いまさら聞けない!? 四川名物・麻辣火鍋の基礎知識
大陸は広く、ところ変われば味も美意識もおいしさに対する価値観も変わる。詳しい人は読み飛ばしてほしいが、火鍋のなかでも四川の麻辣火鍋は「スープがのめて、最後に〆がある」という、日本的な鍋料理のイメージとは全く異なる。わかりやすく4つのポイントをまとめよう。
①鍋の汁は牛脂と香辛料の塊。
麻辣火鍋の鍋汁は飲みものではない。食材に火を通し、麻辣風味をつけるものだ。火鍋底料(火鍋のベースとなる調味料)の原料は、端的にいうと牛脂で香辛料の風味を抽出したもの。鍋汁をうまみを育てて最後に雑炊で〆、という世界観はここにない。
②鍋の汁は赤一色。
本場の鍋汁は紅一色が当たり前。ドーナツ型の二色鍋で、中央の小さい部分だけ気休め程度に白湯が入れられる鍋もあれば(下の写真参照)、おでんのように区分けされた鍋で、具を見失わないようになっているものもある。
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③具は内臓がメイン。火を通す時間にこだわりあり。
鍋で煮る具は内臓系が中心だ。そもそも麻辣火鍋は、新鮮な牛の臓物を麻辣味の汁で煮て食べたことがそのルーツ。定番の食材は、牛のセンマイ、ハチノス、アヒルやガチョウの腸、アヒルの血をプリン状に固めた鴨血など。日本では手に入りにくい食材も多いので、こればかりは中国のほうが種類豊富で楽しめる。
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④ごま油がつけだれ。
ガツンと麻辣、牛脂たっぷりの鍋汁で内臓を煮たら、胡麻油ににんにく、香菜、葱などの香味野菜、好みで塩や黒酢を加えた“つけ油”で食べるというのもポイントだ。まるで牛脂をごま油で制すかのような流れだが、これが思いのほか食べやすく、箸がすすみ、クセになる。
成都と重慶の火鍋はどう違う?
さらには麻辣火鍋発祥の重慶市と、四川省の省都・成都の火鍋にも違いがある。少々マニアックだが、せっかくなのでこの機会にご紹介しよう。
前述の通り、重慶の火鍋は牛脂ベースの火鍋底料(火鍋のもと)を使うのが基本だが、成都はそうとも限らない。例えば、同じ麻辣火鍋でも、成都の有名チェーン店「龍森園火鍋」のように菜種油をベースにしている店もある。
また、麻辣火鍋のつけだれは、前述の通り香り高いごま油がベースになるが、成都の場合はオイスターソース、重慶の場合は唐辛子粉を加えることが多い。うまみをとるか、さらなる辛さをとるか。それぞれ土地柄が出るところだ。
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ちなみに重慶は昔、いろんな食材を煮た火鍋のスープにはうまみたっぷり染み出ているということで、スープを漉して使い回していた歴史がある。
それに対し、成都は使い回しを早々に法律で禁じ、新しい牛脂と香辛料で作ったことがわかるよう、火鍋底料のかたちをクマやスニーカーなど、愛らしい形に固めて提供した店が増えた。これは“バエ要素”でもあるのだが、進取の気鋭に富む成都らしさともいえるだろう。
また、具のごった煮状態になる麻辣火鍋だが、ウサギ、カエル、魚、モツなど、単品の食材をフィーチャーする麻辣火鍋になると、スープが牛脂ベースから菜種油ベースに変わることが多い。牛脂で牛の内臓を食べるのが麻辣火鍋のオールドスタイルと考えると、今はさまざまな麻辣火鍋が楽しまれるようになったともいえる。
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かたや日本も、さまざまなハイブリッド火鍋が登場している。その代表格が東京に店舗展開する「ファイヤーホール4000」。同店は“スープが飲める麻辣火鍋”で大ヒット。日本人が無意識に感じている「鍋のスープ=飲みもの」というツボを見事に押さえ、多くの人に愛される味づくりに成功した。
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こうしてモンゴル系薬膳火鍋、四川系麻辣火鍋、さらにハイブリッド火鍋と、約20年のうちにさまざまな中華系火鍋が出揃った現代日本。
しかし内臓たっぷり、ごま油をつけだれにする四川式麻辣火鍋だけは、現地で食べたいと思うのは私だけだろうか。四川弁をBGMに煮え滾る火鍋を囲み、毛穴からも麻辣味を吸収しつつ、ピチピチの内臓を口にして毎回感じるのは「ああ、私はやっとここに来た!」とこみ上げる熱い想いだ。
思うに、麻辣火鍋は舌で味わうものというより全身で体感するもの。四川や重慶という土地のパワーを感じるのに、店で麻辣火鍋を食べることに勝る選択肢はない。
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TEXT&PHOTO:サトタカ(佐藤貴子)