初夏になると、道端、公園や遊歩道の植栽、おうちの庭などで、小さいけれどその膨大な数で圧倒的な存在感を見せる白い花があります。

そう、ドクダミ!

5月〜6月の間、ドクダミ満開の風景をあちこちで目にした方も多いのでは? 厳密にいうと、この白い部分は花弁でなく、蕾を保護する苞葉(ほうよう)ですが、目で楽しめるという点では花に似ていますね。

しかしおうちの庭に生えている場合、強くたくましすぎる生命力で広範囲を占拠され、とても愛でる心境になんてなれない…という方も少なくないかもしれません。

新・ドクダミ仕事は「掘る」!

ドクダミは、漢方薬に処方される「十薬(じゅうやく)」としてはもちろん、お茶、チンキ、化粧水、薬草風呂作りなどに活用されています。初夏になると「さぁ、ドクダミ仕事の時季がやってきた!」と思う方もいらっしゃることでしょう。

このときに使うのは、蕾や花、葉などの地上にでている部分です。そしてそれらを刈り取っても、瞬く間に再生してしまうのがドクダミの凄いところ。その衰えぬ繁殖力に貢献し続けてきたのが地下茎、根っこです。

実際にドクダミの地上茎を辿っていくと、縦に伸びゆく根に加え、しっかり太い根が枝分かれし、横へも伸び、いきいきと縦横無尽に張り巡らされていることがわかります。

友人の庭でドクダミの根を採取。(Photo by Pan Sq)

そのため、葉を取ってもそこから芽が出て、再び地上へ育っていくのがドクダミの特徴。一度その場所で育ったら、もう永遠に消えることはないだろう…と思わせるほど、強靭な生命力の持ち主です。

そこで今回の記事は、その強力地下パーツをフィーチャー。新たな“ドクダミ仕事”の提案です。

それは、“根っこ”も掘って、食べる!

収穫あり!

ドクダミ食のメッカ、貴州省。定番のドクダミ料理が味わえる「貴州火鍋」

自家菜園でドクダミを栽培し、根っこを使った料理をメニューに掲載。日本でドクダミの根への愛と魅力を教えてくれた一軒の店が、東京都葛飾区新小岩にある貴州料理店「貴州火鍋」です。

時季によっては根っこが用意できない場合があるものの、ここで通年提供しているのが折耳根炒腊肉(ドクダミ根と干し肉の炒め)

折耳根炒腊肉(ドクダミ根と干し肉の炒め)。貴州省ではドクダミを折耳根といいます。

これが独特の香り、苦味、渋味と干し肉の香ばしさ、脂の甘味のハーモニーの素晴らしさに、白飯が止まらない!

貴州料理は料理、漬けダレ、ご飯の友、絲娃娃(手巻きミニ春巻き)など、ドクダミの根とは切っても切れぬ関係。最近は貴州限定でヨーグルトドリンクまでされたという噂。

「ドクダミの根がなくなっちゃったら、どうやってご飯食べるんだ!」というくらい愛する食べものなのだ、と「貴州火鍋」の林(リン)さんは、熱きドクダミ愛を力強く語ります。

さらに!簡単に作れる凉拌菜(リャンバンツァイ:和えもの)のレシピも教えていただきました。

凉拌酸菜折耳根(漬物とドクダミの和えもの)


①ドクダミの根を洗って短く手切りする。ポイントは包丁で絶対に切らないこと。手で触れることで、根の硬い部分を取り除けるため。
②15分程度塩に漬ける。
③軽く揉んだあと、さっと洗い、絞って水気を切る。
④煳辣椒(フーラージャオ:焦がし唐辛子粉)、黒酢、漬物(お好きなもの)、醤油を混ぜ合わせ、全体を和えてできあがり。

今回は漬物で作って頂いたのですが、季節が合えば野蒜(のびる)と和えると、それはもう最高なのだそう! おうちの庭などで掘ったら、ぜひ試してみてください。

四川省は根も葉も食べる!「中國菜 四川 雲蓉(ユンロン)」は火鍋にドクダミ

「貴州火鍋」の林さんが「貴州は根っこ食べて、四川は葉っぱ食べているよ!」と教えてくださったことに加え、かつて旅先で、和えものと烤魚(焼き魚の麻辣スープ煮込み)に、臭み取りの役割も含めてドクダミの根を入れて食べていた記憶が残る四川省のドクダミ料理。

「となればきっと、シェフもサービスの奥さまにも喜んでもらえるのでは?」そう思い、昼に掘りたてのドクダミを持って向かったのは、吉祥寺「中國菜 四川 雲蓉(ユンロン)」です。

この日は甘酢料理がテーマのコースだったので、賄い、もしくはおうちで召し上がっていただけたら…と、ほんの気持ちとして渡したドクダミ。すると、お二人も大好きとのことでとても喜んでくださったうえ、当日のコースのうちの一品にドクダミの根を加えてくださったのです!

料理は酸菜火鍋魚白(酸菜火锅鱼白:漬物入りふぐ白子の火鍋仕立て煮込み)

酸菜火鍋魚白(酸菜火锅鱼白:漬物入りふぐ白子の火鍋仕立て煮込み)。photo by Takako Sato

酸菜とドクダミの根の相性のよさに加え、火鍋スープの麻辣味に負けず劣らずなドクダミ根のインパクトが、しっくり共鳴するのに驚き。これもまた旨し!

湖南省ではドクダミ全体を活用!

貴州省、四川省と来たらここも外せない、湖南省。 高田馬場に1号店、上野に2号店を構える湖南料理店「李厨」の李兄弟シェフのお兄さんに早速尋ねてみると、やはり!こちらでも食べることが発覚。

そこでお兄さんが腕を振るっている、池袋「四川料理 品品香」にも、ドクダミの葉と掘りたての根を持参しました。

料理は熗拌魚腥草(炝拌鱼腥草:ドクダミの香味油和え)です。なんと、湖南省では葉も茎も花も根も食べるそう。

熗拌魚腥草(炝拌鱼腥草:ドクダミの香味油和え)

今回は葉と根の両方を使い、香辛料と香味野菜を合わせ、熱した油をかけて和えた一品を紹介してくださいましたが、現地では、根は3月頃から、葉、茎、花は4月頃から、柔らかで太くてほくほくなものを、それぞれの旬に合わせて楽しんでいるというこだわり!

もしかするとこの3省、「四川人不怕辣,湖南人辣不怕,贵州人怕不辣(四川人は辛さを恐れず、湖南人は辛くとも恐れず、貴州人は辛くないことを恐れる)」のように、ドクダミに対してもそれぞれの愛のかたちを持っているのかもしれません。

“ドクダミ食”のボーダーラインはどこにある?

今回ご紹介した3省や、雲南省を含む中国西南地方はドクダミを食べ、北の方では食べない(というより、食べるなんて信じられないという認識)ことはなんとなく認識していました。

しかし生の声を確認したく、遼寧省瀋陽出身、西早稲田「甘露」中国語教室担当・謝老板に尋ねてみると「ズバリその通り」というお答えが!

さらに各地出身のお友達にも確認してもらったところ、湖北省の中でも、武漢人は食べないけれど、葉を干して茶は飲む。重慶に近い恩施人は食べる、という二都市の違いから、ドクダミ食の境界は、長江中流域以南にある可能性も見えてきました。

なお、ドクダミの根は前出の貴州省や四川省をはじめ、中国西南地方で折耳根(zhē ěr gēn)と呼ばれることが多いですが、湖南省も含む他地域では魚腥草(yú xīng cǎo)と呼ばれることが多いようです。魚腥草は直訳すると「魚の生臭い香りの草」。クセのある香りと味わいならではの呼び名ですね。

引き続き、掘り下げたらおもしろそうなこのテーマ。ぜひ、身近な中国のお友達とドクダミトークをしてみてくださいね。

今年はドクダミの旬を終えましたが、来春は庭の厄介者に映っていたドクダミの群生が、食材の宝庫として輝いて見えるようになっているかもしれません。

掘ったどー!

もちろん、今もドクダミは青々と茂っているので、気になる根や葉を調理してみても。そして中国西南地方を旅するように、ドクダミ食文化の違いを楽しみながら、ドクダミを味わってみてください。


貴州火鍋
東京都葛飾区新小岩1-55-1 多田ビル1階(MAP
TEL:03-3656-6250
営業時間:17:00-23:30
日曜定休

中國菜 四川 雲蓉(ユンロン)
東京都武蔵野市吉祥寺本町2-14-1(MAP)※印章店「青雲堂」右側
TEL:0422-27-5988
営業時間:11:30-14:30(L.O.14:00)※食材がなくなり次第終了 18:00-22:00(L.O.21:00)
火水定休、木のランチ定休

四川料理 品品香(ピンピンシャン)
東京都豊島区西池袋1-34-3 矢島ビル 壹番館2階(MAP
TEL:03-3971-9848
営業時間:11:00-23:00
月曜定休


text & photo :アイチー(愛吃)
中華地方菜研究会〜旅するように中華を食べ歩こう』主宰。日本の中華のなかでも、中国人シェフが腕を振るい、郷土の味が味わえる“現地系”に精通。『ハーバー・ビジネス・オンライン』でも執筆中。