戦前から続くオールドコリアンタウン・三河島。この界隈は、観光地化された新大久保界隈とは異なり、今も暮らしに根づいたコリアン文化が感じられる。

少し街を歩けば、韓国食材店やキムチ専門店、焼肉店や韓国料理店はもちろん、朝鮮学校(東京朝鮮第一初中級学校)、民団(在日本大韓民国民団)などが点在。一見ハングル色が濃厚だが、これが中国料理的な視点から見てもなかなかおもしろい街なのだ。

三河島駅南側に位置する民団。ホームからも見える。

例えば東坡肉や干し肉を作るのに、こだわる人なら手に入れたい皮付き豚バラ肉が量り売りで買えたり、韓国式にローカライズされた中華料理もここに。

買い出しもできれば食事もでき、ちょっと異国情緒も味わえて、少し歩けば第二ラウンドにぴったりの中華スポットも充実。歩けば楽しい三河島エリアの魅力を、とことん中華目線でご紹介したい。

三河島駅を発車した常磐線。

遠いのは心理的距離だけ!? 案外行きやすい三河島エリア

ところで三河島というと、なじみのない人は心理的距離がかなり遠く、どこにあるのか想像もできないのではないだろうか。しかし心配はいらない。行こうと思えば案外行きやすい場所なのだ。

最寄り駅はJR常磐線で上野駅から2つめ、日暮里駅の次が三河島駅。しかしこの路線を使わなくとも、日暮里駅(山手線・常磐線・日暮里舎人ライナー)、西日暮里駅(山手線・千代田線)、町屋駅(日比谷線)、新三河島駅(京成本線)からも徒歩圏内なので、各方面からアクセスがいい。

23区内の中ではかなり乗車人数の少ない三河島駅。ちなみに現在三河島という地名はなく、駅の住所は荒川区西日暮里になる。

ちなみに80C(ハオチー)編集部のおすすめ散歩道は、三河島駅で降りて散策し、日暮里駅から帰るルートか、日暮里駅を往復するルートだ。

この道中は、約1kmにわたって生地織物の店が軒を連ねる日暮里繊維街や、散策の疲れをいやす銭湯の斎藤湯、駅前にずらりと並ぶ中華料理店もあり、散策の楽しみでもある寄り道、ハシゴが充実すること請け合い。

ただし料理好きは、食材に目移りし過ぎて帰りの荷物が重くなること必至。ゆえにエコバッグや保冷バッグ、保冷剤の持参はマストだ。それではさっそく行ってみよう。

湯気に顔をうずめたい!包子天国「肉まん研究所」

まず1軒目は、三河島でもっとも手軽に中華成分を補給できるところを攻略したい。手作りなのにこんなに安くていいんですか!? と言いたくなる良心的な価格とたしかな技術で、瞬く間に人気店になった包子の専門店「肉まん研究所」だ。

店主はもともと大の肉まん好き。好きが高じて中国に肉まんづくりの修行に行き、重慶の特級調理師の資格を持つ点心師や、四川省雅安市の包子店で学んだのち、ここ三河島で開業した。

店舗外観。仲町通り商店街を少し入ったところにある。

きめ細かく弾力性のある生地は甘さ控えめ。その塩梅がさまざまな餡の風味を邪魔せず、きれいに風味を引き立てる。定番の「肉まん」もいいが、きのこがどっさり入った「きのこまん」や、絶妙にかつお出汁を効かせた「さつま芋まん」もくせになる味。新作メニューが定期的に登場したり、雨の日限定メニューがあったりと、常連も飽きることなく楽しませてくれる。

きのこみっしり!この日は椎茸とエリンギ入り。

遅めの時間には売り切れてしまうこともあるので、三河島に来たらまずこの店で買ってから他をまわるといいだろう。作り置きせず、毎日売り切るスタンスで、パンを買うような感覚で肉まんが買える良店だ。

えっここに店!? ビニシーの向こうに広がる三河島朝鮮マーケットで皮付き豚バラ肉をゲット

次に訪れたいのは、三河島の食を語るのに外せない三河島朝鮮マーケットだ。入口は大通りの尾竹橋通り沿いだが、これといった看板や目印がないので、注意して見ないと通り過ぎてしまうかもしれない。

三河島朝鮮マーケット入口。

入口から、暗がりの奥に光る灯りが見えるだろうか。屋根をくぐれば、そこはさながら小さな市場のよう。一歩足を踏み込めば、左にキムチ専門店、奥には韓国食材店と、料理好きならときめき必至の老舗の専門店が並んでいる。

さまざまな漬物がずらり。
量り売りで買えるキムチ。三河島にはキムチ専門店がいくつかある。
左はキムチ専門店。オモニが量り売りで売ってくれる。

なかでも中華好きにおすすめなのが、1950年代に開業した老舗「丸萬商店」。実はここ、皮付き豚バラ肉を塊で買えるのだ。購入は100g単位の量り売り。生肉はもちろん、店内の大鍋で茹で上げた豚バラ肉も手に入るのがうれしい。

豚バラ肉は、生肉か、ゆで豚が選べる。もちろん皮付き。

ちなみに朝鮮半島の肉料理というと牛肉のイメージが強いが、三河島に多く住む済州島出身の人々にとって肉といえば豚、しかも皮付きが基本。韓国料理ならゆで豚はポッサムなどに使えるのだろうが、中華であれば炒めものに重宝する。

例えば、ゆで豚をスライスして葉ニンニクと調味料で炒めるだけで、歯ごたえのよい皮付き豚の回鍋肉ができあがる。回鍋肉は元来、火を通した豚を再び鍋に戻して調味料と炒め合わせる料理なので、こうした豚肉を使うと実に手軽。回鍋肉に限らず、ゆで豚のストックがあると、いろんな中華風の炒めものが気軽に作れてしまう。

「丸萬商店」の皮付き豚ばら肉(ゆで)と、小ねぎと家常豆豉の炒め。

また、生の皮付き豚バラ肉なら、東坡肉(トンポーロウ)や腊肉(ラーロウ:中華の干し肉)を本格的に作るのにもってこいだ。「これまで皮付きがなかったので、皮なしで作ってました」という方も「一度は皮付きの肉でやってみたい…!」というささやかな夢が、ここに来れば叶う。ちなみに通販もあり、500gから対応している。

韓国唐辛子などの乾物や、インスタント麺、オリジナルの生冷麺や冷麺スープ、季節の野菜を使ったキムチなど幅広い食材が揃う丸萬商店。

精肉スペースには牛のアキレス腱やゆでたハチノス、ゆでた豚耳、ガツ(胃袋)、豚足など内臓系も充実しており、これらも中国料理で活用できること間違いなし。麻辣味で和えようか、それとも煮込みにしようか…。夢と保冷バッグが膨らむこと間違いなしの一軒だ。

続いては、非常に三河島らしい料理をご紹介しよう。他のエリアではあまりお目にかかれない、韓国にローカライズされた中華料理だ。

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