当コーナーは「中華好きを増やす」というミッションのもとに集まった、同士たちのトークセッション。中華を愛し、中華に一家言あるメンバーが、円卓と料理を囲んで、熱く語り尽くします。
※このシリーズは、3月8日に新橋亭新館にて行われた座談会「第1回 中華好き人口を増やす会」の模様をお届けします。
2012/6/20up
[9]名前と見た目で料理が羽ばたく
田中 中華好き人口を増やす一番の方法って、やっぱりキャッチフレーズ的なものや、イメージがパッとわくような言葉が出てこないといけないんじゃないかな?
売り文句を見つけて、その料理自体のネームバリューを見つけないと定番化されていかないもの。例えば「芥蘭菜の炒めもの」みたいな、まだ浸透していない料理を「芳香炒め」っていうとか、そういう考え方も必要だよ。
―― 名前を作ると。
古川 名前は大事だと思いますね。
田中 要するにキャッチフレーズが料理名になるっていうことが大事よ。
福島 チリソースとか、そういう名前じゃなくて?
田中 例えば酢豚ってもともと糖醋肉(タンツウロウ)でしょう?酸っぱい豚だから酢豚になった。誰が作ったんだがわかんないけど、そういう発想が必要ということ。
髙橋 その名前が、日本に酢豚を定着させるための工夫だったんでしょうね。
―― 元の名前と全然違いますものね。
田中 素材と味が入ってるとわかりやすいよ。
古川 古老肉(グーラオロウ)とか言われてもわからないですものね。
―― たしかに。何でああいうネーミングになったんでしょう。
南條 やっぱり何か故事があるんじゃないですかね。
―― 古い老人のお肉(笑)。とても日本じゃつけられない名前です。
福島 これ、大丈夫なのか?硬いんじゃないか?って思いますよね。古いのか、硬いのか…、どっちもか(笑)。
髙橋 いずせにれよ、全然プラスイメージじゃないですね(笑)。
田中 だいたいの店では古老肉ってメニューに書いてありますが、私どもでは甘酢ソースで調味しているということで、糖醋肉と書いています。
料理名は味付けと材料、その組み合わせで作るのが定番の手法。つまり、料理名を見たら、何を使ってどういう調理法をしたらいいかがわかる。ところがいつの間にか、そういうルールじゃない料理、感性を活かしたネーミングの料理がいっぱいでてきた。
その場合の一番の問題は、お客さんがそれで料理を理解してくれるかどうかですよねえ。魚香(ユイシャン)、宮保(ゴンバオ)とか、中国の正しい料理名をずっと使い続ければ覚えてもらえるんだろうけど、変えちゃったら覚えられない。
古川 そういうことですよね。
田中 例えば魚香魷魚(ユイシャンヨウユイ)、要するにイカの辛味炒めだけど、魚香魷魚って言葉が一般常識化すれば、みんなそういう風に呼ぶよね。新しい料理を作ったときに、名前は統一しないと、料理が広まっていかないよね。
古川 料理名の音と意味をセットで理解していただけるようになるまでは、やっぱり時間がかかりますよね。外食店さんで流行るようなメニューが、少し遅れてでも日本の家庭の中に名前とセットで入っていけるような形になれば、私どもにとってもこんなに嬉しいことはないんですけどね。
―― 新しく通りのいい名前というか。例えば火鍋が浸透したのもそれが理由かもしれないですよね。日本の場合、火鍋(フオグオ)とか言わないで、火鍋(ひなべ)っていうと、パッとイメージしやすい。
田中 火鍋(フオグオ)って言ってたら、普及はあり得なかったね。
―― 何だかわからないという。
田中 火鍋(ひなべ)っていったらさあ。
―― 酢豚と一緒でパッと頭に入る。
福島 そうかもしれないですね。
田中 だからネーミングですよ。やっぱりネーミング。
古川 実は我々も火鍋(ホーコー)って名前で出したことがあるんですけど、やっぱり普及しなかったです。
―― 誰が火鍋(ひなべ)って言ったんでしょうか。
古川 それは、火鍋(ひなべ)としか呼んでいただけないので(笑)。
福島 XO醤をバツマルジャンって呼ばれたこともありました(笑)。前に店で「バツマルジャンって何だ?」って尋ねられて、「えっ、バツマルジャン?あー、読みがな振ってなくてすみません」っていうことが。
古川 ゴシック体とか、きちっとした書体で書くとバツマルとかペケマルとかって言われて。だからわざと字をくずして、斜体文字みたいにして書いたりするという(笑)。
髙橋 知らなきゃそうなりますよね。
古川 料理名はやっぱり、最終的には業界全体を通して統一していかないと。
田中 業界の人たちで統一することから始まって、一般の人にもそのネーミングを覚えてもらうことが第一歩ですよね。
古川 名前ですから、呼んでいただけないとご指名いただけない。
田中 そして、名前と料理が合致していないと売れないという。
中国料理ドラマで料理を知らしめる
南條 あとやっぱりね、『チャングムの誓い』みたいな、中華でああいうドラマをやればいいんですよ。宮廷にいるものすごいハンサムな皇帝のために、コックが美しい料理を作る。これが中国の料理なんだ、どうだっていう、そのくらいのものを。
―― たしかに、チャングムの中国料理版があったらいいなあ。
南條 中国の番組はある。日本で作りゃいいんです。
田中 でも、そもそも中国料理ってやっぱり理解されてないんだろうな。中国料理ってどんな料理?って聞いたら、普通はラーメン、餃子、チャーハンってなっちゃうだろう。
古川 わかります。
田中 ラーメン、餃子、チャーハンにエビチリに麻婆。これ以外の料理は「そんなのあったっけ?」みたいな。ふかひれ料理とかあっても、それはごく一部の人のもの。
―― 高級食材だと。
田中 さっきの料理名の話につながるけど、中国料理を知っているということは、料理の作り方を知ってますっていうことになるんだよ。だけど、一般の人からすると中国料理=ラーメン・餃子。だから料理も知らないし、やぼったく思われる。
家族で外食っていうシーンを考えてみてもそうだ。家族で洋食っていうと、ちょっと気取ってステーキとかでしょう。割烹だって、きちっと落ち着いた格好で行くじゃない。でも中華っていうと、そういうイメージがわかないよね。
それはつまり、料理をわかってもらってないし、食べてくれてもいない。これがいちばんまずいことだよ。
ナマコの煮込んだのをきちっと食べてくれた人がどれだけいるかって、まずそんないないと思うんです。ふかひれでも、鮑の煮ものでもそうだ。つまり、お客さんが料理を知らな過ぎるのが、やっぱりいちばん中華が伸びない証拠だよ。
前菜の盛り付けでイメージアップを
南條 あと、僕思うんですけどね、前菜の盛り付けですよ。やっぱり中国で出すようにね、干絲なら干絲で、それはそれは美しくきれいに盛るでしょう。
宴会料理なんて、芸術品みたいに盛るじゃありませんか。干絲なんてそんな値段高いものじゃない。盛り付けはお客をハッとさせる盛り付けはコックの努力ですよ。
例えば宴会だったら、8品なら8品の前菜を美しく盛るとね、それだけで随分、高級感があると思いますよ。まとめてゴチャって置いてはいけない。和食だってきれいに盛るんだから。
田中 それはよくわかります。洋食のパーティー料理って見ていてすごくきれいだよね。うちでパーティーやっても、どうもハッとするセンスがないんだよな。もちろん、宴会用には盛るんだけどね、センスのなさというのか…。
でも「食ったら中華が一番うまい」って、洋食の料理長たちは言うんだよ。洋食の場合、前日から作り置きしているものも多いけど、中華の場合は、温かいし、食ってうまいって。だけど評価が低い。
―― イメージなんでしょうか。
田中 イメージアップするのは必須ね。
南條 その上で、ちゃんとした中国料理の単価を決めていかないといけませんよね。洋食だって高いでしょ。今は食材も高くなっています。それを理解してみんなが金を払うようにすべきですよ。
田中 最近、B級グルメがマスコミでもてはやされて過ぎているのもいけないと思うんだよね。隣の店に行ったら、350円で五目丼が食えちゃうし、ラーメン380円なんてのもあるでしょ。
宮廷料理も満漢全席も中国料理なのに、そっちのイメージはあまりにも定着してない。中国四千年の歴史っていっても、5年くらいしか生きてないようなものばかり。それでは、やってる本人たちも面白くなくなっちゃうよね。
―― 料理人のモチベーションが下がっちゃう。
田中 下がりますよね。だって、同じ名前の料理を、隣で350円で食えるんだよ。腕も素材も違うかもわからないけど、なんだかデフレになっているだけのようにも思います。自然に安く安くっていう形態に流れてっちゃう。悲しいですね。
南條 料理雑誌なんかも、最近中華といえば餃子特集しかやらないもの。
田中 餃子の王将が過去最高に儲かってるっていうんだから、いかに、あれだね。
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Text 佐藤貴子(ことばデザイン)
料理撮影 西田伸夫