横浜中華街に行ったら、どこで何を食べればいい? 魂が震える本物の味はどこにある…? 当連載は、横浜で美味を求める読者に向けた横浜中華指南。伝統に培われた横浜の味と文化をご紹介します。 ◆目指すゴールとコンセプトはコチラ(1回目の連載)でご覧ください。 |
立冬を過ぎ、朝晩ぐっと冷え込むようになると、鍋が恋しくなりますね。
親しい友人たちとの忘年会は「鍋が楽だから和食系だよね」という声もありますが、筆者はあえて横浜中華街を目指します。なぜなら、この時期ならではの冬の広東料理・山羊鍋を友人に食べさせたいからです。
日本で山羊を食べるというと、ヨーロッパ産のチーズや沖縄料理のヤギ汁など限定的。しかし山羊肉そのものは、アジアで広く食されているものです。特に中医学においては、冬に養生すべき「腎」の働きを良くし、滋養強壮によいとされる食材。この時期食べるのは身体にもいいというわけです。
中国で羊はヒツジか?ヤギなのか問題
ところで「なぜ羊ではなく山羊なのか?」という話ですが、広東省において、羊といえば基本的には山羊。中国ではヤギもヒツジも羊と書き、地域によって飼育しやすいどちらかを指すようです。
また、山羊鍋は広東系華僑の多いベトナムでもポピュラーなもの。昨年、山羊鍋を研究テーマにした筆者は、アジア各地のヤギ鍋を食べに行っていましたが、沖縄、台湾、ベトナムのいずれも透明なスープでした。聞くところによると、上海の山羊鍋も透明なスープだとか。
ところが、広東省だけは濃厚な茶色いスープだったのです。そして広東式が一番美味しいと個人的に思います。
しかし、横浜中華街で山羊鍋を出す店はごくわずか。以前は広東伝統料理メニューとして「大珍樓」が長く冬のメニューに載せていたのですが、2017年から一時的に提供を中止しています。
2018年現在、筆者の知る限り、提供しているのは「美楽一杯 本店」だけ。テレビや雑誌の香港特集などで紹介されることもなく、あまり知られてはいませんが、広東の冬の庶民の味として、ぜひ一度食べていただきたいと思っています。
広東山羊鍋、その味とは?
そんな広東式の山羊鍋の特徴は、こっくりとした色合いの茶色いスープにあり。「美楽一杯 本店」の味付けは、オイスターソース、柱候醤、当帰(とうき)をベースに、紅南乳、白腐乳、生姜、にんにく、ごま油に酒を少々。ぱっと見は濃そうに見えますが、飲めばとても滋味深い味です。
ちなみに山羊といえば「アルプスの少女ハイジ」で見るような、可愛らしいイメージがある方もいらっしゃるはず。しかし実物はアニメとは裏腹に、実はなかなか凶暴で、筋肉の塊のような動物です。当然、肉はかなりマッチョで赤身。それが骨と皮付きで、しっかりと煮込まれています。
肉に小皿の腐乳をつけて口に放り込めば、旨みはしっかり、皮のコラーゲンが口の中にじわり。そして噛めば噛むほど旨味がじゅわっと滲み出ます。脂は鍋に薄く浮く程度。胃もたれせず、さっぱりした感じさえあります。
また、山羊は臭いと言われることもありますが、実際に臭いヤギを食べたことがある人はどれほどいるのでしょう。レストランで食べる限り、私は滋味溢れる赤身肉だと感じています。この鍋は当帰の風味も感じられ、コラーゲンもたっぷり。飲むほどに身体が温まるので、女性にこそおすすめしたいですね。
もし具を追加注文するなら、レタスやクレソンや春菊などの青菜を入れるといいでしょう。こちらは電話で予約の際、お店にリクエストしておいてください。
鍋そのものは2~3人前なので、4人くらいで訪れ、他の料理を何種類かつつきながら楽しむのがおすすめ。山羊鍋はみんな夢中で食べるので、一瞬でなくなりますからね。
入り口に怯まず行こう!美楽一杯 本館への道
さて、山羊鍋が食べられる「美楽一杯 本店」ですが、ここは横浜中華街の中でも穴場中の穴場。普通の街歩きではまず見つかりません。営業時間は夜のみ。辺りが暗くなった頃、加賀町警察署の交差点で上の方を仰ぎ見ると、ビルの4階に看板を見つけることができます。
まるでブルース・リーの映画に出てきそうな場所ですが、警察署が目の前なので治安は良好(恐らく)。エレベーターで4Fに上がると、マンションの1室を改装した店の扉が現れます。なかなか攻めた外観なので、友人を連れてこの店に行くというだけで、恐らくひとつのアトラクションになるのでは。
店内に入ると、壁にお客さんの写真とともに、季節のメニューがそこかしこに。鍋の前につまむ料理はそこから数品注文したら、あとはヤギ鍋を待つのみです。
特に日曜の夜8時を過ぎた店内は、仕事上がりに家族で食べに来る中華街の料理人が集まっており、一気に賑やかに。料理の食べ方に迷ってまごまごしていると、隣のおじさん(おそらくどこかの店の料理人と思われます)が乗り出してきて、こうやって食べるんだ、と身振り手振りで解説してくれることでしょう。
広東語と北京語のシャワーを浴びながら食べる料理は格別。お値段も、都心で忘年会をやるくらいなら、交通費のおつりと奥さんへのお土産の肉まん代がでるくらいリーズナブルですよ。東京から30分の横浜中華街で、小さな香港下町旅行をぜひとも楽しんでみてください。
文中でご紹介した店美楽一杯(みらくいっぱい)本店 筆者の独断によるおすすめ料理 山羊鍋(基本的に寒い時期の提供。要予約) |
text & photo:ぴーたん