不定期連載「中国酒ラビリンス」は、中国酒の仕入と販売、普及に携わってきた門倉郷史さんによる中国酒エッセイ。中国の醸造酒・黄酒(フゥァンジゥ:huáng jiǔ)を中心としたお酒の世界を紹介します。 |
干杯!お久しぶりです。『黄酒入門』著者のdonこと門倉です。
黄酒のリアルな今を体感すべく、5年ぶりに中国へ行ってきました。コロナ禍の影響で、現地へ行きたくても行けなかったこの数年。「溜まった鬱憤を思い切り発散しよう!」という思いを胸に、飛行機へ飛び乗りました。
結論。今までで最も胸に残る酒旅となりました!
今年は、以前80Cでレポートした「黄酒フェスティバル」が例年以上に盛大に開催されるという事前情報も。その参加を皮切りに、紹興北部、上海、広東山奥にある酒蔵を巡ってきました。
語り出すと甕出し紹興酒を丸々空けてしまいそうなぐらい思い出が山積み!なのですが、今回は印象に残ったトピックを3回にわたってご紹介します。
一回目は、大手紹興酒メーカーの原酒を買い取り、独自の割合でブレンドするという珍しい酒蔵への訪問記。まず日本ではあり得ないユニークな黄酒造り、いったいどうなっているのでしょうか?
黄酒(フゥァンジゥ:huáng jiǔ)とは?がわかる記事 >中国酒も自然派の時代へ。『黄酒入門』著者が2023年のトレンドを語る >いざ、紹興酒の故郷へ!黄酒フェスティバルに行ってきた |
大手酒造の原酒をブレンド。新たな価値を生み出す黄酒版「ボトラーズ」
「私たちは大手紹興酒メーカーの原酒を管理している会社です」
最初にこの説明を聞いたとき、頭には「?」が浮かび、その意味がすんなり頭に入ってきませんでした。原酒を管理?どういうこと?
何度か聞き直したり、質問をしていくうちにやっと理解し、「こんな会社があるのか!」と興味を抱いたのが、今回ご紹介する紹興雲集信記酒造有限責任会社(以下、雲集信記(云集信记))です。
この会社のなにがユニークかといえば、古越龍山や会稽山などの大手紹興酒酒蔵から原酒を買い取って倉庫に多数保管し、その原酒を独自にブレンドして商品化していること。
「そんなことアリなの?」と思われるかもしれませんが、これはまさにウイスキーでいうボトラーズと一緒です。
ボトラーズとは、蒸留所から原酒を購入し、独自の熟成やブレンドを経て瓶詰め・販売するもの。独自性が高く希少な銘柄も多く存在しています。まさか醸造酒でもそんな世界があったとは…!
黄酒において、ブレンド自体は珍しいことではありません。例えば黄酒を代表する紹興酒は、同じ蔵で造られたさまざまな年数の原酒をブレンドをして商品化するのが一般的で、ブレンドもひとつの重要な工程として認められています。
しかし、こちらの酒蔵が採用している方法はそれらとは異なり、複数の酒蔵の原酒をブレンドして商品化しているのです。そしてさらに、自家醸造も行っています。
そもそもこの酒造を知ったきっかけは、昨夏、東京で開催された海外食品と飲料の展示会「JFEX」。ここで飲んだ自家醸造酒「東浦」のほのかな酸味とやわらかな甘味のバランスが絶妙で、記憶に残ったのがこの蔵に興味を持ったきっかけです。
以来「いつか見学に行きたい」と思っており、担当の缪(ミャオ)さんと連絡を取り続けて、やっと念願が叶った今秋。紹興の観光地とはほど遠いローカルなエリアで、「雲集信記」はどんな酒造りをしているのでしょうか。次のページでご紹介します。