われるバジル。卵もたっぷり入っている
台北「天津蔥抓餅」 photo by yuka

こうして比較してみると、生地の伸ばし方、油の中での揚げ方、層の出し方、卵と生地のつけ方、提供の仕方(レトロな紙袋多数)など、両者の違いは意外とあります。下の動画を見ていただくとわかりやすいです。

葱抓餅は台湾独自の進化形⁉ 

また、葱抓餅のルーツは油旋ヨウシュァン|yóu xuán)ではないかという説もあります。

油旋は中国北方に位置する山東省の省都・済南市の名物。外はカリッ、中はふわっと揚げた、ネギ入りの粉ものです。らせん状に巻いて成形するのが特徴で、たしかに小さな葱抓餅のようにも見えますね。

山東省済南の「油旋」。朝ごはんやおやつにまとめ買いする人も多い photo by Takako Sato

現在、中国では「台湾式葱抓餅」も食べられていますが、これが台湾で徐々に形を変え、台湾式に進化した油旋だとしたらおもしろいですね。台湾でメジャーな葱抓餅の冷凍食品工場は中国にもあるので、その可能性もゼロではないはず。

ちなみに、中国の軽食ブランド「粮全其美(リャンチュエンチーメイ|liáng quán qí měi)の冷凍ねぎ餅のパッケージは、台湾のスター・周杰倫(ジェイ チョウ)が写っています。そして、商品名は「葱油餅」ですが、パッケージ写真は「葱抓餅」なのです。

中国産「粮全其美」葱油餅。パッケージには周杰倫が

葱油餅・葱抓餅だけじゃない⁉ 台湾はねぎ入り粉もの天国

葱油餅・葱抓餅と呼び名が分かれているだけでもややこしいのですが、台湾にはそれ以外にも、葱餅、葱花餅、手撕餅(ショウスービン)、筋餅(ジンビン)、葱と肉が入った葱花肉餅など、ねぎ入りの粉ものがいろいろあります。

東北地方から伝来したと思われる筋餅。かなり薄くて層がある photo by 浅草豆花大王

以前、台湾の友人におすすめの葱油餅・葱抓餅の店を聞いたら、朝ごはんによく食べる蛋餅(ダンビン)の店を教えてくれたことがありました。もし、蛋餅までも“ねぎ入りの粉もの”の仲間になるとしたら、バリエーションはかなりありそうですね。

蛋餅(紹介記事はこちら

葱油餅・葱抓餅について理解が深まったところで、次のページでは首都圏で食べることのできるお店をご紹介します。

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