ひと味違う魚種がズラリ!眼花繚乱的寧波海鮮(目くるめく寧波の海鮮)

様々な海鮮が並ぶ、魅惑の海鮮レストラン。

さあ、冒頭から散々引っ張った寧波の海鮮の魅力を、ここではとくとご覧いただこう。ずらりと水槽が並んだ海鮮レストランは、中国の海沿いの街ならばどこでもお馴染みのものだ。ただ、あちこちで海鮮を食べ歩いてきた僕の目から見ても、寧波の海鮮レストランの品揃えは、珍しさに満ちていたように思う。

トップバッターは、寧波名物・葱油海瓜子(ツォンヨウハイグゥアズ)。カボチャの種に似ているため海瓜子(海の種)と呼ばれる小さな二枚貝を、青葱の香りを移したやや甘めの醤油味で炒める。小指の先ほどの貝には一見食べるところなどないように見えて、意外にしっかりした旨味があり、甘辛い味付けがよく合う。食べるのが面倒くさい料理ほど、酒のつまみにはちょうどよく、箸の動きが止まらなくなった。

葱油海瓜子。寧波に行ったら一度は食べたい定番中の定番だ。

因みに、台湾で食べられている海瓜子は、ヒメアサリ(Ruditapes variegata)。こちらはテリザクラ(Moerella iridescens)で、全くの別種なのでご注意あれ。

お次は、寧波に来ると毎回食べている跳魚(ムツゴロウ)。あっさり醬油味に程よく酢の酸味を効かせた醋焼跳魚(ツゥシャオティァオユィ)が定番だ。冴えない見た目と異なり、身離れがよくて柔らかく、上品な味わいの白身はとても美味しい。頭の骨は硬いが、周りの肉は旨いので、頭ごと口に放り込んでしゃぶる。

醋焼跳魚。少し甘さもある醤油ベースの味付けは、九州あたりの魚の煮付けとほとんど変わらない。

ムツゴロウは、豆腐と共にスープ仕立てる跳魚豆腐湯(ティァオユィドウフータン)もお勧めだ。ホロホロした淡白な白身が美味。小魚と豆腐を組み合わせるスープは中国では定番で、魚の出汁を吸った豆腐がまた旨いのだ。身体が芯から温まる。

跳魚豆腐湯。ムツゴロウが丸ごと何匹も入っている。

豆腐スープと言えば、蝦潺(シァチャン:テナガミズテング)も忘れてはいけない。海底の砂地に棲み、鱗がほとんどなく、ヌルヌルした魚だ。加熱しても身が硬くならず、豆腐並みに柔らかいことから、豆腐魚とも呼ばれる。しかも、豆腐と一緒にスープにするのが定番だと言うのだからおもしろい。

蝦潺豆腐湯。魚も豆腐も白い。
調理前の蝦潺(テナガミズテング)。ぬるぬる。

スープにはダシがしっかり出ていて、あっさりながらも満ち足りた味だ。それを吸った豆腐も旨いが、やはり主役はテナガミズテング。歯茎だけでも食べられそうな柔らかさは豆腐以上で、それでいて白身魚の旨味もしっかりある。旨いもんだなあ。

野生江白蝦(イエシォンジャンバイシャー)は、店のおばちゃんに「今、港から届いたばかりよ!調理法は塩水(茹でるだけ)にして、素材の味を楽しむのがオススメね」と言われて試したもの。確かに旨い!半透明の小さな川海老なのに、身に張りがあって甘いのだ。卵を抱いているやつもたくさんいて、そのはかない甘味がまたなんとも。

野生江白蝦。皮ごとガシガシ食べる。

前項でも登場した寧波名物の白蟹(梭子蟹:ワタリガニ)は、蟹漿(シエジャン)という料理も面白かった。殻ごと細かく叩き切った蟹をジャッと炒めてとろみをつけてある。葱や生姜の風味を効かせたあっさり味で、蟹本来の旨味を存分に味わえる。食べ方は殻ごと口に放り込んで、ガシガシペッ。手を使わずに済むのでガンガン食べられるのがいい(笑)。

蟹漿。ほどよいとろみが、ワタリガニの旨さを逃さない。

とろみ繋がりで、魚羹(ユィゴン)もご紹介。直訳すれば、「魚のとろみスープ」。僕が食べたのは、骨ごと一口大に刻んだ白身魚とじゃが芋、玉葱、杭椒(甘唐辛子の一種)を炒め煮にしてとろみをつけてあった。プリッとした白身魚に野菜の甘味がからみ、優しくクセになる旨さだ。

魚羹。思わずひとりでこの量を平らげてしまった。

岩場に住む小魚の料理にも、あなどれない美味があった。雪汁小梅魚(シュェヂーシャオメイユィ)は、カンダリを雪菜(高菜に似た青菜の漬物)の漬け汁と共に蒸すという、江南の漁師町らしい一皿だ。アジのような肉質を想像して箸を伸ばすと、ふわふわと柔らかく、クセのない白身の味わいに驚かされた。地味だけど、こういうその土地ならではの海鮮料理を食べると嬉しくなる。

雪汁小梅魚。

アカシタビラメの醤油煮込み・醤汁玉禿魚(ジィァンジーユィトゥユィ)も素晴らしかったなあ。葱と生姜を効かせた醤油味は、日本の煮付けよりも更にあっさり味で、柔らかく甘い白身を見事に引き立てていた。気前良くデカいやつを頼んで大正解。旨いものがたっぷりあるというのは、幸せなことだ。

醤汁玉禿魚。これだけ品のいい味付けは初めてかも。寧波の塩梅、大好き。

いよいよ大トリ。寧波篇の最後は、紅焼娃娃魚(ホンシャオワーワーユィ)に〆てもらおう。なんとサンショウウオの醤油煮込みだ。別に寧波ならではの名産というわけではないのだが、こんなのがレストランの水槽にいたら、頼みたくなるのが人情である。

どーん。サンショウウオのお出まし。
紅焼娃娃魚(サンショウウオの醤油煮込み)。生前をほうふつとさせる盛り付けが素敵(笑)

「時間をかけて煮込まないと味が染みないから、辛抱強く待ってくれよ」と店のお兄さんに言われたとおり、料理が出てくるまで30~40分かかったが、待った価値は十分にあった。茶色い見た目に反したあっさり味が程よく染み込み、絶妙の仕上がりだ。なるほど、確かにこの皮やゼラチン質には味が染み込みにくそうだ。

両生類だけにカエルに似た味だが、あまり動かないからか、柔らかな食感が特徴。皮やゼラチン質もブルンとして美味だ。「旨い!この上品な旨さなら乱獲されたのも納得だ」などと言いながら、手足も、頭も、小さな目ん玉まで、全てペロリと頂いた。

というわけで、怒涛の勢いでお送りした寧波海鮮篇。しかし、これでも無数の選択肢を誇る寧波の海鮮料理のごく一部を紹介したに過ぎない。他に一体どんな料理があるのか。それは、是非とも寧波まで飛んで、あなたの目で確かめて欲しい。

次回予告:北京市で食べるべき料理3選(2019年12月20日更新予定)