これを読めば中国各地の食文化がわかり、中国の地理に強くなる!『中国全省食巡り』は、中国の食の魅力を毎月伝える連載です。
◆「食べるべき3選」の選択基準はコチラ(1回目の連載)でご確認ください。
ライター:酒徒(しゅと)何でもよく飲み、よく食べる。学生時代に初めて旅行した中国北京で中華料理の多彩さと美味しさに魅入られてから、早二十数年。仕事の傍ら、中国各地を食べ歩いては現地ならではの料理について調べたり書いたりしている。中国生活は合計9年目に突入し、北京・広州を経て、現在は上海に在住。好きなものは、美味しい食べものと知らない食べものと酒。中国全土の食べ歩きや中華料理レシピのブログ『吃尽天下@上海』を更新中。Twitter:@shutozennin

連載第5回の舞台は、一気に西に飛ぶ。紀元前の昔からシルクロードのオアシス都市として栄えた、新疆ウイグル自治区のトルファン(吐魯番)だ。

ウイグル語で「低地」を意味するその名の通り、海抜マイナス150mの盆地に位置し、夏場の酷暑で知られる。かの三蔵法師一行が、鉄扇公主や牛魔王と激しい戦いを繰り広げたとされる火焔山も、このトルファンにある。

火焔山。夏場には気温が70度にもなるとか。(photo :shutterstock)

厳しい気候ゆえに、産物は限られている。加えてイスラム教の制約もあるので、食材は多彩とは言えない。だが、限られた中にも飛び切り旨いものはある。

乾燥した土地がプラスに働くのか、或いは品種が違うのか、新疆の野菜や果物は驚くほど味が濃い。多様な種類を誇る干し葡萄は甘味と酸味が素晴らしく、まるで宝石のようだ。ウイグル族が毎日のように食べる羊肉も、別格の旨さである。

カラフルな干し葡萄。品種によって、味も香りも全然違う。ウイスキーのお供に最高。

なお、新疆の中心地であるウルムチ(烏魯木齊)ではなく、敢えてトルファンを採り上げた理由は、僕が「酒徒」だからだ。

ウルムチは本格的なローカル店になればなるほど飲酒に厳しく、羊肉料理を酒なしで食べることを強いられた。その土地の価値観は無論尊重すべきだが、酒飲みには何ともつらい環境で、僕は失意のあまり体調まで崩した。

その点、世界的な観光地でもあるトルファンは旅行者の飲酒に寛容。新疆産のビールやワインを存分に楽しむことができたのである。となれば、どうしたってトルファンをひいきしたくなるではないか(笑)。

こんな理由で全く恐縮だが、酒を愛する諸氏にはご理解頂けることと思う。もちろん今回選んだ3つの料理は、下戸の人が食べても文句なしに美味しい料理ばかりだ。皆さん、安心してご覧ください!

肉と野菜の旨みがブワッ!曲曲(チュチュレ/ウイグル式ワンタンスープ)

曲曲(チュチュレ)。一見、なんでもないワンタンスープのようだが、あなどることなかれ。

ウイグル語でチュチュレ(チュルチュレ)と呼ばれる曲曲は、ウイグル式ワンタンスープ。薄い小麦粉の皮で羊肉の餡をワンタンのように包み、羊肉でダシを取ったスープで煮る。ワンタンに火が通ったらスープごと碗に盛り、刻んだ香菜を散らす。トルファンのみならず、新疆一帯で広く親しまれている小吃のひとつだ。

酸湯曲曲というのもあって、これはスープを作る際、羊肉とともにトマトを煮込んで酸味を加えたものだ。いずれにしろシンプルな小吃であるが、とても旨い。僕が感動したのは、トルファンの屋台で食べた酸湯曲曲である。

トルファンの中心にある噴水の周辺には、夕方になるとたくさんの屋台が姿を現し、夜遅くまで地元民で賑わう(2009年当時)。観光客に対しても開放的で、皆、よそ者と見ればあれこれ親切に教えてくれるし、カメラを向ければ笑顔でポーズを取ってくる。楽しい雰囲気がすっかり気に入って、僕は二晩連続で通った。

トルファンの屋台広場。暗くなると地元民で一杯になる。

感動の屋台は、背が高く、キリッとした顔立ちのウイグル族のおばちゃんが営んでいた。曲曲の皮を機械で延ばす店も多いが、おばちゃんは手作り。何だか旨そうなものを出してくれそうなオーラを感じた。

ひとつひとつ手で包まれた曲曲。餡の種類によって包み方と場所を分けていた。

そして、その予感は当たった。言ってみれば、ワンタンをスープで煮込んだだけのものなのに、おびただしく旨い。まずはスープ。羊肉の出汁とトマトの旨味・酸味が混じり合い、さっぱりしながらも奥深く、実にやさしい味わい。薬味の香菜が絶妙のアクセントになって、いくら飲んでも飲み飽きない。

酸湯曲曲は、トマトスープでワンタンを煮込む。

そして、主役のワンタンもやたらと旨かった。餡は玉葱、ニラ、白菜の3種類あって、いずれもベースは羊肉。特に素晴らしかったのは、玉葱とニラだ。

新疆の羊はどこで食べても旨いので、餡の羊肉が旨いのは予想の範囲内だったが、玉葱の甘さとニラの香り高さには、思わず目を見開いた。野菜自体の味が、とても濃いのだ。餡の味付けは塩程度と思われるが、それで十分。ひとつ食べるごとに薄い皮の中から肉と野菜の旨みがブワッと弾け、僕は歓喜の声を上げた。これぞ「素材の勝利」だ。

3種類の餡。どれも特に珍しいものではないのに、これが旨い。

都会の野菜を使って同じものを作ってみたところで、絶対に同じ感動は得られない。おばちゃんの酸湯曲曲は、その土地で食べないと理解できないその土地の味があるということを、あらためて実感させてくれた。

ありがとう、おばちゃん!今もご健在かな。

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