RED U-35で快挙!「海鮮名菜 香宮」料理長・篠原裕幸さんがグランプリを獲得。喜びの声と審査員のコメントをご紹介します。

中国料理から初のグランプリ誕生!

「広東料理の本場・香港で日本人がシェフになれるのか? それを思うと、日本における中国料理は、現地で多くの日本人が活躍しているフレンチやイタリアンに比べて、50年は遅れていると思います。

僕が目指すのは、香港でシェフになること。そして、日本で広東料理を志す人たちの道を拓くこと。自分がそこに挑むことによって、中国料理業界に限らず、みんなに夢を与えられると信じています。そのためにも、自分が優勝する必要があるんです」

そんな強い意志のもと、日本最大の若手料理人コンペ「RED U-35」に臨んだのは、「海鮮名菜 香宮」の料理長・篠原裕幸さん。2015年で3回目を迎え、年々注目が高まるこの大会でグランプリ・RED EGGを獲得したのは、中国料理のシェフでした。

篠原さん自身「自分は中国料理業界を背負って出る、というくらいの気持ちで出場した」というこの大会。念願のRED EGGには「自分だけの賞じゃない」という想いがあります。

篠原裕幸さん
RED EGGで名前を呼ばれて思ったのは、まさかの「俺!?」(RED U-35 受賞セレモニーにて撮影)

「熱くてうまいもの食わしてやろう」という心意気

今年の応募は465名。1次の書類審査、2次の映像審査を経て、3次の面接を突破したのはたった6名。その6名の勝敗を分けたのが、最終選考となる1泊2日の合宿審査でした。

その課題は、選考会場である軽井沢のホテルにて「審査員の軽井沢1泊2日をおもてなしすること」。
ライバル同士が協力しながらコースを作り、コミュニケーションを取りながらもそれぞれの個性をどう出すかが問われる中、篠原さんが担当したのは「信州ハーブ鶏の上湯スープ 二種のワンタン おこげ」です。

鶏といえば広東料理に欠かせない食材。12月、軽井沢の夜の冷え込みは厳しく「熱くてうまいもの食わしてやろう」という一心で作った料理でした。

説明風景
篠原さんとともに料理をつくり上げた「ピルエット」の野田さんは準グランプリを獲得。
スープ
合宿審査で作り上げたのは「信州ハーブ鶏の上湯スープ 二種のワンタン おこげ」。写真はおこげにスープを注ぎ入れている様子。
調理の横顔
最終の合宿審査で厨房にそっと置いたのは、今年亡くなったお母様の写真。「十分親孝行できなかったぶん、ここで恩返ししたいと思って」。

「中国料理の力」を信じる強さに心打たれた

最終審査まで来れば、料理の腕は言うまでもなく、皆すばらしいはず。では、なぜ篠原シェフがグランプリに…?

審査員の1人、「龍吟」オーナーシェフ・山本征治さんにその理由を尋ねると「ゴールドエッグの審査、実は彼が一番抜けなんですよ」と驚きの発言が!

特に山本シェフの心に残ったのは「彼が信じているのは『自分の力』ではなく、自分がやっている『中国料理の力』」だったということ。

「みんな“自分”なんですよね、アピールするのは。でも、彼が信じているのは、自分が人生をかけた中国料理なんです。そこに感動したんです」。

「日本の中国料理の遅れを取り戻したいって言っていた子、いるよね?」と他の審査員に尋ねた時、皆がそれをよく覚えていた言う山本シェフ。「だから、決してもらった賞を自分のものにしてないんですよ彼は。僕ら審査員一同、その想いを失いたくない、という気持ちでした」。

また、「篠原さんは『日本の中国料理界をなんとかしていくんだ』と一貫して言っていました。そして、緊迫する状況においても、ブレずに自分の料理を作り続けていましたね」と語ってくれたのは、フードコラムニスト・雑誌『あまから手帖』編集顧問の門上武司さん。

RED U-35は、料理だけでなく、人間性や将来性も審査対象とする異例の大会。広東料理を通じて未来へ希望を描く、篠原さんの「ブレない姿勢」が、長時間にわたる審査を通じて、静かに熱く、皆の心を動かしたのです。

山本征治さんが取材中激励訪問
「龍吟」オーナーシェフ・山本征治さんが取材中激励訪問に。2次審査に出品した「冬瓜夹全鶏(香鶏と冬瓜の重ね蒸し)」を実食し、そのおいしさに、思わず「おかわりください」と言ったのは山本シェフでした。(RED U-35 受賞セレモニー後のインタビューにて撮影)

広東料理人として香港を目指す

こうして4月から12月まで長い挑戦の末、大きな栄光を手にした篠原さん。それは結果をもたらしただけでなく、「自分が世の中のためにできることは何か?」ということを考える機会ともなったようです。

その中で、今考えているのが「香港や広東省で働きたい料理人のための、広東語の本を出したい」ということ。

「自分自身が苦労したので、現地ですぐに使える広東語を知っておけば、もっとずっと早く学べると思うんですよね。自分の時もそういうものがあればよかったんですが、ちょうどいいのがなくて。それならば、自分がやろうと思いました」。

そしていずれは再び香港に向かい「香港で店をやることが、ひとつの大きな目標」と語ってくれた篠原さん。
「まだまだスタートラインに立ったばかり」と謙遜しますが、賞金500万(※所属料理人の場合は本人に300万円、店舗に200万円)、副賞に「世界一憧れる料理店に食べに行ける研修」など、今後のサポートが約束され、夢の実現に一歩近づいたのは紛れもないこと。

中華業界にも大きな感動と刺激を与えてくれた、嬉しいビッグニュースとなりました。

篠原裕幸さん
「この喜びを誰に伝えたいですか?」と司会者の質問を受け、「今年亡くなった母との約束が果たせました」と涙を流した篠原さん。(RED U-35 受賞セレモニーにて撮影)
受賞セレモニー
RED U-35 受賞セレモニーにて撮影
マニアック上等!80C(ハオチー)篠原シェフシリーズ
薑汁撞奶(しょうがミルクプリン)

① 本式の広東式しょうがミルクプリンを求めて in JAPAN
② 香宮篠原シェフ直伝!失敗しないしょうがミルクプリンのつくり方
③ 本式の広東式しょうがミルクプリンを求めて in 順徳

現地食紀行~広東料理マニアックス

① 順徳料理とは? ② 農家レストラン ③ 田舎へ帰ろう in 広東省

「香宮」で順徳料理を食べて体験

① 前菜編 ② 料理編 ③ 甜品編

 


text  佐藤貴子
photo 佐藤貴子(RED U-35 受賞セレモニー)、RED U-35 オフィシャルフォト(合宿審査)