当コーナーは「中華好きを増やす」というミッションのもとに集まった、同士たちのトークセッション。中華を愛し、中華に一家言あるメンバーが、円卓と料理を囲んで、熱く語り尽くします。
※このシリーズは、3月8日に新橋亭新館にて行われた座談会「第1回 中華好き人口を増やす会」の模様をお届けします。
2012/5/16up
[4]おこげ・火鍋談義
田中 確かにね、おこげはブームのはしりになっているかもしれません。実はうちの店でも、一番人気があるのがおこげなんです、今。
― アラカルトのトップですか?
田中 ええ。おこげは一般の人が抵抗なく食べやすい料理でもあるんじゃないでしょうか。比較的手に入りやすい食材で作ることが多いですしね。
それに、お客さんの前で盛り付けるパフォーマンスもできるじゃないですか。こういう料理は家族団らんの時は喜ばれるし、接待でも喜ばれる。で、おこげの餡はいろんな食材で作れるでしょ。
トマトソースだって作れるわけです。いろんなバリエーションができるっていうのも、定番料理にしやすい要素ですよね。
おこげ料理のバリエーション。左から「蟹みそとフカヒレ」「海鮮」「五目」 |
田中 しかしおこげ自体は、ひとつの食材になっていて、厨房ではそれを揚げればいいだけになりました。
南條 昔、樓外樓によく行っていた頃、おこげも店でちゃんと作ったものを出していました。こんがり焦げたやつでね。
― 手づくりのおこげですね。
古川 鍋にくっつけて作りますよね。
田中 昔は、それが自分たちの下仕事の中の一環だったものです。それをおこげ料理だけじゃなくて、揚げて、エビのチリソースの下に敷くという用途もあったりしたわけですが。
古川 実は私どもも、火鍋もおこげも商品化している歴史があるんです。しかもわりと最近。
― いつぐらいですか。
古川 どちらも3年前ぐらい前です。その頃は、東京を中心に火鍋がブームになりかけて。
― 現地から来たチェーン店が急速に広がっていった頃。
古川 小尾羊(シャオウェイヤン)と小肥羊(シャオフェイヤン)がありましたかね。我々は火鍋をスープとして開発し、おこげの方は4切れぐらいお付けして商品にしました。
― それは自分で揚げるんですか。
古川 いえ、おこげスープとして開発したので、「ひたパン」のようにそのままスープに浸していただく形です。おこげは浮き身として人気が出た時期があったので、日本にもその存在が知られていたように思いまして。
しかし、本来はスープ料理ではないこともあって、なかなか浸透しませんでした。それを思うに、火鍋とおこげの潜在的な魅力は、みんなで囲むと楽しいってところなんでしょうね。今外食で支持されているのは、そういう部分なんじゃないでしょうか。
福島 そうかもしれないですね。こっちは想像以上の反響で、今までは食べ方の提案をしてこなかったぶん、そういうことも提案していってもいいのかなと思うようになりました。
古川 そうですね。ぜひ、その楽しさをもっと日本に浸透させていってほしいですね。
田中 確かにおこげって、なかなか家庭でやろうと思うと、難しい面がありますよ。
古川 難しいと思います、ご家庭では。
南條 きりたんぽが、似たようなもんだと(笑)。
古川 それは家でやりますね。
南條 焼いてあるのが買えるし。
― きりたんぽは、スーパーだけじゃなく、お歳暮などのギフト用として定着しつつありますよね。今はご当地に目が向いてますから。
古川 中国でも火鍋がブームだそうですが、ここ10年くらいの話だと聞いています。
福島 そうでしょうね。今まで辛いのはあんまり食べられなかったですものね。
田中 日本でブームになったのは、この3年ぐらい。
古川 2008年か2009年ぐらいから急に広まってきています。沿海部が発展して、四川省から来た出稼ぎの方、労働者の方にバーッと人気が出て。向こうで食べるとすごく安いですよね。ものすごい安かったんで、僕もしょっちゅう食ってたんですけど。
南條 あれ、一時ほら、阿片(アヘン)入れてるっていう噂があったでしょう。
古川 それで中毒になってるという。
福島 一回食べるとやめられなくなっちゃうから。
古川 あと、あのスープは真面目に濾して再生してるみたいですね。日本でいう、うなぎ屋秘伝のタレみたいに。
― ところでおこげも火鍋も四川系ですよね。何かと四川系が強くなりがちなのはなぜでしょう。
福島 四川系の味って、味付けそのものが、いわゆる普通の調味料では作れないからじゃないですか。
香辛料の配合も独特だし、辛みだけじゃない、日本人の体験として初めての味なんじゃないでしょうか。だから高級に感じるのか、本格的に感じるのかわからないですが、四川系にはかなり反応があることは確かです。
古川 陳建民さんが四川料理を日本にご紹介した時、回鍋肉に日本の味噌を使われたり、キャベツを使われたりして工夫され、私どももそれを先生にご指導いただいたよう、日本人が食べやすいようにアレンジしてきたわけです。
しかしそれは、料理を浸透させるために必要な、日本における中華のファーストステージであって、今、四川料理がすごくもてはやされている理由は、香りなんだと思います。
事実、すごく特徴的なものが多いですし、香辛料がまた新しく入り始めている。そういう意味で、最初に日本に浸透した四川料理が、次のステージに来ている気がします。
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>NEXT TALK 「消えた料理・当たりそうで当たらない料理」
Text 佐藤貴子(ことばデザイン)
人物撮影 林正