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これを読めば中国各地の食文化がわかり、中国の地理に強くなる!『中国全省食巡り』は、中国の食の魅力を毎月伝える連載です。
◆「食べるべき3選」の選択基準はコチラ(1回目の連載)でご確認ください。

これを食べずして厦門は語れない!沙茶麺(シャーチャーミィェン/沙茶面/サテ麺)

東南アジア各国にサテという料理がある。サテは「串焼き」という意味で、串に刺して焼いた肉にピーナッツベースの甘辛いサテソースをたっぷりつけるのが定番だ。

なぜ唐突にサテの話を始めたかといえば、アモイにもそっくりのものがあるからだ。その名も、沙茶烤肉串という。

豚ヒレ肉の串焼きにピーナッツベースのサテソースをたっぷりからめて食べる沙茶烤肉串。

沙茶は、普通話(標準語)だと「シャーチャー」になるが、福建省南部の方言・閩南話では「サテ」と発音する。となると、「東南アジアのサテは福建省から伝わったものだったのか!」と早合点したくなるが、真実はその逆だ。その昔、東南アジアに渡った華人・華僑が、サテを故郷の広東や福建に持ち帰ったのである。

サテは元々「沙嗲」の字を当てていた。広東では今でもこちらの字をよく見かける。だが、福建では閩南話で「嗲」と同じ発音になる「茶」の字に置き換わっていることが多い。お茶好きの福建人が「茶」の字を好んだからだという説もあるが、さてどうだろう。とりあえず、サテに茶葉が使われているわけではない。

面白いのは、本来「沙茶=サテ=串焼き」という意味なのに、いつの間にか「沙茶」と言えば「サテソース」を指す意味合いが強くなっていることだ。ここで採り上げる沙茶麺も、正にそう。麺を串焼きにはできないので、サテソースをスープにした麺料理ということになる。華僑が持ち帰ったサテソースが中国の麺文化と融合して、新たな料理が生まれたのだ。

東南アジア貿易の拠点として栄えたアモイの歴史が生んだ麺、それが沙茶麺だ。

決め手はピーナッツ!沙茶麺、その摩訶不思議な味

アモイで麺と言ったら、何をおいてもこの沙茶麺だ。沙茶麺を食べずしてアモイに行ったとは言えない。沙茶麺はそう言い切ってしまえるほど、アモイ人の生活に根付いたもので、街には専門店があふれている。アモイ人には、みな自分のご贔屓があるに違いない。

見た目は日本風の担担麺に少し似ているが、味は全くの別物。豊かなピーナッツの香りの中に、辛いような甘いような不思議なコクが溶け合ったスープが衝撃的だ。一体これは何の味なのだろうと味見を繰り返すうちに止まらなくなり、スープはどんどん水位を下げていく。

オリジナリティにあふれたスープは、クセになる旨さ。

その正体は、高湯(ガオタン:肉・骨・魚介・野菜を煮込んだスープ)にサテソースを溶かし込んだものだ。だが、このサテソースが曲者で、東南アジアのものとは異なり、中国風に変化を遂げている。

例えば、干し海老、干し魚、蝦醤(シャージャン:海老の発酵ペースト)、ニンニク、葱、生姜、香菜、唐辛子粉の他、様々な香辛料を油で揚げてからペースト状にし、塩や氷砂糖も溶かし込んで、最後にピーナッツペーストを混ぜ合わせて作るのだ。

もっとも、この作り方は一例に過ぎない。スープの調合は店によって異なり、味もかなり違う。お気に入りの味を見つけるのも、沙茶麺を食べ歩く楽しみと言えるかもしれない。尚、沙茶麺にはレタスが入っていることが多く、シャキッとしたレタスにスープをからめて食べるのもまた美味しい。

複雑怪奇なスープとは対照的に、麺はシンプルだ。鹹水麺と呼ばれるかんすいが入ったストレート麺で、コシはあまりなく、するすると胃に収まる。この麺の主役はスープだとわきまえたかのような大人しさだ。専門店では、あらかじめ茹でおきの麺が器に盛られていて、客の注文が入ったら上からスープを注いですぐに出せるよう準備されている。

カウンターに並べられた茹でおきの麺。コシは重要視されていない。主張のない麺が、逆にスープを活かしている。

どれにしようか悩みぬく幸せ…!めくるめくトッピングの世界

沙茶麺の更なる魅力は、豊富なトッピングだ。専門店ともなれば20種類以上のトッピングが用意されていて、客はみな何かしらを追加注文して食べている。

さあ、何を頼もう。毎日トッピングを変えていけるアモイ人がうらやましい。

例を挙げると、豚ならば赤身肉、ハラミ、レバー、ハツ、ガツ、フワ、ヒモ、マメ、ダイチョウ、トンソクなどのほか、米血(米を豚の血で固めたもの)なんてものもある。

アヒルの肉・舌・脚・血プリンあたりも定番だ。海沿いの街だけあって、イカ、小海老、牡蠣、アゲマキガイ、丸子(豚ひき肉餡が入った魚のつみれ団子)といった海鮮が美味しいのも嬉しい。意外なオススメが煎蛋(フライドエッグ)で、へげへげの部分をスープに浸したり、半熟の黄身をスープに溶かしたりすると旨い。

カウンターに並ぶトッピング。注文を告げると、おばちゃんがちゃちゃっと器に放り込み、スープを注いで出してくれる。
イカと牡蠣と丸子(豚ひき肉餡が入った魚のつみれ団子)を入れた豪華版。
米血(米を豚の血で固めたもの)。ムチッとして美味しい。
オススメの煎蛋(フライドエッグ)。※写真左上
鴨血(アヒルの血プリン)も、お気に入りのトッピングだ。

何をトッピングするか大いに頭を悩ませたあとは、一心不乱に器に向かうべし。中国広しといえどもアモイにしかないエキゾチックな味を存分に味わおう。そして、かつてこの地から大海原に繰り出し、功成り名遂げて帰ってきた商人たちのたくましい姿に思いを馳せるのもいいかもしれない。

≫シリーズ続編:中国全省食巡り4|厦門で食べるべき料理3選 ③土筍凍(海のゼリー)10月3日(水)公開

text & photo 酒徒