自家醸造の現場へGO!温州の家庭で造られる黄酒とは?

再び砂利道が続く田舎の風景を走り抜け、車から降りると、酒の甕が無造作に積まれたトラックが目に飛び込んできました。

トラックに積まれた酒の甕。見ているだけで楽しくなります。持ち帰りたいぐらい。

どうやらこの近くで酒造りをしているようです。ほろ酔いながら、ワクワクが抑えきれません!

歩を進めると、酒造りに関わるものが無造作に置かれており、自家醸造が身近な暮らしを感じさせてくれます。

とにかくたくさんの甕、甕、甕。

黙々と作業に取り組む蔵人さんたち。現地では当たり前の光景なのですが、私にとってはどんなわずかな作業も興奮の源。

紹興酒をはじめとした黄酒は、11月頃から酒造りが始まりますが、見学させていただいた2019年11月上旬は、大甕での発酵を終え、小さい甕に小分けにしているところでした。

黄酒の製法は、紹興酒を例にとってみると日本酒と似ています。米を蒸して冷ましたのち、麹を加えて甕の中で発酵。この発酵期間が長く、合計約3ヶ月ほどかけてじっくり発酵させるのです。それを搾ってまた甕の中で1年、2年…と熟成させたら、ようやく完成に至ります。

ここでは、甕を野外に野晒しのままで発酵させていました。紹興酒も基本的には屋外で発酵させますが、蓋をしていないのは驚きです。

以前、紹興市で紹興酒の製造現場を見たときは、蓋がしてありました。ここはまさかの野晒し。酒造りの原始的な姿が垣間見えます。こうした製造方法が、黄酒の野性味溢れる個性的な味わいを生んでいるのかもしれません。

直接、甕からすくってくれました。

その場で甕からすくい、熟成中の黄酒を飲ませていただきました。先ほどレストランで飲んだものと同じですが、色合いはさらに鮮やか。紹興酒と比較しても軽い飲み口とほのかな甘み。冷やしたり温めたり、温度を変えて飲むのもおもしろそうです。

紹興酒よりは鮮やかとはいえ、カラメル無添加でも十分な色がついています。しっかり熟成されている証拠です。

おじさんは、今後は設備投資をして2020年からは大きな工場として展開し、流通量も増やしていきたいとのこと。

「来年はもっと大きくするから、また見学においで!」

ぜひまた訪問したいです。来年11月になれば、新たな酒造りが始まります。新型コロナウイルス禍が収束し、また中国へ行ける日が戻ってきますように。

現地での一切をお世話して頂いたヨカさんと親戚の皆さんには感謝しかありません。中国の方々は本当に優しくて大らかな方が多いです。谢谢!

見学のあとは、ヨカさんの親戚が経営しているお茶屋さんでひと息。帰りの新幹線の時間まで、家の近くの市場を散策したり、羊肉串と現地のクラフトビール「雁蕩山ビール」を堪能しました。

中国の市場は一般の人もたくさん買いものをしています。
雁蕩山ビール。今は黄酒よりもビールやワインの方が一般的に親しまれています。

空を見上げると、陽が沈む、幻想的な雰囲気が広がっていました。この旅ももう終わり。またいつか、必ず戻ってきます。

この日の夕焼けは、今でも鮮明に脳裏に焼きついています。

未知の黄酒の味わいを求めて、乾杯!

「中国酒ラビリンス」と題してお届けした、黄酒の産地を巡る旅三部作、いかがでしたでしょうか。

日本では中国酒といえば紹興酒という方が多いでしょう。しかし紹興酒も黄酒の一種、地酒の一種でしかなく、中国各地には未知の地酒がたくさん眠っています。そのことが少しでも伝わったなら幸いです。

また、日本ではメジャーな紹興酒ですら、まだまだ謎多き酒。楽しみ方も開花しておらず、飲み方の工夫や、ペアリングなどさらに膨らませていくことができるはず。

今は新型コロナの影響で現地へ行くことは適いませんが、これからも黄酒を求めてさまざまな土地を巡りたいですし、このお酒の楽しさ、可能性を追求していきたいと考えています。

黄酒に携わっていくなかで「紹興酒は好きだけど周りに一緒に楽しむ仲間がいない」「楽しめる場所が少ない」という声も耳にします。これから、そんな皆さんとどんどん繋がり、輪を広げていきたいですね。ぜひ、一緒に乾杯しましょう!


text & photo :門倉郷史(かどくらさとし)

中華郷土料理店に9年在籍し、黄酒専門ECサイト「酒中旨仙(うません)」の仙長を兼任。退職後、中国酒専門ブログ「八-Hachi-」を運営。黄酒が楽しめる店、ひとり呑みができる中華料理店を紹介している。