スープの王様!泣く子も黙るうまみ爆弾「佛跳牆(ぶっちょうしょう)」
佛跳牆(フォティァオチャン:ぶっちょうしょう)は、この料理を文人たちの宴会で食べた一人が「あまりのよい香りに、お坊さんも壁を超えてくる」と即興で吟じたことから名付けられたとされる、福建省発祥のスープです。
豚や家禽などの動物性たんぱく質に、多彩な乾物を合わせているのが特徴で、発祥の地の福建式だけでなく、スープ文化の発達した広東式もあります。
二者の主な違いは、直火で炊くか、蒸して仕上げるか。直火炊きのスープは濁りとともにパワーが出ますが、蒸したスープは透き通った雑味のない味わいに仕上がり、煮るスープとは異なる魅力を持っています。
以前「大珍楼」で佛跳牆を入れた宴会をお願いしたときは、福建式と広東式の二種類を出していただきました。
王侯貴族の食卓を体験!「大珍楼」の佛跳牆は広東式と福建式の二種類
まずは広東式がこちら。見てください、このクリアなスープに美しくエッジの立ったフカヒレを! この佇まいは、炊いて作るスープでは見られません。
高級乾貨となる海の幸は、フカヒレ、干しアワビ、魚の浮き袋、ホラ貝に干し貝柱。肉類は豚肉、金華ハムに鹿のアキレス腱、さらにキヌガサタケ、干し椎茸、棗、白キクラゲが加わって豪華絢爛!
それらのエキスが溶け込んだ琥珀色のスープをいただいたあと、中の材料を別皿でいただきます。噛めば噛むほど味わいが出ててくる乾貨は、まだその力を食材の中に残しているよう。放たれる猛烈な香りと美しいスープ、食後に漲る身体の熱さは、一生に一度は体験しておきたい美味です。
一方、直火炊きで作られた福建式の佛跳牆がこちら。
動物性の食材は、烏骨鶏、すっぽん、鶏砂肝、鶏ハツ、豚レバー、牛すじ、牛モツ、鶉の卵。そこに枸杞、淮山(乾燥山芋)、ヨモギ、朝鮮人参、棗、銀杏、百合の花、干し椎茸、木耳、筍、紹興酒が加わります。
福建式は漢方食材のパワーが強烈で、参加者の中には漢方酔いを起こす方もいたほど。いずれにせよ、爆発的な食材の旨みと香りが強烈なスープです。
大珍楼のような設備の整った老舗では、こうした特別な宴会料理に対応できる力があります。しかも佛跳牆のような料理を出すのは、店の面子をかけた宴会になりますから、スープ以外のどの料理もすべてがおいしいという次元の違う料理が出てきます。
人生の節目のお祝いで、予算を最大限に生かすなら横浜で中華、特に乾物を戻して作るフカヒレ料理を組み込んだ宴会がおすすめです。見た目も味もパワフルで、きっと一生心に残る財産となるはず。
貸切限定!中華街の人気店「南粤美食」の佛跳牆はお宝ザクザク!
中華街で圧倒的な人気を誇る広東料理店「南粤美食」もまた、広東式の佛跳牆が楽しめる店です。乾貨の仕込みはおよそ一週間前に開始。スープづくりに長くコンロを占拠することもあり、夜の宴会のために昼の営業をせずに準備にあたります。
フカヒレ、魚の浮き袋、干しアワビ、干しなまこ、干し貝柱、どんこ椎茸などの高級乾貨を壺に入れて目張りをし、じっくりと蒸すこと6時間。目張りを切って蓋を開ければ、部屋中が複雑玄妙な香りで充満し、参加者から歓声が上がります。
ハムの下に隠れた巨大なフカヒレは、1本1本の金糸がラーメンの麺のような太さ。店で原ビレ(げんびれ:乾燥させたフカヒレ)から戻しており、素材のパワーがダイレクトに感じられます。これぞ料理人の腕と手間のかけ方が伝わる食材です。
口にすると、すべての食材がその旨味を出し切っているわけではなく、干しアワビや干し貝柱などは、じわりと旨味がほとばしるのが嬉しいもの。
飲めばハラオチしますが、パワフルなスター級の材料たちが喧嘩をせず、壺のスープの中に調和するのが佛跳牆の真骨頂。琥珀色のスープは、参加者が呆然としながら無口にすするのみです。
ちなみに同店では前出の例湯をはじめ、さまざまなスープが宴会でオーダー可能。「次の宴会でスープをお願いしたい」と伝えた瞬間、気合いで顔色が変わる黄シェフとのやりとりもわくわくしますよ。
ハレもケもスープとともに!食文化の神髄はスープにあり
さて、佛跳牆の気になるお値段は、入れる材料次第で青天井。参考までに、スープに釣り合う格式の料理出してもらうことを考えると、10名で1人あたり5万円程度見ておくとよいでしょう。ちょっと勇気のいる値段ですが、都心一等地にある高級店のコースと比べてみれば格安だと信じています。
一方、広東の例湯のようなスープは華僑の日常のもののためか、レストランで積極的にはメニュー化されていません。しかし華僑のオーナーシェフの店で予約時に事前注文すれば、きっとあっさりとOKしてくれるでしょう。
また、福建系のオーナーシェフの店でも、定番の海苔のスープをはじめ、冬は牡蠣、夏はマテ貝などさまざまなスープを出せる可能性があります。福建式佛跳牆は店と要相談ですが、きっと店は面子をかけて大喜びで出してくれるはずです。
レストランで味わい、家でも例湯のようなスープを飲みたくなったら、乾物が一袋にまとまったスープキットを中華食材店で買い求めてもいいでしょう。食材の組み合わせを覚えれば、家庭の台所で料理するのは決して難しくありません。
スープにはそれぞれ期待される効能がありますが、季節と自分の体調にフィットすれば、疲れた身体から重さが抜けて、スキッとバランスを取り戻す感覚が得られるはず。
蒸して作るスープは数時間かかりますが、食材の形を壊さず、素材の旨味のみを引き出すことに長けています。蒸し器がない場合、パスタ鍋などに中敷きを入れ、貝柱や鶏肉などを入れて容器ごと1〜2時間蒸せば、クリアで香り高いスープが再現可能です。
日々の体調をケアする家庭料理から、特別な日の贅の極みまでカバーするのが中国のスープの奥深さ。特に中国南方沿海部の食文化の神髄はスープにあり!そう断言できます。この事実を知れば、一杯のスープをないがしろになどできないのです。
店舗情報
※定休日と営業時間は、自治体の要請により変更の可能性があります。
龍鳳
住所:神奈川県横浜市中区長者町7-112(MAP)
TEL:045-261-0308
営業時間:11:00~14:00 17:00-21:00
水曜休
天龍菜館
住所:神奈川県横浜市中区山下町232(MAP)
TEL:045-664-0179
営業時間:11:00~深夜
不定休
大珍楼
住所:神奈川県横浜市中区山下町143(MAP)
TEL:045-663-5477
営業時間:11:00〜21:30
不定休
南粤美食
住所:神奈川県横浜市中区山下町165-2 INビル(MAP)
TEL:045-681-6228
営業時間:11:30〜14:00 17:00〜21:00
不定休
text & photo:ぴーたん
ライフワークのアジア樹林文化の研究の一環として、台湾・中国・ベトナム・マレーシアを回って飲食文化も研究。10数年前の勤務先で、江西省井岡山に片道切符で送り込まれたことを機に、中国料理の魅力に目覚め、会社を辞めて北京に自費留学。帰国後もオーセンティックな中国料理を求めて、横浜をはじめ、アジア各国の華僑と美味しいものについて情報交換をしている。
参考資料