横浜中華街に行ったら、どこで何を食べればいい? 魂が震える本物の味はどこにある…? 当連載は、横浜で美味を求める読者に向けた横浜中華指南。伝統に培われた横浜の味と文化をご紹介します。◆目指すゴールとコンセプトはコチラ(1回目の連載)をご覧ください。

「叉焼が1本あれば、料理につまみに夢が広がること間違いなし」とご紹介した叉焼指南前編。それを踏まえ、後編では前編でご紹介した蜜汁叉焼の作り方と、炭火焼にこだわる店、そして横浜ならではのあっさり系叉焼をご紹介しましょう。

赤色と水飴はアイデンティティ!「大珍キッチン」に聞く蜜汁叉焼の作り方

香港や広東省でよく見られ、横浜中華街でも買うことができる蜜汁叉焼ですが、いったいどのように作られるのでしょうか。仕込みと焼き方について教えてくれたのは「大珍キッチン」の陸定全さんです。

修行時代は都内の高級ホテルで焼味を担当していた陸さん。店で一度に仕込む量は300kg!

まず、用意する肉は豚肩ロース。仕込みは醤油、酒、芝麻醤、砂糖などをベースにしたタレに、八角、花椒、肉桂(シナモン)などの生薬を入れ、肉を一晩以上漬け込みます。

しっかり肉に下味が染みたら、赤色の食用色素を表面へ。色は風味出しも兼ねて南乳(紅色の腐乳)を使う場合もありますが、なぜわざわざ赤くするのか尋ねてみると「香港の伝統で、色がないと叉焼ははダメ、みたいなところがありますね」と陸さん。

下処理が終わったら、明炉(みんろ)と呼ばれる中華オーブンに入れ、約1時間かけて焼き上げます(上の写真の右奥、銀の筒状のもの)。明炉はガス式と炭式がありますが、ここではガス式。

余熱で火が入ることも鑑みて、1本ずつ大きさの違う肉の焼き加減を調整しながら焼き上げますが、「焼きたては肉の芯の部分にロゼ色がかすかに残るように仕上げるのが大事。全部を綺麗に焼き上げるのは1万回くらい経験が必要」だとか。

焼き上げたら、最後に水飴をたっぷりまぶしてできあがりです。これを見れば、煮豚やローストポークとは全く異なるものだとわかっていただけるのではないでしょうか。

仕込み時間を除き、300kgの叉焼は焼き上げるだけで丸一日かかるそう。(画像提供:大珍キッチン)

なお「大珍キッチン」では、この叉焼を叉焼饅頭にして販売しています。在日香港人からも「香港の味」と、支持を得ているこの一品。叉焼そのものの味からは想像がつかないような複雑な味わいに変化していますので、ぜひ味わってみてください。今後は叉焼の通販も計画しているそうです。

ふかふかの生地に、こっくりとした叉焼餡入り。ぜひ一度お試しを。

昭和二年創業。大通りの老舗「一楽」の叉焼はこだわりの炭火焼!

続いてご紹介するのは老舗の叉焼。「一楽」は横浜中華街全体を盛り上げようと、いつもがんばっている店主・呉さんが笑顔で迎えてくれる店。創業は昭和二年で、横浜中華街の店の中でもとりわけ古い店となります。

ここは筆者にとって、普通の人にはちょっとわかりにくい料理を出す、という点でとっておき。店のFacebookを眺めていると、思わず食べに行きたくなる料理が日々更新されています。

いつ見てもやる気の塊のような「一楽」。

こちらの叉焼は炭火焼を謳っており、大小のサイズが選べます。小さいものはおよそ300g弱で、1本1,500円くらいから販売されているので、買い求めやすいのも美点ですね。

蜜汁叉焼(写真左)。店内なら、焼肉(シウヨッ:クリスピーポーク:写真右)と一緒にいただけます。

筆者がテイクアウトした叉焼は〈半肥痩〉、すなわち脂と赤身がバランスよく入ったタイプ。表面は広東の麹を感じる発酵調味料の風味を感じ、肉は逆にすっきりとした味わいです。これは料理に使うと、さらに実力を発揮しそうな予感。

持ち帰った一楽の叉焼。

この店をすごいと思うのは、筆者が1980年代に食べた記憶そのままの料理を、今でも大事にメニューに載せているところ。景気がよかった日本で、しっかりとした仕事とコストをかけていた時代の雰囲気を色濃く残す、昭和の中華博物館的な存在でもあると感じています。

高齢の両親や親戚を連れて行くなら、きっと「一楽」は期待を裏切らないでしょう。「ずっと食べたかった料理があったわ。懐かしい」と年配者に喜んでもらいたいならぜひ選択肢に。

焼きたての味は格別!特注明炉で備長炭で焼き上げた伊勢佐木町「龍鳳」の叉焼

「一楽」同様、炭火焼の叉焼で語らずにはいられないのがこのお店。横浜中華街からは少し離れて、伊勢佐木町の「龍鳳」です。ここでは香港油麻地の厨房器具店「蔡同盛」で特注した明炉を使い、備長炭で焼き上げた叉焼が食べられます。

宴会の際、事前にお願いしておくと、食べる時間に合わせて焼き上げてくれます。焼きたては中心部に少しロゼ色の残ったジューシーな肉と、表面のパリッとした食感がたまりません。テイクアウトは事前予約の上可能ですが、なんといっても焼きたてのおいしさは格別。できれば店で焼きたてをどうぞ。

なお、横浜中華街では前編でご紹介した「金陵」、後編の「一楽」が炭火焼の叉焼です。鰻の焼き方論争ではないですが、ガスも炭焼きもそれぞれに味わいがあり、どちらかが優れているわけではないので、自分の好みのタイプを見つけてください。

次のページでは、これまでご紹介した蜜汁叉焼とはちょっと違う風味を持つ、あの超老舗の叉焼をご紹介します。

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