四川人不怕辣,湖南人辣不怕,貴州人怕不辣(四川人は辛さを恐れず、湖南人は辛くとも恐れず、貴州人は辛くないのを恐れる)。

中国各地の料理のなかでも、特に“辣(ラー:唐辛子の辛さ)”への愛や強さを表す言葉として、80C読者の皆さんなら、一度は目にしたことがある言葉でしょう。

一体どれだけ辛いんだ……そんな緊張感を抱きつつ、興味も尽きない“辣”の世界。ここ数年、日本各地で現地さながらの辛さを楽しめる店が増えていますが、四川料理店が圧倒的に多いようです。例えば、麻辣(マーラー:花椒の痺れと唐辛子の辛さ)味は、菓子のフレーバーにまで登場するほどすっかりポピュラーになりましたよね。

そしてここ最近、その勢いに負けじと存在感を上げてきているのが、湖南料理(中国語で湘菜)です。

新宿歌舞伎町・大久保・高田馬場・上野・池袋・大塚・錦糸町・亀戸・三軒茶屋・横浜中華街…。東京周辺だけでも「湖南」や「湘」の字を冠した店は各地に続々と姿を現しています。

そこで当記事では、湖南料理を5つのジャンルに分けて、注文必須の料理をご紹介。「本格湖南料理 李厨 高田馬場店」のメニューを参考に、レストランに行く前に役立つ“湖南料理の歩き方”を指南します。

本格湖南料理 李厨 高田馬場店

湖南省の省都・長沙出身で、現地の名店「毛家飯店」に務めた経験を持つ李シェフが腕をふるう店。「李厨」グループ率いる湖南料理店第一号店(2017年2月オープン)であり、現在は同一経営のもと、上野店および姉妹店の「湘遇TOKYO」(高田馬場・大塚)の合計4店舗を展開。現地系湖南料理店のパイオニアであり、牽引する存在となっています。

 

1:発酵唐辛子&青唐辛子の料理を注文しよう!

湖南料理の辛さの特徴は、酸辣(酸っぱ辛い)鮮辣(ストレートで強烈に辛い)。その辛さは単純ではなく、赤・青・黄さまざまな唐辛子を生のまま、または乾燥させたり、漬けるなどして加工し、1種類のみならず、数種類を組み合わせることで生み出されています。

生の鮮やかさ、乾燥させた深みのある濃さ、漬けた唐辛子の艶やかな光…。見た目の豊かな彩りからも、食欲をそそられる湖南の“辣”。具体的にはどんな料理があるのでしょうか。

酸味が決め手!湖南式・魚の頭の発酵唐辛子蒸し「剁椒魚頭(ドゥオジャオユィトウ)」

まず、何はなくとも注文したいのが、唐辛子を刻んで漬けて発酵させた剁椒(ドゥオジャオ)をビッシリのせた、魚の頭の蒸しものです。

剁椒魚頭(剁椒鱼头)

剁椒は湖南省の中でも特に西部の人々の思い入れが強いといわれ、無辣不歓、無酸不入口(无辣不,无酸不入口:辛くなきゃがっかりだし、酸っぱくなきゃ口にしない)という言葉もあるほど、酸味も重要な要素になっています。

魚は日本では鯛を用いることが多いですが、写真の魚は鮰魚(鮰鱼:フゥィユィ:huíyú)を丸ごと一匹。ナマズの仲間で、上海では鮰老鼠、四川では江団(江团)、貴州では習魚(习鱼)とも呼ばれます。鱗や細かい骨が無いので食べやすく、身はプルンと柔らか。

まろやかな酸味を持つ剁椒は、タレをしっかり吸うとさらにうまみを増すため、魚だけ食べておしまい、ではありません。残った骨を皿から取り除き、タレが残った皿に麺を投入! 拌麺(和え麺)にして2度味わうのが現地流。

そのおいしさは、しっかり麺に絡ませて啜ると「ちょっと!魚よりむしろこっちがめっちゃ旨いぞ!」との声があがるほど。注文時は、料理名に続けて「吃後放面!(吃后放面:チーホウファンミェン:食べた後に麺を入れるよ)」と告げましょう。

※写真の料理名は、正確には剁椒魚になりますが、湖南料理として有名なのは剁椒魚頭であるため、基本の料理名として剁椒魚頭を表記しました。

生唐辛子が主役!「小炒肉(シャオチャオロウ)」と「小炒牛肉(シャオチャオニウロウ)」

唐辛子を使った料理というと赤いイメージがありますよね。それだけに、これらの料理は見た目の印象から油断しがち。ですが…この青生唐辛子が、鮮烈に辛い! 肉料理のように名乗っていながら、実は生唐辛子が主役なのです。

小炒肉。またの名前を辣椒炒肉。

小炒肉は、その実態を示すように、辣椒炒肉(ラージャオチャオロウ)とも呼ばれます。中国で「肉」というときは豚肉を指すので、牛肉で作る場合は小炒牛肉(シャオチャオニウロウ)。さらにごはんのおかずになる牛肉料理という意味で、下飯牛肉(下饭牛肉:シャーファンニウロウ)と書かれることもあります。

小炒肉の牛肉バージョン、小炒牛肉。

口中火を吹きそうに鮮辣(ストレートで強烈な辛さ)が駆け抜けますが、ほんのり甘い余韻が残るのがなんともクセになります。「下飯」の通り、この料理は白飯がとにかく進む! 湖南人が家庭でも店でも食べる心の味として覚えておきたい一品です。

鮮辣×燻香!生青唐辛子と燻製豆腐を炒めた青椒香干(チンジャオシャンガン)

生の青唐辛子×豚肉=小炒肉ですが、青唐辛子のパートナーが肉から香干(燻製豆腐)にチェンジすると青椒香干(チンジャオシャンガン)になります。

水分が少なく、燻香をまとった豆腐と、青唐辛子の鮮辣な香りと味わいの組み合わせは、歯ごたえもよく、口の中で噛みしめるほどにおいしさがじわり。ごはんとの相性はもちろん、酒のおつまみにもいいですね。

潰せば潰すほど美味くなる!? 唐辛子とピータンを摺り潰した「擂椒皮蛋(レイジャオピーダン)」

激辛唐辛子のパートナーが皮蛋にチェンジした擂椒皮蛋(レイジャオピーダン)。こちらは四川料理でもありますが、湖南省でもおなじみの一品です。

すりこぎ棒で全体をしっかり潰しながら混ぜ合わせると、皮蛋の黄身がねっとりと絡まり、全体のまとめ役に。こちらも最強のご飯の友!

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