ふかひれだけでなく、サメ肉も中華に!40歳以上のベテラン料理人が競う第1回サメ肉中華コンクール、ファイナル5皿&5名が決定!
サメ肉を使った中国料理コンクール
決勝進出の5皿&5名
80C(ハオチー)で開催概要、予選審査の模様と続けてレポートしてきた「サメ肉を使った中国料理コンテスト」の決勝戦が5月末に行われました。
このコンテストは、気仙沼を中心とした近海マグロ延縄漁の存続と、日本古来のサメ食文化の継承のため、ふかひれを使う中国料理人こそサメ肉も!というビジョンのもと開催された今年初の試み。
応募条件は、40歳以上のプロの中国料理人。日本の中国料理界をしょって立つ彼らの腕から、どんな「サメ肉中華」が生み出されたのか―――?決勝進出の5皿と受賞者の顔ぶれをご紹介します。
調理の現場から
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ふわっと軟らかな食感を活かした
サメ肉のピカタ風&水餃子
最高得点である水産庁長官賞を受賞したのは、ヨシキリザメの柔らかな身の食感を活かすこと、淡白な味わいを殺さないことをポイントに作り上げた、大阪あべの辻調理師専門学校勤務の塘(つつみ)和英さんのこのひと皿です。
中央に盛り付けられているのは、サメ肉に筍とクリームチーズを挟み、衣をつけて煎り焼きにした後、トマトや黄ニラを入れたスープで水気がなくなるまで煮含めた、ふっくらと丸みのある味わいのサメ肉料理。
さらに周囲に配したのは、蒸したサメ肉とひと口サイズの水餃子。サメ肉は湖南省の調味料・剁椒(ドウジャオ)をメインに、香味野菜、シーズニングソースで調味。さらに熱した落花生油をジュッとかけて香り高く仕上げました。
驚くのは、水餃子の皮にも約20%のサメすり身を練り込んでいること。豚ミンチをベースに、サメすり身、干しエビを加えた餡を包み、とろっとした食感のモロヘイヤを添えています。
切り込みを入れたサメ肉に具を挟みます。
卵と粉の衣をつけて揚げたサメ切り身をスープとともに煎り焼きに。
言うなれば“中華風ピカタ”です。
下味には香味野菜をしっかり絡ませます。
赤々とした剁椒(ドウジャオ)は、生唐辛子を塩漬けにして発酵させた調味料。
辛くて酸っぱい湖南省の味です。
塘(つつみ)和英さん
大阪あべの辻調理師専門学校の技術研究所教授。この道26年目のベテランです。
料理について尋ねると「ヨシキリザメの肉を食べたのはこのコンテストがきっかけ。独特の食感と淡白な味わいという特徴を活かせるメニューを考えました。しっとり感を補うのに役立ったのは卵白。軟らかな食感が保てるような調理法と加熱状態で提供することで、他の魚にはない風味を楽しめると思います」と塘さん。
調理会場では制限時間いっぱいまでできる限りの手を尽くし、終了直後には厳しい顔を見せていたものの、授賞式では一転「私の料理が気仙沼復興の役に立てるならうれしいです」と、大きな笑顔を見せました。
料理用語のマメ知識[読み]グゥォター [ピンイン]guō tā 現在は「鍋塌」と書くのが一般的。『中国食文化事典』(中山時子監修)によると「油焼きして煮る。一般に、すでに掛糊(編集部注:衣掛けの意味)した材料を、まず煎(炸の場合もある)し、香ばしい焼き色をや揚げ色をつけたところに、調味料やスープを少量加え、味をふくめるように煮る調理法。表面に香ばしく色がついて、舌ざわりがやわらかくなり、味もよくつくという特徴がある。北京料理にある調理法の一つ」とあります。 |
ふかひれをまとった
笹かまぼこ型サメの練りもの
続いてご紹介するのは気仙沼市長賞。仙台名物・笹かまぼこを思わせるビジュアルが目を引く、江海櫻(こうかいおう)さんのこのひと皿です。
2位
芙蓉鯊片(サメ肉の芙蓉仕立て ふかひれソース掛け)
サメ肉をすり身にし、卵白と混ぜて木の葉状に成形し、低温の油で色がつかないように揚げた「鯊片(サメの切り身(を模したもの))」に、ふかひれと蟹の餡をとろりとかけた一品。皿の縁にあしらったのは、サメ肉のすり身にむき海老を混ぜ、刻みベーコンをまぶして揚げたもの。白とピンクが映える、可憐なひと皿です。
サメ肉と卵白を合わせてしっかり練り、ふわふわのすり身を作ります。
超低温の油に入れ、色がつかないように揚げることで、独特の滑らかな口当たりに。
江海櫻さん
メニュー考案と調理を手掛けたのは、市ヶ谷駅前にあるアルカディア市ヶ谷 私学会館 中国料理「翠(すい)」の江海櫻さん。
「サメ肉のやわらかさを最大限に活かし、口当たりよく滑らかに仕上げました。サメ肉にふかひれ餡をかけることで、サメをまるごと料理として提供できるのもポイントです」。
料理用語のマメ知識サメは中国語で「鯊」と「鮫」、2つの表現があります。なぜかというと、サメやエイなどの軟骨魚綱(軟骨魚類とも言います)は板鰓亜網(ばんさいあこう)と全頭亜網(ぜんとうあこう)に分かれており、鯊は前者、鮫は後者に該当するため。中日英魚類専門辞典によると、ギンザメ科とタイワンザメ科が「鮫」の字を使用。この分類に基づくと、ヨシキリザメは中国語で锯峰齿鲨、つまり「鯊」の字を使います。しかし、日本人は鯊がサメと言われてもピンと来ないかもしれませんね。なぜなら日本語で鯊は「はぜ」。まったく違う魚だからです。 【鯊】ヨシキリザメ 【鮫】ギンザメ |
揚げたてを頬張りたい! サックサクのカダイフ&ライスペーパー揚げ盛り合わせ
3つめにご紹介するのは、気仙沼漁業協同組合組合長賞を受賞した、見るからにサクッとしている揚げもの2種。口に含めばジョワッと崩れてこの上なくクリスピーな食感が楽しめる、札幌グランドホテルの永島淳吾さんのひと皿です。
3位
鮫魚炸双味[鮫肉銀絲捲/海螺龍須捲](サメ肉を使った揚げ物2種)
ラディッシュときゅうりの上に盛り付けられているのは、サメ肉のすり身に山芋や卵白を加えて食感を整え、主に東北地方で食べられている海藻・アカモクを混ぜ込み、カダイフを巻いて揚げたもの。
料理の着想を得たのは、なんと物産展での出会い。「北海道で開催されていた物産展でこの海藻を見つけ、これなら東北の海の幸の取り合わせになると思いました。アカモクは、昔は漁師の邪魔者などと言われていたそうですが、めかぶのようなねばりがあり、ポリフェノールやミネラルも豊富。食感が固いので、フードプロセッサーで細かくして使っています」と永島さん。
カダイフに卵液を塗り、すり身の衣にします。
火が通ってくると、鍋から揚げものの香ばしい香りと、ほのかな海藻の香りが…!
そして、斜めにカットして盛り付けられているのは、サメ肉に黄ニラ、豚背脂、しょうがのみじん切りを混ぜ、ライスペーパーを巻いてからパン粉を付けて揚げたもの。カダイフの巻き揚げに比べると、サメ特有の食感を味わえるのがこちらの料理です。
つけだれはレモン汁、レモンの皮、すりおろしたニンニク、はちみつ、黒胡椒、塩、みじん切りにしたピーマンをブレンド。爽やかで引き締まった味わいが、揚げものの風味をより引き立てます。
形が崩れないよう、竹串を挿して丁寧に揚げる永島さん。
そのまま頬張りたくなるほど美しく揚がりました。
カダイフの巻き揚げはブレンドスパイスで調味します。
永島淳吾さん
札幌グランドホテル チャイニーズダイニング「黄鶴(こうかく)」勤務。各種中国料理コンテスト受賞の常連料理人でもあります。
「サメ肉を調理したのはこのコンクールがきっかけ。料理はコースの中の一品としても、単品でも実際に提供できるようシンプルに仕上げました。調理してみて感じたのは、バリエーションが付けられそうな素材だということ。機会があれば店でやってみてもいいなと思います」と言う永島さん。
表彰式の後、「結果には満足せず、これからもひたすらに、おいしいものを作り続けるだけです」。そう言い切る表情が凛々しかったです。
料理用語のマメ知識
近年中国料理で揚げものや焼きものの“衣”としてよく見かけるようになったカダイフは、小麦粉をベースに作った極めて細い麺状の食材。 |
真空調理でしっとり軟らか
サメ肉本来の風味を活かす
続いてサメの街気仙沼推進協議会会長賞を受賞したのは、今回の入賞作で唯一、真空調理を用いた冷菜。ANAクラウンプラザ神戸 中国レストラン「蘇州」仲本宜史さんのひと皿です。
4位
無気蒸柔魚(ヨシキリ鮫肉の真空調理 キューブ仕立て)
サメ肉は一度蒸し、バーナーで表面を炙って焦げ目を付けた後冷却し、毛湯、レモングラス、花椒等ともに真空調理で70℃で30分加熱。一緒に盛り付けられた冬瓜とカブも、毛湯、干しエビ、しょうがで92℃で30分真空調理しています。
真空調理後のサメ肉をカット。炙りの焦げ目がアクセントになっています。
サメ肉も野菜も、火をしっかり通しながらも色味を損なわず、しっとりと仕上がっているのが持ち味。ダイス型に切り揃えられた食材、そしてサメ型に抜かれたにんじんが白い皿の上でよく映えます。
仲本宜史さん
「合わせるソースはマレーシア風の沙爹醤をベースに、スープ、牡蠣油などをブレンドしています。また、サメ肉の真空調理時には、レモングラスや花椒を入れることで、臭みを感じさせないよう仕上げました。下味は極薄い塩分にしているため、減塩メニューにも対応できます」と仲本さん。
盛り付けが美しく、食材が食べやすくカットされている冷菜とあって、宴会等に重宝しそうな一品です。
カリッとふわっと、ボリューム満点
パン生地でつくるサメ肉料理
もう1点、サメの街気仙沼推進協議会会長賞を受賞したのは、サメ肉の食感を活かした照り焼きと、広東風に食パンとサメ肉のすり身を重ねて揚げた料理の2種併せ盛り。大磯プリンスホテル 中国料理「李芳」大類浩一さんのひと皿です。
5位
玫瑰煎鯊魚 鍋貼”絆”鯊魚(ハマナスの香り中国風照り焼き サメのすり身揚げミルフィーユ仕立て)
中央に盛り付けられたのは、下から順に新じゃが、玉ねぎ、トマト、2本を編むように仕立てたアスパラ、煎り焼きにしてたれを絡めたサメ肉、揚げワンタンに白髪ネギ。「トマトの酸味、玉ねぎの甘味、ジャガイモのほくほく感などと、サメ肉を玫瑰の香りのたれでまとめた」という一品です。
サメ肉の切り身に粉と卵を絡め、ふわっと煎り焼きに。
ハマナスの花のエキスを配合した玫瑰露酒、野菜の煮汁などを使い、
香りのよい照り焼き風に仕上げます。
そして、もうひとつの主役は、言うなれば“サメ肉トースト”。卵白、片栗粉、下味を入れたサメのすり身を食パンに三層に塗って蒸し、鍋で焼いた一品です。表面はサクッ、中はもっちりしていますが、「タレがしみ込むことで、ねっとりとしたサメの食感も感じられるようになっています」。
三層になっているとは芸が細かい!
試食用のひと皿より。
大類浩一さん
この料理を「震災の復興に少しでも力になれたら」という想いで作ったという大類さん。
「アスパラを二本絡ませたのは“絆”を。鍋貼の3層は人、サメ、心を表し、“支える”ことを表現しました」と言う通り、コンセプトのしっかりとしたひと皿でした。
After Competition
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Text 佐藤貴子(ことばデザイン)
Photo 佐藤貴子(ことばデザイン) 小杉勉(中華・高橋)