当コーナーは「中華好きを増やす」というミッションのもとに集まった、同士たちのトークセッション。中華を愛し、中華に一家言あるメンバーが、円卓と料理を囲んで、熱く語り尽くします。
※このシリーズは、3月8日に新橋亭新館にて行われた座談会「第1回 中華好き人口を増やす会」の模様をお届けします。
2012/5/23up
[5]消えた料理・当たりそうで当たらない料理
田中 中国料理って、時代に流されない独自のものを持ってると思うんです。でも、景気が悪いと、食べに行きたいって気持ちもね…。
―― やっぱりお財布主導になっちゃうというか。
田中 結果的に、だんだん下がってきますからね。ただ、中華はいくらデフレになろうが、非常にアレンジしやすい料理であることは確かです。安いのも、高いのも料理になるからね。最近だったら、少子高齢化もあって、野菜がメインになってくるかな。昔は趣向を凝らした料理もあったけど。ワタリガニの淡雪炒めとかね。
ワタリガニの淡雪炒め
南條 ありましたね。
田中 有名な広東料理なのに、それももうどこかへ消えて。
南條 そうですねえ。消えちゃった。
田中 それから最初に言ったクリーム煮ね。昔は白菜のクリーム煮、ホウレンソウのクリーム煮、何でもクリーム煮にしたもんだ。これも廃れた。
野菜のクリーム煮
―― なんで廃れちゃったのかって、気になるところなんですよね。
田中 廃れたというよりね、美味しい素材でクリーム煮を作り直さなかったことにある。
―― 素材の問題ですか。
田中 要するに、白菜に2,000円も出せるかって話。ホウレンソウもそうだ。
―― お客さんは、野菜の市場価格を単価に換算しちゃってるってことですか。
田中 そう。外来産とか何とかなると、価格もそれなりに上がる。野菜の普及度にもよるよね。
古川 そうですね。搨菜(ターツァイ)とか、A菜(エーツァイ)だと、まだ珍しさもありますからね。。
田中 あとね、芥蘭菜(カイランツァイ)と広東白菜(カントンパクチョイ)。広東白菜のクリーム煮っておいしいですよ。
―― そうですよね、くせがなくて。
田中 こういう素材で、またお客さんがクリーム煮を喜んでくれれば…という気がします。
搨菜(ターツァイ) |
A菜(エーツァイ) |
芥蘭菜(カイランツァイ) |
広東白菜(カントンパクチョイ) |
( 写真提供:中国野菜 木村商店 ) |
「ちょっと洋風」はまず当たらない
―― いままでに、開発の過程で、これはいける!って思ったものの、表に出したら大コケしちゃったとか、逆に思いもよらない大あたりってありますか。
福島 香港系の料理で、ちょっと洋食に振ったようなのは、まったく当たらないです。
―― パン粉を使った金沙は?
福島 金沙もやりました。たしか売れなかったです。
―― おいしいのに。
福島 食べるとおいしいんですけれども、どうやって食べていいかわかんないみたいな感じで。「パン粉も一緒に食べられますよ」って言うんですけど、その中のものだけ食べて残っちゃって、結局あんまりいい評価をもらえない。あと、オレンジを使ったソースやオレンジ炒めのようなもの、ああいうのもまったく売れないですね。
南條 あれ、うまい人がつくるとうまいけどね。
―― そういえば先日、なぜレモンチキンが定着しないのかって話になりましたよ。
レモンチキン
福島 レモンチキンとか、オレンジ……。
古川 オレンジ、レモン系は駄目ですねえ…。
田中 日本人は、香港の柑橘系の味付けは、あんまり好まないですね。
福島 ほんとうに当たらないですね。
田中 料理はあるんですけれども、メニューからね、だんだん……(笑)。
福島 販売数が減ってっちゃうんですよね。
田中 そうして出ない料理は、お客様にどんどん忘れていかれる。それこそ「あの料理は今」だよ。
古川 たしかにそうですね。二十年前ぐらいまでは柑橘系が流行りかけましたが。
田中 今やっても「おいしいね」とは言われるかもしれないけど、次来てまた頼むかっていったら、頼まない。
古川 たまに食べると「おいしい」って言っていただけるんですけどね。ですから私どものCook Doのように、家庭の中華にもならないという…。
王道の中華なのに、なぜ?
田中 団子もだんだん減ってるね。糖醋(タンツー)の。
南條 獅子頭、うまいのにね。ほんとなくなりましたね。
獅子頭
福島 バーミヤンでも、最初に入れた時は売れたんですけど、今は半分以下になっちゃいました。今年やってみたんですが、もうまったく売れなくて、もう一度忘れた頃にやってみたらさらに売れなくなっちゃって、「すぐにやめろ」って言われちゃって(笑)。えっ、肉団子って、そういう位置になっちゃったの?って感じで。
田中 ほんと、肉団子ってね、全然出なくなりましたね。昔は肉団子っていえば…
南條 出ましたよね、あんかけで。
一同 糖醋(タンツー)がなあ。
古川 いま食べてもおいしいのに。
田中 ところが、ああいうのがなくなってしまうという…。まあ、肉だけといえばそうだからか。
―― 肉だけでも、酢豚が残って、獅子頭が残らないっていうのはどこに理由があるんでしょうか。
田中 マックで食べる感覚とは違うからじゃないですか。
―― マクドナルド!?
田中 あれはパンにはさんで食べるでしょう。
福島 ミートボールと被っちゃったのかも。
―― それで大きな団子の地位が下がったという。
福島 ミートボールはけっこういまだにあるのにね。
古川 中華から独立してしまった存在で。
福島 そう。そして、ミートボールは家庭で食べるものという風に思われてしまっているのかもしれませんね。
南條 あれはあれで作るのが大変なのに。
高橋 獅子頭は次元が違う感じがしますよ。
福島 こぉんな大きい団子でねえ。ものすごくおいしかったんですけど。
―― なかなか家ではできない料理なのに。
高橋 上海蟹の季節には、蟹を入れたりしてね。
田中 獅子頭ねえ…。その時はおいしいと思ってもらえるのに、また食べようとは繋がらない。それと、昔は誰でも知ってた鯉の甘酢餡かけなんて、ほんと見なくなった。
鯉の甘酢餡かけ
南條 あれ、いい鯉を使うとほんとおいしい。何でなくなっちゃったのか。
―― 流通の問題か、食べる側の問題なのか。
古川 食べる側の問題でしょうね。
福島 川魚を食べる習慣がなくなってしまったというか。
南條 米沢の鯉なんて、桂魚よりうまいかもしれないのに
。
松鼠桂魚(桂魚の甘酢餡かけ)
古川 鯉の旨煮ってありましたよね。輪切りにして、内臓ごと煮込んで。
―― 鯉こくですね。
古川 横浜中華街でも、鯉鰻菜館(リーマンサイカン※2008年に閉店)さんとか、こだわってやってらっしゃった。
田中 剁椒魚頭(ドゥォジャオユイトウ)って、もうよだれが出そうなものも。
南條 あれはうまいですよねえ。花鰱(ホワリエン)の。湖南省だと、花鰱(ホワリエン)の魚頭をね、唐辛子も各種入ったスープで煮てあって、身を食べた後に、あひるのスープで煮た麺を入れて、ぐちゅぐちゅと混ぜて食べるやつがすごくうまいんですよ。新宿の湖南菜館でもあるんだけど、魚は鯛なんだよね。
花鰱(ホワリエン)
剁椒魚頭(ドゥォジャオユイトウ)
古川 バブルのころにあった中華風のお刺身もなくなりました。
南條 海皇(ハイファン)の名物。スズキの刺身がありましたね。ワンタンの皮を揚げたものが添えてあって。
古川 順徳の方に行くと、そのオリジナルのような料理がありますね。ピーナツを砕いたものと、ワンタンの皮を揚げたものが添えられていて、ものすごくおいしい。
田中 でも、日本では定着しなかったね。あと、海鮮で有名といえば「陶陶居」。
南條 やっぱり海鮮といえば海皇(ハイファン)かな。
田中 あそこが一番有名でしたね。それから・・海鮮大納言かな。
古川 関西から出てきた店ですね。もともと梅田の方にあったお店で。
福島 あれ、倒れちゃったんでしたっけ?
古川 もう多分ない。
田中 で、みんな大阪から東京に来たんだけど、だめになっちゃったんだよね。
福島 副料理長がバーミヤンにいますよ。
古川 そうなんですか。
福島 今大阪で店長やってます。
Text 佐藤貴子(ことばデザイン)
料理撮影 西田伸夫+80C編集室