4:激辛省にも癒やしはある。辛くない湖南料理とは?

湖南料理なのだから…と、鮮烈な辛さばかりにどっぷり浸からなくてもいいんです。湖南省にも口当たりのやさしい料理はあります。辛い料理の合間に合間に癒やしの味わいも楽しみましょう。

肉とモツたっぷり!宴会料理のスタートを飾る「湘情全家福」

湘情全家福

全家福とは肉類が入った寄せ鍋的な料理。湘情全家福は、豚モツ・肉団子・午餐肉(ランチョンミート)など、さまざまな肉と野菜が入った湖南式煮込みです。

辛さ自慢の湖南料理ですが、宴席の始まりを飾ることが多いのは、こんなスープ料理だったりします。また、鮮烈な辛さで刺激を受けた胃袋に、鶏出汁の煮込みスープがじんわりしみる、ほっとする一品でもあります。

「豆豉蒸排骨」で客家の知恵と合理性に想いを馳せる

前出の長沙臭豆腐づくりに欠かせない、劉陽豆豉(浏阳豆豉)を使った豚スペアリブの蒸しものです。

豆豉蒸排骨

長沙の東に位置する劉陽市の蒸し料理は、その昔、湖南省に住み着いた客家人が、そこにいることに気づかれないよう「長々と煙を立たせることなく、いかに効率よく調理を終えるか」という課題を解決するために考えられたのだそう。

そこで生まれたアイデアが、米と野菜を同時に蒸すという手法。現代では、食材に劉陽豆豉と唐辛子を使ったタレをかけて蒸す料理として受け継がれ、ひとつの料理として愛されるように。タレには唐辛子が多く使われていますが、辛さは意外にマイルドで食べやすくなっています。

左党は注文必須!湖南名物・燻製肉&燻製魚合わせ蒸し「腊味合蒸(ラーウェイフージェン)」

しっかりと燻製し、硬く締まった湖南式の干し肉と干し魚を一緒に蒸した料理。その食感を残すように蒸すことで、噛みしめるたびにスモーキーな香りがじんわりと広がります。ちょこちょこゆっくり味わいながら、酒のお供にしたい一皿です。

腊味合蒸。こちらは宴会のためのちょっと華やかな盛り付けです。

湖南省では一般的に、年の瀬に余った干し肉や干し魚を正月に蒸して食べる習慣があるそう。蒸す前にかける調味ダレは、ここまで読んでくれた皆さんにはおなじみ、劉陽豆豉が味の要。豆豉・唐辛子・にんにくが効いていて美味!

5:米どころは米麺が定番!「米粉(ミーフェン)」を汁あり・汁なし両方で楽しもう

最後に、米で作った麺も湖南料理店では外せません。前述のとおり、中国有数の米どころである湖南省では、保存や調理のしやすさから、米を麺に加工した米粉(ミーフェン)としてもよく食べます。

日本でお米の麺というと、極細の焼きビーフンになじみがありますが、湖南省の米粉は円形の断面で、スパゲッティーニくらいの太さがあります。この形状の米粉を、湖南省では圓粉(ユェンフェン:圆粉)といい、平麺を扁粉(ピィエンフェン)といいますが、現状日本で食べることができるのは圓粉です。

啜ればつるりと喉越しよく、噛めばもっちりとした食感で、食べごたえがあります。現地では朝食によく食べますが、締めくくりの一杯にもおすすめです! 

古漬けと唐辛子と白身魚のハーモニー「酸菜魚米粉」

酸味がでるまで漬けた青菜の漬物と、白身魚を煮たスープ料理「酸菜魚(スァンツァイユ:酸菜鱼)」を米粉に応用した汁麺です。

酸菜魚米粉(酸菜鱼米粉)

その味わいは、発酵由来の酸味に、唐辛子の辛さが加わった酸辣(スァンラー)がしっかり効いたスープが特徴。

淡くやさしい色合いについ油断してしまいますが、激辛唐辛子・小米辣(シャオミーラー)を発酵させた泡椒(パオジャオ)が、目立たずとも鮮烈な辛さで、なかなかの存在感。赤唐辛子の辛味も加わり、汁を飲めばたちまち汗が滲み出ます。

一品料理を米の麺にアレンジ!「小炒肉拌粉」

唐辛子の効いた鮮辣な料理として、1ページ目で湖南料理の定番・小炒肉(青生唐辛子と豚肉の炒め;シャオチャオロウ)をご紹介しましたが、その料理を応用し、米粉と和えたものが小炒肉拌粉(シオチャオロウバンフェン)です。

小炒肉拌粉

小炒肉は一品料理として出すときよりも食材を細かく切ってあるため、米粉に絡みやすく、食べやすくなっています。

さらによく炒ったたまご独特の香りと彩り、そしてピーナッツの食感のアクセントが加わり、麺料理としての完成度を高めています。

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以上、5つのジャンルに分けて“湖南料理の歩き方”をご紹介しましたが、1品を掘り下げるもよし、まんべんなく選ぶもよし、もちろん全ての料理の制覇もまたよし。自分らしく湖南料理をお楽しみください!

本格湖南料理 李厨 高田馬場店

住所:東京都新宿区高田馬場3-4-16 MKビル 2F(MAP)※さかえ通り沿い
TEL:03-6886-9751
営業時間:11:00-15:00 / 17:00-23:00


text & photo :アイチー(愛吃)
中華地方菜研究会〜旅するように中華を食べ歩こう』主宰。中華料理にまつわるコーディネート、アドバイス、監修などを行う。一つの「食」を愛し、味も知識も徹底的に極めた「偏愛フーディスト」がプロデュースする期間限定レストラン『偏愛食堂』中華料理担当として、多彩な中華地方菜の楽しさを伝えている。★アイチー執筆・出演記事はこちら