日曜晩に放送される人気テレビ番組『世界の果てまでイッテQ』(日本テレビ系列 2018年6月17日放送)で、イモトアヤコさんが重慶市の絶景スポットを訪れていました。

番組内では、イモトさんが夜景の美しさや人の多さに言及していましたが、実は重慶は中国国内でも人気のある旅行先。

日本人にはややマイナーかもしれませんが、中国で最も人口の多い都市であり、常住人口は3,075万人超。その面積は、日本の北海道に匹敵するほど広大です。

そんな重慶が誇る食といえば、重慶火鍋(重庆火锅)と重慶小麺(重庆小面)。いずれも、新聞社と有識者による「50强(ベスト50)」が毎年選出されており、その結果は重慶人や観光客の注目の的。

特に日本でも火鍋がいろんなところで食べられるようになった今、ここで本場の火鍋についてご紹介いたしましょう。

見れば地獄、食べれば天国!必ず食べたい重慶名物、麻辣火鍋(マーラーフォグゥォ)

唐辛子の辛さと花椒の痺れに、一度食べたらヤミツキの麻辣火鍋。今や中国全土、そして世界中に広がる麻辣火鍋は、ここ重慶が発祥です。

街を歩けばすぐわかりますが、ともかく重慶には火鍋店が多い! また、市内には火鍋店が集結した「重慶火鍋第一街」なるストリートもあるほど。

そんな火鍋発祥の地にして激戦地、重慶の火鍋の味わいを描く要素とは何なのでしょうか。 1:鍋スープ、2:つけだれ、3:具の3点から、その特徴をお伝えします。

獅子坪エリア、東湖南路にある「重慶火鍋第一街」。こうした火鍋集結地は、1か所だけではなく、市内に複数あるのです。

1:鍋スープは牛脂ベースで赤一色。飲まずに煮るのが基本!

日本の場合、鍋スープ=基本的に飲めるもので、火鍋の場合も同様に調整されている店は少なくありません。しかし、重慶の鍋スープは”飲む”ものではなく、”食材に火を通し、麻辣風味をつけるもの”。

火鍋底料(火鍋のベースとなるもの)の原料は、熱した牛脂で香辛料の風味を抽出したものがベースです。ゆえに、スープで割っても、飲むにはちょっと脂っぽいんですね。

重慶の観光地「磁器口」で売られていた火鍋の素。牛脂と香辛料が冷え固まって、麻辣ケーキのようになっています。

また、日本では麻辣が効いた赤いスープと、鶏ガラや豚肉などでとった白いスープの両方で楽しめる鴛鴦鍋(おしどりなべ:ユェンヤングゥォ)が定番。一方、重慶では「赤一色」が基本です。

重慶火鍋第一街にある「弄吃火锅」の火鍋。

もちろん2種類のスープでも楽しめますが、写真のように「白」の量がおまけ程度であることがほとんど。しかしご安心ください。「赤」の辛さは調整可能。「微辣(ウェイラー)」にすると、控えめな辛さで火鍋が楽しめます。

 

2:油で脂を制す!? ごま油がつけダレに!

そして、つけだれには胡麻油をベースに、にんにく、香菜、葱などの香味野菜、好みで塩や黒酢を加えた“つけ油”を使うのがポイント。

「渝宗老灶火锅」で作った火鍋のタレ(一例)。写真は焙煎したゴマ油に、小葱、白葱、香菜、ニンニクの粗みじん切り、オイスターソース。オイスターソースを使うのは、成都の火鍋店で多く見られる食べ方です。

いわば香り高い動物性油脂ベース(香辛料を抽出した牛脂)で煮た具に、香り高い植物性油脂(焙煎した胡麻油)をまとわせて食べる感覚ですが、これが思いのほか胃にもたれないのにはびっくり。

なかには、このタレに具をつけた後、煎った唐辛子をベースにしたスパイスをまぶしてる重慶人もいます(写真下)。なんたる辛さへの耐性と嗜好…!

重慶人は、麻辣鍋底で具を煮た後、ゴマ油ベースのタレをつけ、さらにこの麻辣スパイスをつけて食べることも。白く見えるのは、なんと顆粒のチキンスープ!

3:定番の具は内臓。意外とクセのない食材も多い

また、日本の火鍋は豚肉や牛肉などの肉類が欠かせませんが、重慶の火鍋には内臓類が欠かせません。それもそのはず、重慶火鍋は新鮮な内臓を麻辣味で煮て食べたことがそのルーツ。新鮮な内臓を揃えていることは、店のウリにもなります。

「重慶火鍋五十強(重庆火锅五十强)」に選ばれている「趙二火鍋(赵二火锅)」のメニュー。ここは水牛のセンマイがイチ押し。

定番の食材は、牛や水牛のセンマイハチノスや、アヒルやガチョウの腸豚やアヒルの血をプリン状に固めた毛血旺、豚の脳味噌など。鍋の流れとしては、肉や内臓類を煮た後に野菜を入れ、最後にでんぷん質が沈殿しやすい芋類などを入れるといいですね。

重慶で火鍋に外せない具といえばセンマイ(毛肚)。内臓の中でもクセがなく食べやすいのでおすすめです。
アヒルの腸(鴨腸)も火鍋の定番食材。コリコリとした食感で、こちらもクセのない食材のひとつ。

また、重慶人曰く、卵炒飯に鍋スープを適量かけて〆ることが多いとか。実際、ポロポロの炒飯に濃厚な鍋底を絡ませれば、米と混然一体となった、凝縮されたの鍋の味わいが碗の中に…! これはぜひ現地で試してほしい食べ方です。

鍋の中は煮え滾る麻辣地獄。しかし大勢で鍋を囲めばそんなことはすっかり忘れ、ご機嫌になれること必至。ここに来たら必ず触れたい食文化であり、食の楽しみこそ、この麻辣火鍋なのです。

重慶市内のスーパーの火鍋コーナー。なんと、端から端まで火鍋の素!

text & photo 佐藤貴子(サトタカ)

火鍋撮影店
渝宗老灶火锅、弄吃火锅、赵二火锅

参考資料
ジェトロ発表「重慶市概況」(2018 年 4 月作成版)