中華カレーで一句|三蔵の旅路を偲ぶ中華咖喱
こうして山椒で口が洗われたところで、おもむろに登場したのが、待ちに待ったあの料理がやってきました。それは、中華カレーです。なぜ待ちに待たれたのか?というと、実はこの料理にこそ「ルウロン」が会場になった理由があるのです。
きっかけは、80C(ハオチー)スタッフの暑気払い会。魚を一匹丸ごと煮込み、骨の髄から抽出された奥行きのあるスープで作ったカレーは、そこにいた誰もにごはんをおかわりさせ、〆に麺まで投入させるほど。あの味がずっと忘れられず、どうしてもこのカレーをみんなに食べてほしかった。
また、中華カレーというと「まかない系(カレー粉を炒め、具を中華スープで煮て、片栗粉で留めた系)」以外に出会ったことがなかったので、新鮮な感動があったのも事実。そこで我々はカレーの写真をFacebookページにアップ。すると、今までにないような伝播力で「いいね!」が広まっていくじゃありませんか…。SNSの面白さを体感させてくれたのも、この一品でありました。
今回は都合上、魚では作っていただけなかったため、鶏肉を使って豆板醤をベースに調味した一品を出していただきました。
そのせいでしょうか? 初めてこの「四川風スープカレー」を口にした面々は「マレーシア?それともタイ?」「マジックスパイスのスープカレー?」と脳内で記憶のアジア料理をたどっている様子。改めて口にしてみると、たしかに豆板醤を使っているものの、どことなくタイやマレーシア風のテイストも感じられてきます。
具は鶏もも肉に、にんじん、トマト、エリンギ、キャベツ、ピーマン。調味料と香辛料は、豆板醤、唐辛子、胡椒、花椒…。しかし、複雑妙味の秘密はなかなか掴めず。
前句は華麗にカレーをかけています。後句は、シルバーの器に入って、堂々と出てきたんですよね。いずれにせよ、おいしいんだけど、折り重なるスパイスや調味料に何が使われているかもわからない。ここに来て感覚重視の女性陣は「ダジャレ系」を連発。一方で、男性陣ははるか中国へと想いを馳せていました。
赤々としたカレーを「醤の海」と見立てました。錦江とは四川省の省都・成都市中心部を流れる川。杜甫や李白の漢詩にもたびたび登場しています。海と川が繋がった句ですが、流れが逆か。
インドからもたらされたカレーの道のりに、白馬に乗って天竺(インド)を目指す「西遊記」の三蔵法師を登場させ、遥かなる旅路へと想いを馳せました。
道程でさまざまなスパイスと調味料を手にしつつ、2012年の東京・冬の神楽坂で中華カレーとして結実した、嗚呼このひと皿よ。中国ウン千年の歴史が詠み込まれた壮大な句。木杓、長年の中国ひとり旅の経験がここで生きました。
ゴダイゴの『Monkey Magic』とともにこの料理を登場させたいところです(1分経ったところで音楽流れます)。
甜品で一句|豆なしの豆腐に豆を入れにけり
醤(じゃーん)とカレーが登場した後で、円卓の上にそっと差し出されたのは、サラリと煮た小豆のかかった杏仁豆腐。まろやかな杏仁豆腐に、小豆の甘みとコクがさらりと絡んでは、舌の上で儚く消えていきます。
「杏仁豆腐って、どうもあの物足りなさが気になってたんですけど、あんこを乗せることでその不足分が見事に補われた感じ。これ、ものすごく私好みです!」とみねりは大絶賛。好きな味に出会えた感動をこう詠みました。
豆は小豆餡、杏は杏仁豆腐のこと。それぞれを人にたとえ、一方だけでは物足りない、完全ではない様子を表しました。なんとなく、双子のようでもあり、生き別れた兄弟姉妹みたいなニュアンスも感じますね。
そしてこの句。
どういう意味だかおわかりになりますでしょうか? 「実はよくわからなかったんですが、禅問答みたいな感じで何となく気になりました。いったいどういう意味なんでしょうか」と泥頭。
恐らく、他の皆さんも同じ思いを抱かれていたのでは。さっそく詠み人に尋ねてみると「杏仁豆腐は豆を使っていないのに豆腐といわれますよね。そこに小豆の豆が入った、ということを詠みました」と木杓が自句自解(自分の句を自分で解説)します。
「ああ、それは言われるまで気付かなかった。なかなかいい句じゃないですか。これを詠み手に説明してもらわなければわからないっていうのは、ちょっと鑑賞眼が足りないですなあ」と反省する泥頭。たしかに、言われて気付くには遅かったかも。俳句は世界で一番短い定型詩、つまりポエムですから、このように自分だけの発見・感動を詠み込めると素敵ですね。
そんなこんなで、円卓の上の中華料理を季語に代えて一句詠む「中華句会」。参加者6名中、句会初参加者は4名でしたが、季語を知らなくても詠めることから、それぞれに楽しんでいただけた句会となったようです。
後日談としては「自分が読んだ句を、思いがけず他人が褒めてくれるっていいですね」という声や、「1点だけ入った句もでも、『あの人だけが共感してくれた!』って嬉しい気持ちになります」という声も。
また、「普通の会食イベントとはちょっと違って、格好つけていられないというか、格好つけてもつい内面が出てしまうので、初対面では分からないような面が見えるかも」という意見もありました。おいしい中華料理さえあれば、初対面でもできるので「中華句コン」、やってみましょうかね。句のうまい男がモテるという、現代の在原業平の登場なるか…?
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≪出句一覧≫
参加者:木杓、こばら、月、泥頭、大蒜、みねり(以上五十音順)
※五句出句 五句選(内、一句最好(ズイハオ) 四句好(ハオ) )
※作者名下の数字は点数、()内の文字は選者、太赤字は最好
▼三色冷拼盆:前菜
(豆腐干と生木耳、イトヨリと茄子の山椒ソース、棒棒鶏)
桜えび豆腐の波を渡りけり 木杓 3(泥、み、こ)
干海老を胴上げしたる豆腐かな 泥頭
豆腐干知らずにいれば総スカン 大蒜
木耳は犬歯の裏に貼りつきぬ 泥頭 1(み)
一片の茄子よりあふるお汁かな こばら 2(木、大)
イトヨリの白さ鮮やか締める青 月 1(木)
繊細な前菜食し句をひねる 木杓 1(大)
▼生炒鮮虾仁:芝海老の天然塩炒め
(芝海老、金針菜、黄ニラ)
金針菜朱色の箸に割られけり 泥頭 3(木、み、月)
わすれ草円卓上に花さかす 月 2(大、こ)
彩りに一輪挿したる金の華 大蒜 1(月)
見た目よりたべてわかる花も花 みねり
知り合えたかんで嬉しいゆり花の素 みねり
腰折れて具をまとめたる黄韮かな こばら 2(木、み)
韮炒め青森に会ふ二人かな 泥頭 1(大)
芝海老や生まれたままの姿かな こばら 1(月)
▼仔姜香肉絲:細切り豚肉と新生姜の香り炒め
(豚肉、新生姜、ピーマン、もやし、筍)
一足に景色を変える新生姜 月 1(こ)
▼山椒冬菠菜:国産生山椒と寒じめ法連草炒め
(ほうれん草、生山椒)
爽香の水玉まとう深みどり こばら 3(月、大、み)
実は葉は下の根っこのひきたてやく みねり
雪下の育つ緑は北の華 大蒜
さんしょうをかむのはいつも同じ場所 みねり 1(泥)
山椒の入りたる菠菜目もしびれ 木杓
パラパラと山椒の房物語来る 月
▼豆办咖喱鶏:スープカレー 豆板醤の香り
(鶏肉、人参、トマト、キャベツ、ピーマン他)
三蔵の旅路を偲ぶ中華咖喱 木杓 2(こ、泥)
朝天はれんげの下に沈まりぬ 泥頭 2(木、月)
醤の海滴る汗は錦江のごとく 大蒜 1(泥)
シルバーで醤と〆り満腹に 月
華麗なる花椒辣油あと何だ? こばら
▼紅豆杏仁豆腐:アズキソースがけ杏仁豆腐
(杏仁豆腐、小豆)
豆と杏ひとりだけではものたらず みねり 1(こ)
豆なしの豆腐に豆を入れにけり 木杓 1(泥)
▼円卓
円卓に踊る辛さの主役たち 大蒜