酒が育む、芳醇なる海の味。酒鬼必点的海鮮下酒菜(酒飲み必食の海鮮酒肴)

寧波名物・紅膏熗蟹(ホンガオチャンシエ)。見るからに食欲をそそるこの料理の正体は?

寧波の海が豊かであることは冒頭で述べた。その海の恵みをずらりと紹介するのは次項に譲ることにして、ここでは寧波ならではの海鮮保存食にフォーカスしたい。

黙っていても獲れ過ぎる日もあれば、漁に出たくても出られない日が何日も続く時もあるのが、漁村の生活だ。その問題をどう解決するか。そこでの工夫が新鮮な海鮮の旨さをしのぐほどの酒肴を生んだ、という話である。

初めて食べたとき、「オホッ」と声を上げてしまったのが、寧波蟹糊(ニンボーシエフゥ)だ。包丁で殻ごと叩き切って潰した蟹を生のまま塩漬けにしたものである。ペースト状(糊)になった蟹の身はねっとりとしていて、名は体を表している。

寧波蟹糊(ニンボーシエフゥ)。現地まで飛ばないと、なかなかこういう料理は食べられない。

塩気がしっかり効いているが、熟成した蟹の身がとても甘い。殻ごと噛んでチューチューやると、噛めば噛むほど旨味があふれ出してきて、止まらなくなる。寧波人はこれを朝食の飯や粥に合わせると言うが、どう考えても酒の肴だ、と僕は思った。酒飲みならみな万歳する味だと思う。

醉泥螺(ズイニィルオ)は、ウスキヌガイという薄い透明の殻がついた小さな貝を、生のまま黄酒(≒紹興酒)と塩で漬けたものだ。生の貝を保存食に仕立てあげる以上はとてもしょっぱくなるが、ちゅるんとした舌触りと仄かな磯の香りが酒を呼ぶ。身をすすり、小さな殻をぺっと吐き出す作業を繰り返す合間に黄酒をあおれば、頬が緩むこと請け合いだ。

醉泥螺(ズイニィルオ)。ちんまりしたものをすすりながら飲む酒は旨い。

なお、黄酒の代表選手である紹興酒の産地・紹興は、寧波から車で90分ほどの距離にある。自然、寧波も黄酒文化圏であり、地場の黄酒を安く楽しめることも寧波旅行の楽しみだと言い添えておこう。

寧波での宴は、黄酒とともに。

次に、僕にとって今なお「課題」である醉蚶(ズイガン)をご紹介したい。泥蚶(毛蚶)、すなわちサルボウガイという赤貝を小ぶりにしたような貝を黄酒と塩で漬けたものなのだが、同じ製法の醉泥螺と比べても、磯の香りがすさまじく強い。

これまで何度か食べてみたものの、若輩者の僕にとっては、単に鮮度の悪い貝ではないかと思えてしまう香り。だが、好きな人にとってはその香りがたまらないのだという。むう…。

醉蚶(ズイガン)。いつか嬉々として食べられるようになるだろうか。

僕は大抵なんでも美味しく食べられるのでこういう経験はめったにないけれど、自分の理解が及ばない味に出会うと、逆にテンションは上がる。自分の味覚の幅はまだまだ広がる余地があるのだな、と。今後も見るたびに試してみるとしよう。

そして、トリを飾るのが、紅膏蟹(ホンガオチャンシエ)。活きたワタリガニを丸ごと濃い塩水に半日ほど漬け、生のままぶつ切りにして食べる豪快な一品だ。最初に挙げた寧波蟹糊の上位互換ともいえる存在である。

あらためて紅膏熗蟹(ホンガオチャンシエ)。鮮烈なビジュアル。

蟹ミソの鮮やかなオレンジ色が、おびただしく食欲をそそる。こりゃ間違いないだろという確信とともに、カタマリを口に運ぶ。・・・結果、テーレッテレー!塩で締まった身のねっちょりとした甘さだけでも思わず目を細めて遠くを見てしまう旨さだが、ミソや内子のとろけるような旨味と言ったらもう。

方向性としては韓国のカンジャンケジャンと似ているが、熟成したワタリガニの旨味がよりストレートに味わえるという点で、僕は断然こちらに軍配を上げる。はるか昔にこの料理の存在を知って以来、一度は食べてみたいと思っていたのだが、期待通り、黄酒がぐんぐん進む素晴らしい美味だった。

このように火が通っていない海鮮料理を紹介すると、中国でそんなもの食べて大丈夫なのか、と思う向きもいるかもしれない。そういう方には、別に食べなくていいですよと言っておこう。何を喰ったって当たるときは当たるし、僕が安全性を保証できるわけでもない。ただ、僕は無傷で大変美味しい思いをしたので、食べたい人だけ食べてください。

とは言うものの、それではあまりに意地悪なので、次項では心理的ハードルを下げても楽しめる寧波の海鮮料理を紹介しよう。ただ、あまりに食材も調理法も多彩なので、胃袋の容量を心配しないわけにはいかない事態になるであろうことは予告しておきます(笑)。

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