◆合わせて読みたいシリーズ記事◆ 中国全省食巡り3|広州で食べるべき料理3選 ①老火靚湯 中国全省食巡り3|広州で食べるべき料理3選 ③早茶 これを読めば中国各地の食文化がわかり、中国の地理に強くなる!『中国全省食巡り』は、中国の食の魅力を毎月伝える連載です。 ◆「食べるべき3選」の選択基準はコチラ(1回目の連載)でご確認ください。 |
日本人にとっての刺身的ポジション!?ハレもケもある焼味(烧味/ロースト料理)の世界

老火靚湯(ラオフォリィァンタン)に続いて、広州に行ったら必ず味わってほしいもの、それは焼味(シャオウェイ)だ。「焼(シャオ)」という字は、中国では一般的に煮込むことを意味するが、この場合は、我々日本人がイメージする意味合いに近い。すなわち、あぶり焼きを意味する。
焼味(シャオウェイ)は、下味をつけた肉類をあぶり焼きにした料理の総称で、叉焼(チャーシュー)、焼肉(豚三枚肉のロースト)、焼乳鴿(小鳩のロースト)、焼鴨(アヒルのロースト)、焼鵝(ガチョウのロースト)、焼乳猪(仔豚のロースト)あたりが代表選手。

こんがりと飴色に焼き上がった焼味は、見る者すべてを魅了する。焼きたて熱々ではなく、人肌程度まで冷ましたものを食べるのが一般的。パリッとした皮としっとりとした肉には実にわかりやすいおいしさがあり、王道のご馳走感に満ちあふれている。


しかし、広州人にとって、焼味はただのご馳走にとどまらない。確かに、宴会でも主役の一角を担うほどのご馳走ではある。広州で焼味が出てこない宴会など、おおよそ想像ができない。だが、それと同時に、日常生活でも毎日のように口にするほど身近な存在だ。
ハレの日もケの日も焼味!
例えば、街角のローカル小吃店。ある時は、シンプルにご飯のお供に。ある時は、煲仔飯(炊き込みご飯)の具に。またある時は米粉や河粉といったライスヌードルの具に、焼味は八面六臂の活躍を見せる。単体で供されるレストランの焼味とは違って、主食に華を添える格好で登場する。


或いは、街のあちこちにある焼味鋪(シャオウェイプー:焼味の専門店)。どの店も通りに面した側がガラス張りになっていて、客の目に見えるように、焼き上げたアヒルやガチョウをぶら下げている。焼味はどれも量り売りで、「一斤(500g)ちょうだい!」という客の声に応えて、店員が焼味を中華包丁でガンガン叩き切る…というのが、広州の日常的な光景だ。


広東語には「斬料」という言葉がある。直訳すれば、「材料を斬る」ということだが、これが転じて、「焼味鋪で焼味を買って、おかずの足しにする」という意味になっているのだから、おもしろい。中華包丁で焼味を叩き切る様子から想起された言葉であろうが、広州人にとって、焼味鋪で焼味を買うことが如何に普遍的なことかが、この一語からもわかる。

ハレの日もケの日も食べるもの。日常に根付いた料理なのに、いざという時のご馳走感を失っていないもの。不思議な存在だと思うが、誤解を恐れずに言うなら、焼味は日本人にとっての刺身のようなものかもしれない。
尚、安価なローカル小吃店や焼味鋪の焼味もおいしいものだが、ちゃんとした広東料理店で食べれば、材料の質・調理技術ともに一段上のものに出合える。どちらも食べ比べて、その差を実感してみてほしい。

余談になるが、上述の焼味鋪は、焼臘店(シャオラーディェン)と呼ばれることも多い。焼味だけでなく、臘味(ラーウェイ:塩や醤油に漬けた肉類を干したもの)も扱うからだ。
それに加えて、滷味(ルーウェイ:下茹でした肉類を滷汁という漬け汁に浸したもの)とか白切鶏(ゆで鶏)とか豉油鶏(鶏の醤油煮)とか、作り置きの肉類があれこれ揃っているのが最近の焼味鋪である。これらもまた、焼味に負けず劣らずの美味であり、ローカル小吃店やレストランでも食べることができるので、是非お試しあれ。

焼味にテーマを絞って書き始めたはずなのに、思わず他の料理にも言及してしまった。広州には、それだけ旨いものがあふれているのである。
»続編:中国全省食巡り3|広州で食べるべき料理3選 ③早茶
text & photo 酒徒