中華といえば、エビチリ、酢豚、麻婆豆腐が昭和の頃から不動の定番。しかし、いつもそこに落ち着いてしまうのはちょっと、いやかなりもったいない。一生かけても食べきれないほど、多彩な味と香りがあるのが中国料理。そしてそれらは日々深化しています。
第1回目の「中華好き人口を増やす会」は、中華を愛し、中華に一家言あるメンバー、これから日本に定着させたい〈新・定番料理〉を徹底談義。トークの中から気になる料理を見つけていただければ、こんなにうれしいことはありません。
中華を愛し、中華に一家言あるメンバーが集結!過去を踏まえて未来を語るDEEP中華座談会
…ということで(くわしくはもくじへ)、満を持して始まった「中華好き人口を増やす会」。第1回目の壮大なテーマに挑むためにお集まりいただいたのは、おうち中華代表、中華ファミレス代表、老舗高級中国料理店代表、そして中華の食べ手を代表する方々です。さて、その方々とはいったい…?まずは自己紹介からどうぞ。
―― では改めて、皆様から自己紹介をお願いいたします。
古川 味の素の古川と申します。今日は中華の先輩方がたくさんいらっしゃる中、お招きいただき光栄です。
味の素 古川光有氏
おうち中華のトップブランド、味の素Cook Do®(クックドゥ)の商品開発とマーケティング全般を担当。中国に駐在経験もあり、現地と日本の中華トレンドに精通した、まさに中華の最前線をいくプロ。
私は1989年に味の素に入社いたしまして、2003年まで、長く業務用の仕事をさせていただいておりました。ですからこれまで中華・高橋さんを含めて、皆様方には本当にお世話になったという記憶でいっぱいです。それから中国に出向して、南の広州と上海に合わせて3年ほど駐在しておりました。
そこで中国向けの調味料や業務用の販売チームを兼任しましてね。いろんな料理店さんをお伺いして、シェフと掛け合っていろいろやらせていただいたことが、今はとても楽しい思い出として残っています。
2006年に帰国してからは家庭用調味料の開発、販売、Cook Do®を中心とした中華関係の調味料の仕事をさせていただき、今に至っております。どうぞよろしくお願いいたします。
― Cook Do®(クックドゥ)は1978年の発売で、今、マーケットシェアはナンバーワンですよね。
古川 はい、おかげさまで。
― 美味しいおうち中華のトップブランドを代表する方からご参加いただいた、という格好になります。
古川 よろしくお願いします。
― では南條先生、お願いできますか。
南條 私、本業は英文学なんです。で、「なんでイギリス文学やってるのに中華料理なの?って皆に言われるんですけど、イギリスに行ったって、うまいものは食えんじゃないか、と。ともかく子どもの頃から中国料理が大好きだったんです。
また、私の大学院の恩師が大変な食通で「悪いが、学者連中と中国に行ったってうまいものはひとつも食えん。南條と行かなきゃ」と言って、毎年のように中国に料理を食べに行くようになったもので、うまい中華料理を食わないと生きていられないという風になってしまいました(笑)。どうぞよろしく。
作家・英文学者・翻訳家 南條竹則氏
小吃から満漢全席まで、あらゆる中国料理を国内外で食してきた、中華の“食べプロ”。現地の食の取材も数多く、JAL機内誌『SKYWARD』や芸術新潮『北京』などにも登場。料理の中国語についてはネイティブレベル。
― 南條先生といえば『満漢全席』を思い出される方も多いかと思いますが、1993年『酒仙』という小説で日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞を受賞され、その時の賞金250万円を全額、満漢全席にお使いになったという逸話があります。
著作にも「中国から戻って来てから、しばらく舌が痺れて何を食べてもあんまり感じなくなった」と記されておりますね。また、頭の中に「中国大陸味覚地図」がおありとも書いてあり、私としてはそれが本になるのが楽しみです。
南條 まだ空白のエリアもありますね。
― 我々が未開のエリア開拓をご一緒できたらうれしいですね。
株式会社すかいらーくにて、バーミヤンのメニュー開発を担当。16歳で中国料理の世界に入り、現在全国約330店のバーミヤンからさまざまな中国料理を日本に紹介・普及させている、中華の伝道師。
福島 私は叩き上げといいましょうか、中学を卒業して、銀座アスター食品株式会社に入社し、9年間おりました。
そこでは上から二番目ぐらいになったんですけれども、どうもこのままだと新しいメニューを作るような仕事ができないんじゃないか…と思って転職したのが、すかいらーくの中華料理部門、バーミヤンです。
ここで店長やインストラクター、プロモーターなどいろいろやらせていただいた後、今の商品開発になりまして、今年でちょうど12年。今はほぼ、私が一人でメニュー開発をやっております。
元々バーミヤンは北海道から沖縄まで全国にありましたが、一時は不況の波にのまれてしまい、最盛期の約700店から約330店舗まで減ってしましました。
でも、今やっと売上が戻ってきましてね。前年比でいうと105%を超え、今は9カ月連続で予算を達成し、もう一度バーミヤンを広めようじゃないか、という気運が高まっているところです。特に今年は関西方面に新たに進出する予定ですね。
― 関西では少ないんですか。
福島 38店です。かつて九州まであった店舗をすべて一度たたんでしまっているので、もう一度、一からやり直そうと動いているところですね。
今はそのための商品開発を進めていますが、ちょっとひねったり、味付けのバリエーションを持ったりしないと、どうも反応してくれない世の中になってきているなと感じています。
今日は、そのあたりの流れについても勉強させていただけたらと思っておりますので、よろしくお願いします。
― バーミヤンは日本に中華ファミレスというコンセプトを根付かせた存在といっていいかと思います。また、福島さんはテレビ朝日の人気深夜番組『お願い!ランキング』の「美食アカデミー」にも2回、出ていらっしゃるんですよね。
福島 そうですね。
――ちなみに「普通の中華では、もはやお客さまは反応しない」ということでしたが、2010年の『お願い!ランキング』では、「食べるラー油で酸辣湯麺」が30点満点で1位。
昨年2011年は「特製おぼろ豆腐のこくうま麻婆」が1位だったということで、料理のひとひねりはもちろん、ネーミングもかなり工夫されているんだな、という印象があります。
株式会社新橋亭の取締役総料理長であり、社団法人日本中国料理協会の副会長。古くから日本の中国料理業界を知る生き字引の一人。長きにわたり日本における中国料理の普及に貢献したことから、2008年に黄綬褒章を受章。
― 新橋亭は、2001年より「満漢全席賞味会」を続けられているのが有名です。さすがに満漢全席全部というと時間もお金もかかり過ぎてしまいますので、現在は中国をエリア分けして、年によって地域を変えていらっしゃるんですよね。
田中 第1回から10回までは、満漢全席にある370の料理を10等分したんです。で、その10回が終わってから、今度は中国を4つに分けて東西南北という形でやり始めました。
今年は南の料理いうことで、広東省とか福建省、今回は前菜に台湾料理も入れています。特に目玉となったのは、福建の壺煮込み料理を入れさせていただいたことですね。
― 今日はその、満漢全席の中の一品もいただくことができるということで、楽しみにしております。最後に主催側であります、株式会社中華・高橋の髙橋滉です。
髙橋 初めまして、髙橋でございます。本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。
私どもの会社はご存じの通り、中華一筋で歩み続け、来期で60周年を迎えることとなりました。そこでこの節目を機に、皆さまにもっともっと中国料理のよさを知っていただき、中華好きの人を増やそうということで、ウェブマガジン『80C(ハオチー)』を発行し、その活動に取り組み始めた次第でございます。
その中のコンテンツのひとつがこの「中華好き人口を増やす会」という座談会で、皆様にはその最初のメンバーとしてご参加いただきました。
第一回目のテーマには、今まで多くの方々が中華料理の代名詞として挙げてきたエビチリ、酢豚、麻婆豆腐…、この3つを御三家とするならば、新しい御三家にはどんな料理がふさわしいのかを探ろう、ということを掲げております。
皆さま、どうぞいろいろな視点で中華を語ってください。そしてこれをご覧になった方に、次に食べたい中華料理はこれだ、と思っていただけたら幸いに存じます。
>NEXT TALK「君たちエビチリ、酢豚、麻婆豆腐だね」
Text 佐藤貴子(ことばデザイン)
Photo 林正