『中国酒ラビリンス』は、中国酒の仕入と販売に携わってきた門倉郷史さんによる酒エッセイ。中国各地で醸される黄酒(フゥァンジゥ:huáng jiǔ)を中心とした中国酒の世界を紹介します。

お久しぶりです。2020年4月から3回にわたり中国酒ラビリンスと題して、中国の歴史ある醸造酒、黄酒(フゥァンジゥ:huáng jiǔ)を紹介していた門倉です。

あれから3年半。コロナ禍もありながら、日本で味わえる黄酒の幅は驚くほどに広がりました。それだけではありません。日本初の黄酒専門ガイドブック『黄酒入門誠文堂新光社)が出版されました。著者はなんと、僕です。

日本初の黄酒専門ガイドブック『黄酒入門』(誠文堂新光社)Photo by Takako Sato

なぜ『紹興酒入門』ではなく『黄酒入門』なのか?

なぜ『紹興酒入門』ではなく、『黄酒入門』なのか? その理由は「中国酒といえば紹興酒!」と思っている方が非常に多いからです。

たしかに紹興酒は中国を代表する酒文化のひとつであり、日本でも中華料理とともに楽しんだり、料理酒として活用できるお酒として知られています。しかし、紹興酒が浙江省紹興市の地酒で、黄酒のジャンルの一種である、という基本的なことは、ほぼ知られていません。中華業界の中でさえも、黄酒としての認知度はそれほど高くないのが現状です。

こうしたことから生まれたのが、この『黄酒入門』です。

そもそも黄酒とは、穀物を原料とした中国の醸造酒全般を指します。また、中国最古の歴史を持ち、甕で発酵させ、屋外で熟成させるなど、原始的な造りをする文化が根強く残り、日本酒のルーツとも言われています。

産地は浙江省紹興市で造られる紹興酒を筆頭に、上海、青島、福建など、中国各地で造られており、日本酒やワインに勝るとも劣らない多彩な味わいも魅力。そして、この個性の源は、原料と風土にあります。

黄酒の原料は、穀物です。日本酒やワインは品種こそあれ、原料は米や葡萄に限定されているのに対し、黄酒は、うるち米や糯米、インディカ米、地方によっては黍米(キビ)や古代米、トウモロコシなど、原料が幅広いからこそ、酒の味も香りにも明確な個性が出ます

それに加えて、風土の多様性も関連しています。中国は広大で、ひとつの国でありながら、地方によって気候や環境が大きく変わり、文化も異なるように、風土に育まれた黄酒も、その土地ならではの個性があります。こうした中国地酒の可能性は、まだまだ地域の外には知られておらず、眠っている段階といえるでしょう。

そんな黄酒ですが、冒頭でお伝えしたとおり、静かに、しかしダイナミックに進化しています。そこでこの記事では、『黄酒入門』でご紹介した内容も踏まえながら、今のトレンドをわかりやすく紹介していきたいと思います。

時代はノンカラメルへ。味はどう違う?

まずひとつが、ノンカラメル(カラメル不使用)です。その前提として、一般的な紹興酒は、着色やツヤだしのためにカラメルを添加します。

しかしここ数年、カラメル不使用の紹興酒が増えてきています。大手紹興酒メーカー各社も手がけており、日本でも反応がよいことから、輸入は年々増加中です。

そもそも紹興酒はもともとアミノ酸が豊富な酒です。さらに最低3年間は熟成させるため、メイラード反応が起こりやすく、着色しやすい醸造酒ともいえます。それなのに、なぜわざわざカラメルを添加するのでしょうか? 紹興酒の歴史は数千年ありますが、実はカラメルが添加されるようになったのはここ数十年のことです。

調べてみると、唯一、中国の技術書の中で発見したのが「添加物は一切許さないがカラメルのみは添加してもよい」という一文。ちなみに、大手紹興酒メーカーは「味には全く影響しない量であり、着色とツヤ出しのためだけに使用している」と公言しています。

しかし、本当に味には影響しないのでしょうか? 僕は、ノンカラメルの紹興酒は総じてライトなボディで爽快なものが多いと感じます。温度帯としては、常温だとのっぺりとして物足りない印象もありますが、冷やすことでワインに近いような感覚で楽しめるようになります。

オーガニック黄酒「夢義」。一般的なカラメル添加の黄酒とは明らかに異なる色合いと味わい。

近年、中国では健康意識や食品への安全意識が高まり、穀物、果実、水産物の有機栽培面積は世界1位を記録し(※1)、オーガニック市場も盛り上がりを見せています。世界的にも大きな自然派の流れは中国にも波及しており、カラメル無添加醸造への変化も、こうした背景が少なからず影響しているのではないかと考えられます。

口当たりがよく、ライトで爽快。度数が低めの飲みやすい酒が充実。

もうひとつ、近年の傾向として感じるのは、ライトで軽やかな味わいの黄酒が増えているということです。これは、現代人の嗜好に合わせた結果といえます。

紹興酒は、元来特有の酸味や渋味、旨味が強く感じられる酒ですが、そこが苦手という人も少なくありません。ところがここ最近は、その点を和らげて、口当たりのよさ、余韻の爽快感を強調するような酒が多くなりました

アルコール度数は、通常14~16度が一般的ですが、11〜12度の黄酒も登場しており、アルコールの面からも飲みやすさを意識する販売側の意図が読み取れます。今後もこの傾向は拍車をかけて進んでいくでしょう。

また、今後の黄酒シーンに大きな影響を与えそうな、これまでにない製法の黄酒も出てきています。次のページでご紹介します。

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