新中国の移民政策が生みの親!? 大盤鶏(大盘鸡/鶏肉とジャガイモのスパイシー煮込み)

大盤鶏(ダーパンジー)は、中国全土で高い知名度を誇る新疆の名物料理だ。「大皿鶏」を意味する名前の通り、丸ごと一羽の鶏を骨ごとぶつ切りにし、大量のジャガイモと煮込んで、ドドンと大皿に盛りつける豪快な料理である。
唐辛子・花椒・八角・桂皮などの香辛料を効かせた、スパイシーな味付けが魅力だ。山盛りの大盤鶏が卓上に置かれると、刺激的な香りがぶわぶわと鼻をくすぐってきて、一気に食欲が高まる。
歯ごたえが良く、味が濃い新疆の地鶏。それが香辛料の辛さや痺れを身にまとうと、果てしなくビールを呼ぶ。地鶏の旨味を汁ごと吸ったジャガイモも、主役に負けず劣らずのご馳走だ。脇役の葱やピーマンに似た青唐辛子までもが妙に旨いのは、やはり新疆の野菜に地力があるからだろう。

本場の大盤鶏は、とにかく量が多い。3~4人で頼んでも満腹になること必至だ。だが、それがいい。山盛りの鶏肉を目の前にして、「うはは!こりゃ頑張らなきゃ!」と張り切って食べるのが楽しい。小サイズの大盤鶏を出す店もあるが、僕にとっては邪道。この料理は、量も味のうちだと思っている。

皿の山がある程度減ったら、皮帯麺(ピーダイミィェン:ベルト状の幅広麺)や、烤饢(カオナン:ウイグル族のナン)を汁に浸して食べるのがお約束だ。
スパイシーで旨味たっぷりの汁が、むっちりした麺や香ばしいナンにからんだり染み込んだりするのだから、旨くないわけがない。一皿で肉も野菜も主食も一度に楽しめるのが、大盤鶏の素晴らしさだ。


実のところ、大盤鶏はウイグル族の伝統料理ではない。そもそもこの料理にはウイグル語の名前がないし、ウイグル族の店では大盤鶏を出さないところも少なくない。
では何かと言うと、新中国成立以降、大挙して新疆へ移住した漢族の食文化と、新疆の風土が出会って生まれた創作料理なのだ。
唐辛子と花椒を多用する点は四川料理の雰囲気が濃厚だが、湖南・甘粛・河南あたりの影響を指摘する声もある。いずれも、新疆への移民が多かった地域だ。その意味で、大盤鶏は新中国の移民政策が生んだ一皿だと言える。

もっとも、漢族の大量流入が引き起こした新疆の社会問題は皆様もご存知の通り。特にここ十年で厳しさを増しているウイグル族への抑圧を思うと、複雑な気持ちになる。だが、経緯の良し悪しは別として、異なる文化が交わるところには必ず新しい料理が生まれるということだ。
大盤鶏の成立時期には諸説あるが、1980~90年代とする説が有力だ。誕生からわずか数十年で新疆料理を代表する存在になったのは、何と言っても「旨いから」だと思う。その美味に舌鼓を打ちながら、新疆の歴史や現状に思いを巡らせてみるのは如何だろうか。