横浜中華街に行ったら、どこで何を食べればいい? 魂が震える本物の味はどこにある? 当連載は、横浜で美味を求める読者に向けた横浜中華指南。伝統に培われた横浜の味と文化をご紹介します。
◆目指すゴールとコンセプトはコチラ(1回目の連載)でご覧ください。

吹く風の冷たい、肉まんの恋しい時期になりました。今回は2019年3月に公開し、ご好評いただいた「好みの味を見つけよう!横浜中華街のおいしい“手作り肉まん”」の後編。前回とは違う切り口で、中華圏の地方色あふれる肉まんをご紹介したいと思います。

なぜ地方色という区切りなのか。それは、海外旅行に出られない中華好きのみなさんに、ほんの少しでも横浜中華街で中国旅行気分を味わってほしいからです。

またテレワークが多くなるご時世に、肉まんほど便利な中国料理はないかもしれません。餃子同様、蒸し器で蒸かすだけで主食もおかずも一度に食べられる完全食。

蒸し器で暖めている間は、仕事をしていても問題なし。電話会議で前後がブロックされていても、短い昼休みに素早く満足できます。なにより手作り肉まんの素朴なおいしさで満たされるのは胃袋だけではないでしょう。

台湾好きならおなじみの大同電鍋に放り込んでおけば、電話会議の合間に蒸かしたてのほかほか肉まんが食べられます。

前編でもお伝えしましたが、横浜中華街の手作り肉まんは総じてこんな特徴があります。

かたちががちょっとブサカワで個性的
餡(中身)の味付けは店ごとに全然違う
生地(皮)の発酵による小麦の香りと豊かな味わい

 

手作りのブサカワさあふれる肉まん。キューピーちゃんの頭の先っぽのようで、これは寝癖付き。

では、後編おまたせしました。中華圏各地方のエッセンスをもった肉まんをご紹介しましょう。

【北京代表】肉汁じゅわり。香味野菜の力強い芳香!孫文ゆかりの「華都飯店」

広東勢優勢の横浜中華街において、ちょっと陰の薄い北京勢。そんな中で、筆者が「北京の包子(餡入り饅頭)が懐かしい。どこかで食べられませんか?」と問われたら、ここを薦めます。食べ比べた限りでは、横浜中華街の肉まんの中では頭一つ飛び抜けてパンチの効いた風味が特徴の「華都飯店」です。

旨味たっぷりの肉汁が外側まで染み出した、少し不格好で質実剛健なビジュアル。

滲み出た醤油と肉汁で、生地を茶色く染めているあたりが手作り感満載。この生地の茶色い滲みこそが、肉汁たっぷり大当たりを見分ける鍵です。筆者が北京で食べていたものも盛大に茶色くなっていて、特に気に入ったものはこのようなビジュアルでした。

てっぺんのねじれも、皮のひだもひとつひとつ違って、手でひねったことが伝わってきます。「日本人だったらこんな見た目で思い切れないよね」と妙に納得してしまう、中国らしい大らかで質実剛健な作りです。

生地の中まで茶色いマーブル模様。肉汁を感じる肉まんです。

蒸したては肉汁が飛び出すので、かぶりつく方向に気をつけてがぶっといきましょう。食べてわかる範囲で、餡は豚肉と椎茸、葱の強めの風味も入っています。

この餡から立ち上る力強い香りこそ、中国の北方の肉まん。口にすると、北京の最高気温零下の日の朝に道路でかぶりついた肉まんの記憶がよみがえります。とはいえ、こちらは筆者が北京で食べていたものより材料も作りも味わいも100倍上等。北京に縁のある方にも気に入ってもらえるとうれしいです。

「華都飯店」には、日本滞在中に中山樵(なかやまきこり)と名乗り、のちに孫中山と号した孫文の記念堂の看板が掲げられています。孫文はかつて横浜中華街にも住んでいました。中国の近代化の中で、この界隈にも重要なストーリーがあったことを感じる散策もよいでしょう。

「華都飯店」外観。
横浜中華街肉まんファイル①華都飯店
調味の方向性:醤油×香味野菜のパンチが効いた味付け。休日の朝食にかぶりつきたい(ただし強めの匂いにはご注意)
合わせたい飲み物:薄めの絞りたて豆乳。日本のラガービール

 

【上海代表】‟ぼやけた味”こそ褒め言葉!甘味のある醤油味「大三元酒家」

上海風の肉まんで、我が家のお気に入りは「大三元酒家」。この肉まん、表面の景色がなんとも穏やかです。目立つようなひだを作らずに、えも言われぬやさしい表情。餡は上海系らしく少し甘みがあって醤油風味が効き、濃い色ながら塩気が控えめなのが好印象です。

ぎゅっとしていてみちっと詰まった餡。

みっちり詰まった餡は、筍とひき肉のコンビネーションが実にいい味を出していて、舌の上でころころと転がる感じ。ひとつの素材の味が突出して目立つことがなく、上海料理好きが俗に言う、“ぼやけた味”というのがこれかと膝を打ちました。

この表現は決してけなしているのではありません。かつて上海に住み、上海料理を愛する家人に言わせれば、この“ぼやけた”感じが上海風味の愛すべきポイントだとか。

肉まんは、中国では朝食べることも多いものですが、それだとこれと一緒にビールが飲めないのは画竜点睛を欠くのではないかと、いささか駄目人間らしい不満を感じてしまいます。買っておいたら休日用におっておきたい肉まんです。

また、「大三元酒家」では叉焼包(チャーシューまん)も売っています。甘みは肉まんよりもずっとしっかり。

きれいに生地が割れている叉焼包(チャーシューまん)。

口にして、筆者の脳裏に浮かぶのは、上海の福州路にある老舗「老正興菜館」で食べた、草頭圏子(草头圈子:豚大腸の濃厚醤油ソース)の味わい。

この地方は、醤油味でぐっと甘い料理がごちそうのひとつ。上海料理で甘旨な料理というと、先に挙げたホルモンの他、豚スネ肉の醤油煮、アヒルの醤油煮などがありますが、この肉まんも同様に甘さのパンチ力を持っています。

ですからただ食べるなんてとんでもない。これは必ずビールやお茶が必需品。古めかしいごちそう系の肉まんは、正座してビールと一緒に、濃い味を洗い流しながら戴くのが正しい作法かと思います。ぜひとも金曜か土曜に横浜中華街に行き、週末のランチビールのお供にしてはいかがでしょう。

大三元とは縁起の良い名前。昔どこかで読んだ本の記憶では、初代が麻雀で勝ち取ったお店とか(真偽不明)。

ちなみに同店の料理は、上海風でありながら横浜中華街らしく広東の影響をも感じる“横浜中華”です。レギュラーメニューに田鶏(カエル)があるあたりに、観光客に媚びない店の本気を感じます。

お味の方は、どこか懐かしく穏やかな上海料理が特徴。人によっては古い味だと思うかもしれませんが、筆者は口にすると子供時代の郷愁のようなものが刺激され、食べてよし居心地もよし。その食後に、店先に並ぶ上海風手作り肉まんや粽がお土産に手頃でよいのです。

横浜中華街肉まんファイル②|大三元酒家
調味の方向性:醤油味のひき肉。肉がゴロゴロしており、ひと昔前の御馳走を思わせる。少しダサめの餡が上海の旅の思い出を誘う。休日、ランチにビールとともに味わいたい。
合わせたい飲みもの:アルコール度数が低めのさっぱりとした中国ビール、または緑茶。

 

【台湾代表】不揃いな具の奏でる旨みのハーモニー「台湾美食」(茂園食品)の肉まん

横浜中華街は、中華圏の中でも広東、福建、上海の人たちが多いのですが、台湾系の人たちも多く住み、商売を営んでいます。そのひとつが「台湾美食」。伊勢佐木町の「茂園食品」の系列で、コロナ禍の中、新規開店したことが街の話題になりました。

逆風の中で開店した「台湾美食」。いつ訪れても必ずお客さんがいるのはさすがです。

もともと「茂園食品」でも肉まんは販売されていましたが、実はそれがかなり筆者好み。懐かしさを感じるしっかりとした醤油味の餡で、塩分は控えめ。クワイのシャキシャキとした食感、干し椎茸の旨味ががつんと感じられ、いい意味で古めかしさがある味わいです。

台湾人の友人と食事をした実感としては、日本人よりも甘さはしっかり、塩分控えめの味わいを好むよう。ここはまさにそんな味ですね。

頭の先っぽがちょっと乱れているのが手作りの証。ここを見れば手作りかどうかがわかります。美しいひだの造形は職人技。
餡の中に入った不揃いな具の大きさが、ガブッといったときに感じる豊かな食感に繋がっているようです。

ちなみに「茂園食品」の肉まんを初めて食べたのは数年前のこと。横浜中華街のはずれにある「萬来亭」の小さな製麺所のガラスケースで見つけたのです。これがいかにも手作りでオーラを感じる肉まん。ところが、製麺所には肉まんを作っている気配はありません。

尋ねてみると、レジのお兄ちゃんが「ここでは作ってなくて、親戚にお願いしているんです」と教えてくれました。

ならばとラベルの表記を頼りに、横浜中華街にほど近い工房、当時の本店で製造されているご家族の方々に伺ったところ、一族のご出身は台北ということがわかりました。その後、本店を横浜中華街に移し「台湾美食」をオープン。ゆえに、この肉まんは台湾北部の味ということになりますね。他にも月餅をはじめ、中華菓子の品揃えがいいお店ですので、お土産を買うときに重宝するはずです。

横浜中華街肉まんファイル③|台湾美食
調味の方向性:醤油、肉、椎茸の重なり合う旨み。ひと昔前のごちそう系。日本人が連想する肉まんらしい肉まん。垢抜けない味だけれど、それこそが時代を超えた魅力。
合わせたい飲み物:あらゆるビール

 

【広東代表】真味是唯淡!広東人になったつもりで食べたい「楽園」の大型肉まん

最後にご紹介するのは、横浜中華街の門をくぐると、いつもそこにある「楽園」。しかし、ここでいつまで続けてくれるかはわかりません。店のスタッフの高齢化で閉店していった名店も多々。筆者の主張が強すぎるかも知れませんが、ここは今、逃さずに食べておくべき、横浜中華街に残された「本物の楽園」だとお伝えしたいところです。

「楽園」の肉まん。表面の輝きが美しい。

楽園の肉まんは大ぶりで、ひとつで朝食に大満足のボリューム感。我が家の蒸籠では、2人分を積み重ねすると肉まんのてっぺんがぶつかってしまい、すこし工夫が必要なほど。

しっかりと分厚い皮、少し偏った餡の景色に手作りの味わいを感じます。

餡は基本的に素材の風味を生かした塩味。横浜中華街の肉まんの中でも、かなり立派な部類の大きさですが、見た目の予想に反して味付けは上品です。

時々噛み締める椎茸からは、じゅわっと深い味わいと香り。荒く刻んであるため、ひと口ごとの印象の違いが味に立体感を与えています。

濃い味に慣れている人には少し物足りなさを感じるかもしれませんが、この肉まんを食べるときは、ぜひ「自分は広東人」と心の中で念じてください。これぞ「清淡」と称される、やさしく食べ飽きない広東の味なのではないでしょうか。筆者の経験では、特に仕事で疲れて胃腸が重たいときにもおいしくいただけました。

この肉まんには、不思議とアルコールを必要としない何かがあります。食べた後に口に濃い味が残ることもなく、食べ終わったらぐっとお茶を飲んで仕事を始めるのにぴったり。その点で、朝食にもぴったりですね。

「楽園」外観。

店構えは、この店にさらりと入れるようになったらかっこいい。そんな貫禄を感じさせます。初めての方には入りにくいかもしれませんが、勇気を出してドアを開けてみてください。せっかくなので昼ならランチ、夜なら一品料理を何か食べてから肉まんを買いましょう。

ホールを守る素敵なお母さんとの会話、伝統を感じるメニュー構成。ここに来れば、きっと素晴らしい体験が待っているはずです。

横浜中華街肉まんファイル④|楽園
調味の方向性:しいたけの旨味が光る、タケノコ入り醤油系。薄味でしいたけをかみ当てた瞬間に幸せな風味が爆発。
合わせたい飲み物:台湾の上品な高山烏龍茶、ダージリン、香り高い焙じ茶など。

 

持ち帰った肉まんをおいしく食べる方法

肉まんは、冒頭でお伝えした通り、家にストックがあるととても便利な小吃(軽食)です。ゆえに、肉まんを買ってきたら、すぐに食べない分は冷凍庫に入れてしまいましょう。そうすれば、1か月程度は保存することができ、好きなときに食べられます。

蒸し時間は大きさと店のおすすめにもよりますが、常温品の再加熱や冷蔵のものは、蒸籠から蒸気が勢いよく上がってから15~20分くらいで食べごろになるものが多いようです。冷凍のものはさらに10分前後加熱します。

また、蒸し器は伝統的な形のものが、水蒸気が肉まんに落ちず、きれいに蒸し上がるのでおすすめですが、フライパンと組み合わせて使う簡単なものでもいいでしょう。注意したいのは電子レンジだけで加熱すると生地が硬くなってしまうこと。蒸し器を使い、生地はふわふわ、餡は熱々になったところをガブリといきましょう。

今回は筆者の好みで北京、上海、台湾、広東を代表する4つの肉まんをご紹介しましたが、味の好みは人それぞれ。年齢や運動量、体調によってもおいしいと感じるものは変わるので、横浜中華街に行ったら、いくつかの店で2~3種類買い込んで、自分の好みを探してみましょう。コンビニとはひと味もふた味も違う、専門店の実力を感じるはずです。


ご紹介したお店

華都飯店
住所:横浜市中区山下町166(MAP
TEL:045-641-0335
営業時間:10:30~21:00
水曜定休

大三元酒家
住所:横浜市中区山下町136(MAP
TEL:045-641-4402
営業時間:11:00~22:00
不定休

台湾美食
住所:横浜市中区山下町220(MAP
TEL:045-663-0901
営業時間:11:00〜21:00
不定休

茂園 伊勢佐木町店
住所:横浜市中区伊勢佐木町3-106 AKO伊勢佐木町ビル1F(MAP)イセザキモール内
TEL:045-242-6525
営業時間:10:00~19:00

楽園
住所:横浜市中区山下町154(MAP
TEL:045-641-9308
営業時間:11:00~21:00 ※平日は中休みあり
火曜定休

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text & photo:ぴーたん
ライフワークのアジア樹林文化の研究の一環として、台湾・中国・ベトナム・マレーシアを回って飲食文化も研究。10数年前の勤務先で、江西省井岡山に片道切符で送り込まれたことを機に、中国料理の魅力に目覚め、会社を辞めて北京に自費留学。帰国後もオーセンティックな中国料理を求めて、横浜をはじめ、アジア各国の華僑と美味しいものについて情報交換をしている。