2013年11月4日、数か月にわたる審査を経て、日本最大級の若手料理人コンペティション RED U-35グランプリが発表されました。

同コンペは国内外より451名の応募があり、ベスト50のブロンズエッグに選ばれた中国料理人は9名。さらに勝ち進んだシルバーエッグの中国料理人は4名で、今回ご紹介するのはその1人。

実はこの方、先日80Cでご紹介させていただいた女性中国料理人・服部萌さんを「いっしょにやろうや」とコンテストに誘い、応募するきっかけを作った人物です。

その服部さんが、「私と同じ和歌山出身。研究熱心で努力家で、日中協(日本中国料理協会)主催のコンテストはもちろん、あちこちの料理コンテストの入賞常連者ですよ!」と言うのですから、気になるじゃありませんか。

そして、さらに注目したいのは、RED U-35で披露した料理が、鮫肉(サメ肉)を使った中国料理だったこと。RED U-35のサイトでは、注目食材として挙げていたのが「鮫肉 中華・高橋。80C編集部として、これは見逃せない情報ですよ(料理の詳細はYouTubeにてご覧ください)。

鮫肉
サメ肉。サメのヒレはフカヒレ、肉は従来よりはんぺんをはじめ、練り物などに加工されています。

テレビの料理番組『どっちの料理ショー』に魅せられて

話をうかがうために訪れたのは、大阪北新地からほど近い「ANAクラウンプラザホテル大阪 花梨」。到着すると、涼やかな目元で、シュッとした立ち姿の花田洋平さんが迎えてくれました。

花田洋平さん
花田洋平さん。日本の中国料理をおもしろくする若手料理人の1人です。

花田さんは、辻調理師専門学校卒業後、ホテルのレストランに就職した、ある意味「日本の中国料理人の王道」を歩んでいる料理人。

中国料理との出会いは中学生で、「『どっちの料理ショー』という料理番組に出演していた吉岡勝美シェフに憧れて」、高校進学とともに中国料理店の厨房でアルバイトを開始。

「高校時代はボクシングをやっていたんですが、試合前のウエイトコントロールで食べものを我慢するつらさをとことん味わい、その一方で、マスターに料理を教えてもらいつつ、おいしい中華が食べられる幸せもひと一倍感じて」料理の道を進むことに決めました。

胸のエンブレム
世界各国の中国料理関係団体による組織「世界中国烹飪連合会」主催の大会に、日本代表チームとして出場した花田さんのコックコート。ポケットにはRED U-35シルバーエッグの証も!

昨今は若手の早期転職や退職も少なくないこの業界ですが、卒業後入社してから、ずっと「ANAクラウンプラザホテル大阪 花梨」に勤めているという花田さん。

「最初の1~2年は“ダホ”といって、主に鍋(中華鍋を中心とした調理担当)のサポートを行い、その後は前菜・デザートを約5年。若干仕事が重複していますが、“ジャンパン(切り場の担当)”を経て、今は鍋です」と、着実にステップアップしている模様。

「花梨はすごく厨房に活気があるのがいいところ。料理に対して皆が真剣に向き合っているんです。また、料理長は食材の扱いから仕上がりまで、すべてにおいてキッチリされている方。料理にとろみをつけるにしても、ゆるさ、つやまでもこだわる。こういう環境にいて、僕自身たくさん勉強させてもらえていると思っています」。

本人の向上心と、厨房の中のチームの志がシンクロしているところに、長続きの背景があるようです。

<厨房用語の基礎知識>
ダホ(打荷)
厨房とホールをサポートする立場にあり、厨房に伝票を通したり、鍋担当のサポートを行う。広東語の「打荷(daa1ho4)がベースになった和製中国料理用語。洋食でいうところのデシャップにあたる。
ジャンパン(砧板)
切り場の担当。材料管理、切り分けなどを行う。「切り場」「板」とも呼ばれる。

コンテストはモチベーションアップのため。ノートにはアイデアがぎっしり!

忙しい毎日を過ごしながらも、休み時間やオフの日に料理のアイデアを考えるなどして、これまでさまざまなコンテストに応募してきた花田さん。

その理由は、「モチベーションアップのためですね。出ることで新しい料理に取り組み、勉強できるのが楽しいですし、そもそも技術を必要とする仕事なので、チャレンジする機会をどんどん活かしていきたいんです」と非常にポジティブ。

「だいたい、コンテストに出るときはまずメインの食材を決め、それに合わせる材料を考えた後、テーマを決めます。その後、熱さ、辛さといった料理の方向性を組み合わせて、味や香りを調整していきます」

スケッチ
花田さんの料理のネタ帳。アイデアを思いついた時は、このノートにスケッチしています。

また、アイデアは中国料理以外からヒントを得ることも少なくありません。

「盛り付けやデザートを勉強するのはフレンチが多いです。料理本ではスペイン料理のタパス、エスコフィエのフレンチなども参考にします。昔は中華というと大皿盛りでしたが、今は個人盛りの店が増えていますし、花梨も個人盛りが基本。ですので、ソースのかけ方、料理の高さなどは他のジャンルが参考になりますね」。

スケッチ
「世界中国烹飪連合会」が主催する2012年の大会では、ふかひれを使ったスイーツで見事金賞を受賞!

ふかひれへの誤解を解きたい。料理人のポリシーと熱意を込めた「RED U-35」の料理

味だけでなく芸術性も問われるコンテストの料理には、料理人としての考えやポリシーも表れるもの。RED U-35に鮫肉(サメ肉)を使った料理も、自身の想いが織り込まれています。

「ここ数年、主に海外ですが、船上で鮫のひれだけ切り取って身を捨てる、いわゆる“フィニング”があるという報道のために、ふかひれを使うのは悪いこと…という風潮が生み出されつつあります。

しかし、僕たちが扱っている鮫は、ふかひれだけでなく身も骨も活用されているもの。また、長年培われてきた味を生み出す技術がなくなることは、中国料理業界にとっても大きな損失です。

ならば、鮫肉を使った中国料理を作ることで、少しでも自分が料理文化を継承させる取り組みができれば…と思い鮫肉を使いました。

また、高たんぱくで低脂肪、軟らかな身の鮫肉は、甘酢味と非常に相性のいい素材。そこでRED U-35という大会名にも掛けて、赤く、熱い料理で自分の熱意を表現しようと思ったんです」

次の世代の中心となる料理人を目指して

着実にプロの中国料理人としてのキャリアを積み重ねてきた花田さん。高い志を持つ彼だからこそ、慕う友人や後輩も大勢います。

特に今は自身の成長とともに、後輩の育成にも取り組む立場にあるそうで、「人によって目標も違えば性格も違います。ですので、自分の考えを押し付けるのではない教え方が大切だと思います」と、その考えは柔軟。

「目指しているのは、最初に憧れの人だった吉岡さんや、『スーツァンレストラン陳』の菰田欣也 さん、『Wakiya』の脇屋友詞さん。次の世代の中心となる料理人になりたいです。そのためには、中国料理の伝統をきっちり学んで自分のものとし、さらに自分をどれだけ信じることができるか」。

志なくして道は開けず。確かな技で、日本の中国料理をもっと面白くしてくれる料理人の挑戦はこれからも続きます。

花田洋平さん
花田洋平さん。
花田洋平さんのいるお店

ANAクラウンプラザホテル大阪 花梨
住所 大阪市北区堂島浜 1-3-1(ホテル6F)
電話 06-6347-1112(代表電話)
営業時間 ランチ11:30-14:00L.O. ディナー17:30-21:00L.O.(土日祝17:00-21:00L.O.)
※鮫を活用した料理の詳細は店舗までお問い合わせください。

花田さんがおすすめする花梨の料理(グランドメニューより)
・蟹の玉子入りふかひれスープ(蟹黄魚翅 1,800円)
・白身魚のお刺身サラダ仕立て(鳳城魚滑 3,550円)
・牛フィレ肉のXO醤炒め(XO醤牛柳 小盆3,800円/中盆5,700円)
・花梨特製蟹肉入りスープそば(花梨湯麺 1,800円)
※価格やメニューは記事公開時(2013年)のものです。


構成・文 佐藤貴子(ことばデザイン)
撮影 竹中稔彦 / 鮫肉撮影 菅野勝男(LiVE ONE)/ 服部萌さん撮影 佐藤貴子