台州料理を中国料理界のスターに押し上げた「新栄記」とは?

台州料理が今のように中国で注目を集めるようになった理由。それは「新荣记(新栄記|シンロンジー|xīnróngjì)」なくして語れません。

台州市の沿岸部、臨海に本店を構える「新栄記」は、台州の地元の料理と、高級広東料理の両方が楽しめる台州発祥のレストラン。台州の料理だけで高級店を作るのは難しいですが、干し鮑やフカヒレなど、高級乾貨も使った多彩かつ正統派の広東料理も食べられるとあって、一躍人気店となりました。

現在「新栄記」は北京、上海でミシュランの星をとるほどの有名店。先ほどご紹介したイソギンチャクと春雨の煮込み(沙蒜豆面)などは、まさに同店が有名にした料理といえます。

「新栄記」臨海本店。外観はまるで旅館。内装もラグジュアリーです。photo by Takako Sato

元来、浙江省の四大菜系は、温州、杭州、寧波、紹興の料理です。これらの都市に共通するのは、長い歴史と、そこに花開く独自の豊かな文化。一方、台州は港と天台山を擁する、目立たない田舎の街でした。南方沿岸部の温州、西湖のある杭州、東方の港町である寧波に挟まれ、これといって突出する産業がない場所だったのです。

しかし、今では「新栄記」本店を目指し、台州市臨海を訪れる人は少なくありません。地元でもこのレストランで食事をすることはステイタスとなっています。現在は「新栄記」より値ごろな価格で楽しめる「栄小館」も中国各地にあり、いずれも繁盛店となっています。

「新栄記」臨海本店の離れの一室。photo by Takako Sato

振り返れば、僕がこれまで約四半世紀中国料理に携わってきた中で、1990年~2000年にかけては中国・日本ともに香港発の広東料理が全盛期でした。それが2000年~2010年くらいは、特に上海の若い人たちを中心に、四川料理や湖南料理など辛さとパンチの効いた料理がトレンドに。

そして僕が台州に行く少し前の2017~2018年くらいからは台州料理、そして広東料理のひとつである潮州料理が注目されてきています。偶然にもそのタイミングでここに来たことは、運と縁というしかありません。

さて、最後に台州に来たらこれだけは必ず食べておきたい小吃をご紹介しましょう。旧正月をはじめ、節句や人が集まるときになくてはならない、台州式の極太焼き春巻「餃餅筒(ジャオビントン)」です。

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