横浜中華街に行ったら、どこで何を食べればいい? 魂が震える本物の味はどこにある…? 当連載は、横浜で美味を求める読者に向けた横浜中華指南。伝統に培われた横浜の味と文化をご紹介します。
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カレーの香りをほのかにまとった「東林」の排骨麺
夏は豚肉が食べたくなりますね。特に油っこくない、身がほのかにロゼ色に仕上がった豚肉に惹かれます。そこで開店と同時に飛び込んだのが「東林」。筆者も最近まで知らなかったのですが、こちらの麺は自家製です。
前回訪れたのは20年近く前で、覚えているのはすごくおいしかったことだけ。しかし、また行きたくてもいかんせん、中国料理の宴会は人数が必要。でも麺だけだったら行ける!どうしてもおいしい麺が食べたい!と、福建路を目指しました。
オーダーしたのは排骨麺ですが、これが大当たり。麺は思ったとおりの仕上がりで、いい粉と適切な加水で作られた麺特有の「小麦が香る感覚」が鼻に抜けてきます。これはわざわざ来た甲斐があったと実感。横浜中華街であれば近くに製麺所もありますし、買ってくればいいものなのに、敢えて手作り。その心意気がさらにおいしさを増してくれます。
そしてスープは鮮度よく上品。なにより揚げた排骨が乗っているのに、スープに油が浮かんでいないのです。いったいどんなマジックを使っているのでしょうか?
排骨はほのかにカレー風味です。中華でカレー風味の料理には、個人的にあまりいい思い出がありませんでしたが、この排骨の香りときたら、強すぎず弱すぎずの絶妙なバランスのカレー味。
カレー粉入りの揚げ物にしたら油に香りが移ってしまうため、家ではできない揚げ物というところに背徳的な罪悪感を感じながら、ロゼ色の絶妙な火の通しの排骨をガブリ。行列で有名な蒲田のとんかつの名店と「東林」の排骨をどちらか選べと言われたら、私なら迷わず「東林」です。
がっつりいこう!帰ってきた「海員閣」の豚ばらそば
海員閣は中華街の路地にある超有名店。昔から長蛇の列で、家族で入るのは難しかったため、筆者も行けるようになったのは近年のこと。一人の時に行列のタイミングを見計らって行くようになりました。
子供の頃からの夢だった店は、うん、子供のころに入らなくてよかったと思ったのでした。名前からして海で働く労働者の食堂。なにしろ量がドカッと多く、調子に乗って注文したら絶対食べ切れない分量になることは目に見えていました。
少なくとも女性には食べきれない、そんな話をしていたら、職場の女性がやはり食べきれなくて泣きそうになったとか。運よく相席の海の男たちが助けてくれたのだそうですが、いや、それナンパされたのでは…。
さて、そんな同店、去年から今年にかけてオーナーシェフの代替わりがありまして、男性でも見たら不安になる盛りのよさが常識的なものになりました。また、味は荒々しさが抜けて上品になった気がします。おいしいものを食べて育った、横浜華僑の店らしい味わいで、塩加減が絶妙です。
かつては中華街に最後に残ったコークスを熱源にする古風な店でしたが、代替わりに伴ってガス火力になったそう。味が変わった、変わらないと皆さんが噂をしていますが、それもお客さんから愛されているからでしょう。
記憶の中では、同じ豚ばら煮込みでも、先代の味は一口目からガツッと、腹ペコで仕事を終えた海の男の胃袋を掴んでくるイメージがありました。そして量も味のうち。
代替わり後は、最初はあっさりしたスープであるものの、徐々に豚バラ肉から染み出る脂が加わって、スープと交じり合うような柔らかな風味が、味わいに立体的な景色を与えてくれます。
盛りのよさは以前より控えめになったとはいえ、この庶民的な値段でどうやって作れるのか?というくらい、巨大な豚バラ煮込みがのった麺。完食すればかなりのボリューム感で、食後は気持ちいいほど汗をかけます。
文中でご紹介した店東林(とうりん) 海員閣(かいいんかく) |
text & photo:ぴーたん ライフワークのアジア樹林文化の研究の一環として、台湾・中国・ベトナム・マレーシアを回って飲食文化も研究。10数年前の勤務先で、江西省井岡山に片道切符で送り込まれたことを機に、中国料理の魅力に目覚め、会社を辞めて北京に自費留学。帰国後もオーセンティックな中国料理を求めて、横浜をはじめ、アジア各国の華僑と美味しいものについて情報交換をしている。 |