横浜中華街に行ったら、どこで何を食べればいい? 魂が震える本物の味はどこにある? 当連載は、横浜で美味を求める読者に向けた横浜中華指南。伝統に培われた横浜の味と文化をご紹介します。 ◆目指すゴールとコンセプトはコチラ(1回目の連載)でご覧ください。 |
“おいしい”か“おいしくない”かではない。“よそゆき”か“普段着”か、それが重要だ!
横浜中華街の肉まんをご紹介するにあたり、最もおいしいところはどこか?と考えていた筆者。しかしリサーチをすすめていくと、そういう観点は見当違いだと思うようになりました。
結論を言ってしまうと、大きく分けて、完成された“よそゆきの肉まん”と、素朴で家庭的な“普段着の肉まん”があるのです。
例えば、ぶっちぎりで有名な中華街の肉まんといえば「華正樓」。醤油風味の肉餡は、食べるたびその旨さに驚きますし、大きさも立派で、我が家の蒸し器だと天井がつかえてしまうほど。賞味期限がとても短いのは、保存料など混じりっ気なしの証。これを晩ごはんの主食兼メインにしてもいいほどで、もらっても、贈っても嬉しい、横浜中華街の横綱土産と言えるでしょう。
それとは別に、むしょうに食べたくなるのは、筆者が北京留学、もとい中華修行時代にいつも食べていた肉包(肉まん)と菜包(野菜と漬物入りまんじゅう)です。
私は朝ごはんの店に手作りの包子(中華まん)がある場合、翌日の朝食のために買う習慣があったのですが、これがとてもバリエーション豊かで楽しい。北京の肉まんは小さめで、不格好だったり、毎回味が違っていたりと適当なところも多いのですが、3日に1度は包子を食べていました。
「華正樓」の肉まんは、とっておきのごちそうです。でも、地元の人が毎日食べるものかというと、そうではない。あるとき、横浜育ちの華僑の知人が「(亡くなった)かあちゃんの肉まんが食べたいなぁ」とつぶやくのを見たとき、華僑にも、筆者の北京時代に食べていたような“普段着の肉まん”があるのだと気づきました。
そこで今回のコラムでは、あえて有名なよそゆきの肉まんではなく、横浜華僑のおふくろの味、格好つけない味わいの手作り肉まんを、深掘りしていきたいと思います。
中華街のロプノール湖?週末午後に数時間のみ現れる、幻の売店を探せ!
当連載でも何度かご紹介している「大珍楼」は、中華街大通りから中山路を下り、関帝廟通りを超えたところに点心工場を構えています。
りっきーさんの愛称で親しまれている、社長の鈴木陸さんに聞いてみると、ここで作られる肉まんの数は1日3,000個ですべて手作り。彼のおばあさんが明治44年(1911年)に広東省から来日し、屋台で「中華饅頭」や「肉包」として販売を始め、昭和22年に店舗を持った際、肉まんと名付けて売り出した歴史があるそうです。
そんな肉まんのレシピは創業当時とほぼ同じ。有名店ゆえに高級志向かと思いきや、これが多くの日本人のイメージする肉まんの標準スタイルから離れた、キャベツの甘みを感じる、塩味ベースの家庭的な味わいなのです。
餡には豚肉、玉ねぎが入っていますが、もはや「キャベツまん」と言っていいほどキャベツが主役級。これが、中国で朝に食べるイメージにぴったりの菜包を連想させる味で、筆者の北京の朝ごはんを思い出させる「普段着の肉まん」のベンチマークになっています。
もしかすると、味の濃い肉まんに慣れた人は「なんだこれ?」と思うかもしれません。しかし大衆に迎合せず、家伝の味を守っていると思うのです。
ちなみに、この肉まんに入っていそうで入っていないのは干し椎茸。ですが、こちらは醤油味の豚まんに入っています。ぜひ好みの味がどちらか食べ比べてみてください。いずれも後味がしつこくなく、朝食にふさわしい、質実剛健な味わいです。
そしてもうひとつ、特筆すべきは販売場所。肉まんそのものは中華街大通りの「大珍楼」でも売っているのですが、どうせ行くなら土日祝日の午後2時~4時の間に、点心工場「大珍食品」の前に現れる売り場に行ってみてはいかがでしょう?
なぜならここは工場直売、職人の手売り。運がよければ、試作品や限定品などが並ぶこともあるんです。
社長のりっきーさんは、毎朝始発前に出社し、朝6時から生地の発酵作業、午後はできあがった点心の配達をこなし、休日午後には奥さんとこの工場前で販売しています。作り手と交流しながら肉まんが買えるなんて横浜中華街ならでは。そんな体験、楽しいと思いませんか?
横浜中華街肉まんファイル①|大珍楼(大珍食品)の肉まん 調味の方向性:塩味×野菜 風味と魅力:キャベツのフレッシュな味わいが生きている。粉の香りがしっかり。広東人のおばあちゃん伝承の味。 合わせたい飲み物:繊細さを壊さない煎茶か、発泡系白ワイン |