日本では、酒税法によって各家庭での酒造りは禁止されていますが、中国は自家消費用であれば、個人でも酒を造ることができます。

酒好きにとって、それはワクワクすると同時に羨ましく思えること。酒造りが身近な環境は、中国の酒文化がさらに発展する可能性を秘めているといえますよね。

以前より、その現場を見たいと思っていた私。なんと昨年、浙江省温州市で黄酒を造っている家庭を訪れるチャンスに恵まれました。

中国酒を読み解くメモ:黄酒(フゥァンジゥ:huáng jiǔ)

黄酒は穀物を主原料とした中国の醸造酒。日本で有名な紹興酒は、もち米で仕込む黄酒の一種で地酒にあたる。紹興酒と名乗るには原料や製法に条件があり、中国政府の国家地理保護標示産品の証がついているものが公式に認められたもの。紹興市で造られている黄酒だからといって紹興酒とは限らない。

 

「温州みかん」の名前のルーツとなった温州市とは?

しかしなぜ温州なのか? それは、私の中国語の先生でもあったヨカさんとの出会いがきっかけです。

ヨカさんは温州の方で、ちょっとした雑談で「親戚のおじさんが酒造りをしているよ!」と教えてくれたのです。

「行ってみたい」と勝手な我儘を伝えると、快く「おいでおいで!」とヨカさん。家庭的で身近な酒造りの現場を直接見てみたい…! そんな気持ちを胸に、温州へ向かいました。

中国の新幹線、高鉄。車体にも酒のPR文が書かれています。

温州市はどこにあるかというと、上海と台湾の中間くらい。紹興酒の故郷・紹興市と同じ浙江省に位置する人口約930万の大都市です。

ちなみに温州と聞いて、日本人にも聞き覚えがあるのは「温州みかん」ですね。実はこの名前、柑橘の産地として有名な温州市にあやかってつけられたものです。

かつては造船や陶磁器製造などがさかんで、改革開放政策以降は軽工業の中心地として発達。ここから諸外国に移住した華人は少なくなく、商才に長けた温州人は「中国のユダヤ人」「温州商人」とも呼ばれるようになりました。

さらに自然豊かな景勝地もあります。奇岩の立ち並ぶ雁蕩山(がんとうざん)です。ここは水墨画の題材としても有名で、中国の観光地等級の最高位となる「旅景区质量等级AAAAA(旅遊景区質量等級)」にも指定されているほど。

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今回は山には行けませんでしたが、天気は快晴! 紹興観光の拠点となる紹興北駅から新幹線に乗ること約3時間半、雁蕩山駅に到着です。

雁蕩山駅前。ここから雁蕩山風景区まで足を延ばすこともできます。

現地で迎えてくれたのは、約束していたヨカさん1人と思いきや、妹さんも一緒。そしてさらにお父さんまで登場!

現地での一切をお世話して頂いたヨカさん一家には感謝しかありません。中国の方々は本当に優しくて大らかな方が多いです。谢谢!

恐縮しつつも「まずは食事を」ということで、現地では有名な海鮮料理屋さんへ連れていってもらいました。道中は山や畑、池などが続くのどかな風景です。

到着したのは、レストランが数軒集まる地域。外からはわかりませんでしたが、中は人で賑わっています。

店は雁蕩山東部、西門島の「西门岛乐园水上餐厅(西門島楽園水上餐庁)」という温州料理のレストラン。地元では有名な店で、お祝い事で使われることが多いそう。

そして、部屋に入ってびっくり。ヨカさんの親戚一同(?)が揃っていて、総勢10名ぐらいが円卓を囲んでいます。

失礼ながら、どなたがどういう方なのか全くわかりませんが(笑)、中国で接待を受けた方ならおわかりいただけますよね。とりあえず、干杯! 酒は人を繋ぎます。

生ひじきや小エビ、米粉や餅も!海鮮と米食料理中心の温州料理

地元の温州料理は、東シナ海に面しているだけあって海鮮料理が中心です。油は多く使わず、やさしい味わいのものが多いですね。

なかでも印象に残った温州料理はこちら。蝦米炒芹菜(干しエビと香菜の炒めもの)です。

噛み締めると、エビから素朴でほのかな塩味が滲み出てきます。これが香菜の香りと相性抜群!酒のアテに最高!

続いて、清炒羊栖菜(ひじきの炒めもの)

ヒジキは温州の特産物で、日本にも大量に輸入されています。煮物のイメージが強いですが、炒めるとコリっとした食感にやみつき!

そして、温州といえば忘れちゃいけないのが、米を原料とした温州炒粉干(温州ビーフン)

温州の主食は米や小麦。かつて山間部ではじゃがいもやトウモロコシなどが主食として食べられていたようですが、1980年代以降の農業の発達に伴って、最近では標高の高い土地でも米が食べられるようになったそう。

こちらもやさしい味わいで、野菜のほか、卵や海老などが入っているのが特徴です。

海鲜炒年糕(海鮮野菜の餅炒め)は、トッポギのような食感でかなりお腹にたまります。

写真は温州の別の場所で食べたものですが、これも間違いなく温州名物のひとつですね。

自家製黄酒をレストランに持ち込み!多種多様な黄酒4種

お酒はレストランに持ち込みで、ヨカさんのおじさんが造ったさまざまな味わいの黄酒を出していただきました。

左から順に、①加飯酒(かはんしゅ:ジャーファンジゥ)、②蜜沉沉(ミーチェンチェン)、③善醸酒(ぜんじょうしゅ:シャンニィァンジゥ)、④黒米月子酒(くろまいげっししゅ:ヘイミーユェズジゥ)です。

①の加飯酒(かはんしゅ:ジャーファンジゥ)は、一般的な黄酒よりも糯米を多く使用して造るタイプ。紹興酒に最も近い味わいながら、爽快感があり、ほのかな甘口です。熟成は5年以上。

②の蜜沉沉(ミーチェンチェン)は、直訳すると「蜂蜜が沈んでいる」という意味。色合いの通りとても濃醇な味わいです。製法は、発酵の途中で白酒(※)を投下し、酵母を死滅させて糖化発酵のみ進めていくことで濃厚な甘味を増していくというもの。紹興酒にも「香雪酒」といって同タイプのお酒があります。

③の善醸酒(ぜんじょうしゅ:シャンニィァンジゥ)は、酒を酒で仕込む、日本酒の貴醸酒に似た製法の黄酒です。仕込み水に黄酒を用い、発酵をさらに促進。濃醇な味わいが特徴です。「蜜沉沉」ほどではありませんが、こちらもふくよかでコクがあります。

黒米月子酒(くろまいげっししゅ:ヘイミーユェズジゥ)は、国家環境保護エリアでもある陝西省洋県の有機古代米(黒米)を米曲で醸した黄酒。うるち米や糯米の酒とは異なり、黒米に含まれるポリフェノールがフルーティで爽快な味わいを醸し出します。日本酒でも古代米のお酒「伊根満開」がありますが、それによく似た黄酒です。

※中国酒を読み解くメモ:白酒(バイジゥ:bái jiǔ)

中国発祥のハードリカー。高粱(こうりゃん)、トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモなど穀類を原料した蒸留酒。アルコール度数は40度~50度。有名な銘柄は貴州省の「茅台酒(マオタイジゥ)」、四川省の「五粮液(ウーリァンイェ)」など。中国式の接待と乾杯によく用いられる。

 

そして白酒は、杨梅(楊梅:ヤンメイ:やまもも)を白酒に漬け込んだ杨梅酒が登場。楊梅は雲南省や貴州、江蘇省などにも分布していますが、ここ浙江省が原産地です。これがまた飲みやすくてグビグビと杯が進み、持って帰りたかったほど。飲み過ぎ注意!

白酒に漬け込まれた杨梅。白酒のきつさがやわらぎ、お酒が苦手な人でも飲めるような優しい味わいです。

窓からそよぐ風を心地よく受け、食事を終えて少しフラフラになりつつも、いよいよ本来の目的地、酒造りの現場へ向かいます。

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