| この記事は、四川省の省都・成都市の文化情報発信サイト『Go Chengdu』の連載「川菜一番」の日本語版です。「外国人が見た四川料理」をテーマに、80C編集のサトタカが成都の美食を日中のメディアで発信。第1回は、80CのTwitterやFacebookのキービジュアルにもなっている「鍋魁(グオクイ)」です。 |
皆で卓を囲み、同じ皿の料理を取り分けて賑やかに食べることは、中国料理を味わう醍醐味のひとつだ。しかし新型コロナウイルスがこの楽しみを奪って早1年余。なかなか円卓を囲む場が戻ってこない一方、日本では軽食やテイクアウトのニーズが増している。
特に東京は、台湾鶏排や手作りの肉まん専門店などが相次いでオープン。中華バーガーとも称される陝西省の肉夹馍(ロージャーモー)や凉皮(リャンピー)、タピオカに次ぐブームの兆しが見えた台湾カステラなど、手軽に小腹を満たせるものがあちこちで目に留まるようになった。
つまり、中華圏の軽食は日々身近になっている。しかし、アレはまだ来ていない。兼ねてから、これが日本に来たら流行るだろうなあ…と思っているとっておきの美味、鍋魁(グオクイ:guōkuí)だ。
1,700年の時を超え、モソモソからサクサクに!? 鍋魁の歴史ロマンを紐解く
鍋魁(グオクイ)とは、四川省成都市の名物小吃で、小麦粉の発酵生地と、肉餡を層にして揚げ焼きにした四川風ミートパイだ。

形はパン・オ・レザンのようだが、味は中華ど真ん中。花椒を効かせた豚肉餡や、火鍋風味の牛肉餡を練り込んだもの、シンプルにスパイスと塩のみ効かせたものもあり、焼きたての熱々を手づかみでガブリとやれば、ジャクッ・パリッ・サクッとした食感でやめられない止まらない!

それ単独で食べてももちろん最高なのだが、成都では肥腸粉(フェイチャンフェン)こと、豚の大腸とサツマイモ春雨を煮込んだモツ煮スープと一緒に食べるのがお決まりの食べ方。これが互いに絶妙な合いの手となり、ずずー、ザクザクッ、ずずー、ザクザクッ、ああ無我の境地…。思い出すだけで成都に飛んでいきたくなる。

今では四川省や重慶市の街中で気軽に食べられる小吃となったが、その歴史は古く、三国時代(広義では184~280年)に遡る。蜀の武将である姜維が、現在の四川省成都市軍楽鎮あたりに駐屯していたとき、金属製のヘルメットで生地を焼いた兵糧が原形と言われているのだ。
中国西方出身の姜維は、出身地の主食である糊(フー:どろっとした粥状の食べもの)や、餅(ビン:小麦粉をはじめ穀類の粉を生地にして加熱調理したもの)を愛したと言われている。特に餅は手軽に作れるうえ、携帯できることから軍食としては最適。鍋魁も、そんな餅のひとつだった。
現在、鍋魁には大きく二種類の生地と表記がある。まずひとつは、肉餡を巻き込んだクリスピーな揚げ焼きタイプで「軍屯鍋魁(军屯锅魁|ジュントゥングオクイ)」。もうひとつは、油を使わずに加熱して、ピタパンのように割って具を挟んで食べる白麺(バイミィェン)タイプで「鍋盔(锅盔|グオクイ)」。「盔(クイ)」は兜や帽子の意味であることから、鍋魁のルーツは後者だったのだろう。


そう思うと、私が魅了されたクリスピータイプは、蜀の時代から1,700年以上の時を経て、四川省の経済発展とともに、油を使い、肉を使い、次第にリッチになっていき、鍋盔から鍋魁へと進化していったものともいえる。
しかし、いくら鍋魁に恋焦がれても、それを手軽に食べられるのは四川省と重慶に限られる。行かないと食べられない貴さにも惹かれるが、家で作れたら食べ放題! そう思ったら、俄然興味がわいてきて、気づけば私はすっかり‟鍋魁沼”にハマっていた。

そして、あれこれ調べているうちに、ひとつの光が見えた。
どうやら鍋魁発祥の地には、鍋魁専門店がひしめいているらしい。なんと、店で修行も受け入れているという。学校ではなく、実際に営業をしている店に弟子入りして学ぶことになるが、鍋魁を知るにはこれが一番よいような気がした。
そうとわかったら、じっとしてはいられない。北京で麺点師の資格を取得した友人の‟坪井ちゃん”こと坪井佳織さんを誘い、成都在住の友人である何珂(カカ)さんに段取ってもらい、2018年の4月、私は四川省成都市彭州市軍楽鎮に旅立った。思い立ったが吉日、8日間の鍋魁取材兼実地修行のスタートである。









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