伝統をベースに、革新的な黄酒を造る。

黄酒は、何よりも伝統を重んじてきました。ですが、それはよくも悪くも、昔から変わらない部分が多く残る状況を生み出します。かたや、他の醸造酒であるワインや日本酒は、製法の工夫や原料へのこだわりなど、日進月歩の勢いで成長を遂げています。

ただ、黄酒業界もここ2〜3年で大きな転換期を迎えており、革新的な黄酒を造る酒蔵も登場し始めています。

6種類の度数で展開する、中国初のオーガニック黄酒「夢義 MOHI」

以前、80Cでも紹介させていただいた国稀酒酿造有限公司は、中国で初のオーガニック黄酒として正式に認定を受け、日本での流通に向けて準備が始まっています。

なかには「55度の醸造酒」という規格外な酒も造っており、黄酒への情熱が溢れている、稀有なメーカーといえます。

2023年6月、国稀酒酿造有限公司から発表された「夢義 MOHI」のラインナップ。度数の異な黄酒が揃う。photo by Takako Sato
度数によって酒の色が変わる「夢義 MOHI」。度数の高い物ほどクリアで透明に近く、低いものは茶色みが増す。photo by Takako Sato

在来種のもち米を醸す、混じりっけなしの紹興酒「夏之酒」

また、ここ最近、日本の高級レストランで”紹興酒の革命児”として確固たる地位を確立している紹興酒の新銘柄「夏之酒」も注目の銘柄です。

「夏之酒」を造るのは、紹興出身で紹興酒の最大手メーカーである古越龍山の東京事務所所長でもある夏良根さんです。「本物の紹興酒を造りたい」と日本で有機栽培を学び、故郷の紹興に戻って、紹興酒に最適な酒米を追い求めて栽培し、実現。

「夏之酒」は、浙江省紹興市で古来から紹興酒の原料となっていた在来種のもち米を有機栽培し、原料にしている。写真提供:夏之酒

その原料を用いて造られた紹興酒が、この「夏之酒」です。原料へのこだわりだけでなく、伝統製法の紹興酒では当たり前だったカラメルの使用や、ブレンドを一切行っていないのも現代的です。いわば紹興酒界のシングルモルト的な存在で、「今までの紹興酒と全然違う!」という驚きを与えながら、既に多くのファンを生み出しています。

バーで取り扱うところも出てきている「夏之酒」。写真提供:夏之酒

味わいはドライでありながら、穀物由来の旨味がしっかりと感じられ、伸びやかな余韻も楽しめます。香りもウイスキーのようなバニラ香や紹興酒特有のナッツ香も。

今日本で流通しているのは2018年に醸造して2021年に瓶詰めされたものですが、今年2023年に瓶詰めされたニュータイプは、クラウドファンディングを通して販売される予定です。乞うご期待!

また、作り手だけでなく、業界全体の変化も強く感じます。例えば、紹興酒のソムリエともいえる「紹興酒侍酒師」制度の立ち上げです。

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