麻辣拌(マーラーバン:málàbàn)という軽食をご存知でしょうか?
X(旧Twitter)で80C(ハオチー)のアカウントをはじめ、中国の食をチェックしている方は、見覚えがあるかもしれませんね。

それぞれの投稿が記しているように、麻辣拌(マーラーバン)=汁なし麻辣燙(マーラータン)という例えがイメージしやすいでしょう。しかし、これが四川料理でも、麻辣味でもないのです。

麻辣拌(マーラーバン)の発祥と由来

花椒の痺れと唐辛子の辛さが特徴の麻辣(マーラー)といえば、四川省を代表する味覚のひとつ。その字を使っているということは、麻辣拌(マーラーバン)も四川発祥…?

そう思いきや、麻辣拌の発祥の地は、四川省から遙か遠く、東北地方の遼寧省撫順(抚顺:フーシュン)。省都・瀋陽の東に位置し、市境を吉林省と接する都市なのです。

では、なぜ麻辣拌(マーラーバン)は撫順で生まれたのでしょうか。そこには、料理がつくられた時代背景と、寒冷地である東北の気候が関係しています。

時を遡ること30余年、1990年代の撫順は、国有企業改革と、露天掘りをしていた炭鉱の枯渇による石炭業衰退の影響が相まって、多くの労働者が下崗(シャーガン:xiàgǎng:下岗)、つまり契約はあっても職のない状態に陥りました。

そんな折、撫順に四川名物の麻辣烫が到来します。麻辣味のスープにたっぷり具が入ったこの軽食はボリューム満点。刺激的な味わいで、安価でお腹いっぱい食べられるとあって、人気はみるみる急上昇!

そこで仕事のない労働者たちはブームに便乗し、麻辣燙の専門店を次々と開業します。しかし、同業者はすぐに増え、競争は激化するばかり。そこで、ある夫婦は考えたのです。

「東北の寒冷地暮らしに合わせて、油、塩、刺激をしっかり効かせた調味がよいのでは?」
「スープは味わいを薄めるから無くして、濃厚なタレで具を混ぜればよいのでは?」

これを麻辣拌(マーラーバン)として売り出したところ大当たり。麻辣拌は多くの人々を魅了し、撫順グルメの代表格となった…というわけです。

麻辣なのに麻辣味ではない?撫順麻辣拌の特徴とは

そんな撫順の麻辣拌は、麻辣といいながらも、正確には麻辣味ではありません。

調味だれには、塩・唐辛子のほか、黒酢・砂糖・胡麻油・クミンを用い、麻(マー:花椒の痺れ)はなく、辛さは控えめ。調味料とスパイスの配合で表現される味わいは、麻辣ではなく、甜酸(甘酸っぱさ)、咸辣(塩辛さ)です。

なお、四川省の味をルーツに、中国東北地方で発展した東北麻辣燙は、ゴマだれ(麻醤)が“灵魂(味の要)”です。しかし、同じ麻辣燙がルーツでも、麻辣拌には基本的にゴマだれが入らないのは興味深い現象です。

とはいえ、時代とともに麻辣拌の味は多様化しています。撫順のみならず、中国各地に麻辣拌が広がると同時に、調味の幅も広がり、ゴマだれを使うこともあるとか。また、店名にも撫順だけでなく四川や重慶を頭に付け、リアルに麻辣な味わいを提供している店もあるそうです。

さらに、汁の有無、味付け以外にも麻辣燙との違いがあります。

それは、麻辣烫が具を自由に選べるのに対し、麻辣拌はあらかじめ具が決まっている点です。ただし、多くの店では使われている具の範囲内で増減のリクエストに応じてもらえるほか、唐辛子・黒酢などの調味料の増減が可能。自分好みの味に調整できるのは安心ですね。

次のページでは、日本でまだ希少な撫順麻辣拌を体験できる2つの店をご紹介します。

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