黄酒の解像度を上げるテイスティングセミナー
紹興酒の最大手メーカーである古越龍山は、日本で紹興酒のソムリエともいえる「紹興酒侍酒師」という資格の立ち上げに向けて積極的に動き始めました。現在は当資格のプレセミナーとして、日本酒やワインに精通した方々や、有名中華レストランのシェフ、食材卸会社の方々が集まって、講座を受けています。
紹興酒、引いては黄酒がこれまで広まっていかなかったのは、提供側の黄酒リテラシーの低さも原因のひとつでした。僕自身も黄酒専門店の運営や、飲食店勤務の経験を活かし、中華レストランに向けて黄酒勉強会を開催していますが、この資格もその点を補うものとして、とても期待できる動きだと思います。
日中間の関係性は、国レベルで見れば芳しくないかもしれません。ただ、民間レベルで見てみるとまた違った印象を感じます。なぜなら日本市場に興味を抱く黄酒メーカーが存在し、日本酒の酒蔵と交流を望んでいるところは少なくないのです。
日本酒のルーツでもある黄酒のメーカーが、新たな酒造りを追究し続ける日本酒酒蔵と繋がることで、きっと今までにないような化学反応が起こるでしょう。
僕自身、黄酒と日本酒に共通項を感じたことから、昨シーズンは日本酒の酒蔵で働きました。日本酒業界の方々もまた、黄酒について話をすると非常に興味を持ってくれます。この双方向の関係性は、お互いの文化を発展させていくための大切な繋がりだと、身を以って実感しています。
裾野は広いが未知の酒。飲んで開拓する喜びもおいしさのうち
黄酒は、革新的な酒を造るメーカーがある一方、酒造りは大変な重労働であることから、若手が離れ、潰れていくメーカーもあり、消費量・生産量ともに減少傾向にあります。しかし黄酒文化は、日本においても中国においても、さまざまな可能性が眠っており。チャレンジできることは山ほどあります。
大切なのは、ブームを生むよりも着実に文化の歩みを進めていくこと。日本未流通の銘柄をインポートして選択肢を増やしていったり、ワインや日本酒のようにペアリングや楽しめる飲み方を追究していくこと、さらに黄酒が楽しめる場所を増やしていくことなど、いろいろなことを統括的に地道に進めていくことが、数年後・数十年後の黄酒文化のためになると信じています。
今、長い歴史のある古きよき酒文化が生まれ変わろうとしています。つまるところ、黄酒の世界は、これから築き上げていく、創り上げていく面白さがあります。ご興味のある方、ぜひ一緒にこのお酒を楽しんでください。それが黄酒の未来に繋がっていく一歩だと思っています。
[著者が語る]日本初!いや、中国でも初!?『黄酒入門』新発売!
黄酒のなかでも最も有名な紹興酒。現在、中国政府の原産地呼称制度に則って、正統な紹興酒メーカーとして認められるのは14社あります。しかし、多くの店のメニューでは、銘柄ではなく、単に「紹興酒」と一括りにされ、あっても「3年」「5年」というように、熟成年数が書かれているのが現状です。なぜこのような状況になっているのでしょうか?
個人的な考えですが、こうなってしまったのは、そもそも情報が少ないからではないかと思います。実際は年数で飲み比べするよりも、銘柄ごとに飲み比べた方が明らかな違いが感じ取れますし、産地が違う酒の方が違った味わいを楽しめます。
紹興酒、引いては黄酒にも銘柄があるということがわかれば、今までとは全く違う楽しみ方が広がるはず。そういう思いもあって、拙著では約120種の黄酒銘柄を紹介しています。日本で流通する黄酒は全て試飲をし、味をチャートで表現しました。適切な温度帯やグラスも記載しています。
また、あえて日本未流通の銘柄も掲載しました。日本国内に流通している黄酒は9割以上が紹興酒ですが、未知なる黄酒はまだまだたくさんあります。それらを掲載することで黄酒の面白さを感じてもらえるのではないかと思っています。
飲食店の方なら1冊お持ち頂ければお酒探しに役立ちますし、お酒全般が好きな方にとっても、文字通りの入門書となれば嬉しいです。
[参考資料]
※1「中国の有機農業」農林水産省
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TEXT:門倉郷史(かどくらさとし)
中国郷土料理店に9年在籍し、黄酒専門ECサイト「酒中旨仙(うません)」の仙長を兼任。退職後、中国酒専門ブログ「八-Hachi-」を運営。黄酒が楽しめる店、ひとり呑みができる中華料理店を紹介するほか、各種イベントを主催。2023年9月、日本初の黄酒ガイドブック『黄酒入門』を上梓する。
PHOTO:門倉郷史、国稀酒酿造有限公司、夏之酒、佐藤貴子
書影提供:誠文堂新光社