中国で生活して土地のものを食べていると、「日本にはなぜこの料理や調理法がないのだろう」と思うものに度々出合うことがある。今回ご紹介する地三鮮(ディサンシェン)もその一つだ。
ジャガイモ、ナス、ピーマン、3つの野菜の炒めもので、もとは中国東北料理とされる地三鮮。しかし現在は東北地方に限らず、中国家庭料理として少しずつローカライズされながら、中国各地に普及しているようだ。食材はいずれも日本でも身近なものだが、なぜか日本ではあまり見ない。

地三鮮と運命の出合い
私、アベシが地三鮮と出合ったのは、上海近郊の地方都市・常熟市に駐在していた頃だ。
常熟市は、ちょっと前まで日本では無名の武漢市駐在者から「マニアックなとこに住んでますね~」と言われるほどの無名な街だが、100社以上の日系企業が進出しており、日本料理店も多い。
私も赴任当初こそ日本料理店に通っていたが、安くて美味くて圧倒的に選択肢が多いのは、当然ながら中国料理である。なかでもアパートのすぐ裏にある「再兴饭店(再興飯店)」に踏み入ったことは転機となった。

ここはテーブルが2個並んだだけの小汚い定食屋で、よくある家族経営の小さな店。同世代と思しきお兄ちゃんの腕は確かで、何を頼んでも8割方うまい。そしてビールを1本つけても20元弱(約300円)という安さ。
当時は「中華と言えばマーボーにホイコーローにチンジャオロース」という世界観から抜け出せていなかったが、この店で翻訳アプリ片手にメニューを一つ一つ解読しながら、現地で一般的な料理の名前と味を覚え、ローカルフード中心の食生活へとシフトしていった。
そこで出合ったのが、今回ご紹介する地三鮮(ディサンシェン)である。
この地三鮮が、とろとろのナス、ほくほくのジャガイモに醤油ベースのピリ辛な味付けで、ご飯が進むこと進むこと。
思えば、初めて食べた一皿は唐辛子の入った四川風の味付けで、東北風のスタンダードな味わいではなかった。しかも今見ると、肉まで入っている。しかし初めて食べたとき、いかにも日本の定食にありそうな味で、全く違和感なく美味くて驚いたことを思い出す。
さらに地三鮮は駐在員仲間のみならず、店の汚さにかなり引き気味な日本からの出張者の舌をも魅了した。
恐る恐る一口食べれば「あれ、普通にうまいじゃん」となり、台湾、韓国からの出張者にも概ね好評。地三鮮はいつしか国と地域を超え、仲間内での人気No.1メニューとなっていたのである。
