炭のように真っ黒!その秘密は…?長沙臭豆腐(长沙臭豆腐/長沙式臭豆腐)
長沙の名物小吃と言えば、臭豆腐。しかも、他地域と異なる真っ黒の臭豆腐。その程度の前知識を持って、張り切って朝っぱらの街に繰り出した僕。だが、あるべきはずの場所に屋台がない。代わりに見つけたのは、臭豆腐屋台の銅像だ。本当に臭豆腐が街の名物なんだなってことはわかったが、食べられない臭豆腐は役に立たない。
近くの店のおばちゃんに屋台の場所を尋ねると、「こんな早くにやってないよ。臭豆腐の屋台が出るのは、昼過ぎから夜にかけてだからね」と言われた。長沙における臭豆腐は、午後のおやつか夜食扱いということらしい。
日が暮れたあと同じ場所に戻ると、なるほど、小さな屋台の姿が見える。いや、実を言えば、視覚より先にその存在を僕に告げたのは、臭豆腐の匂いだ。数十メートル離れていても自らの存在を声高に主張するあの強烈な匂いが、僕の鼻腔をくすぐったのである。「最近大都会で売っている臭豆腐は、一般受け狙いなのか、匂いが弱すぎるぜ!」と思っていた僕は、思わず深呼吸をした。
因みに、長沙の臭豆腐専門店は店舗を構えず、屋台で営んでいるところが多い(2010年当時)。はっきりした住所がないので、どの店に行くにも近くに着いたらあの匂いを頼りに屋台を探し回らねばならず、それが何だかバカバカしくて楽しかった。
屋台の脇の台には、噂通り真っ黒の臭豆腐がずらりと並べられていた。ところどころ薄っすらと白味がかっているのは、醗酵菌だろうか。その横に置かれたポリタンクを覗くと、黒い臭豆腐がぎっしりと詰め込まれ、黒い漬け汁に浸されていた。これだけ見たら、とても食べ物とは思えない(笑)。
臭豆腐が初めての人にとっては、普通の臭豆腐以上にハードルが高そうな見た目だが、これが油の中に投じられると、発酵食品好きにはこたえられない魅力を放ち出すのだ。パチパチジュワーと油が音を立てる。煮えたぎる油の中で、真っ黒な臭豆腐がぷっくりとふくらんでくる。それと共に、僕の期待もふくらむ。そしてこの間、あの匂いはどんどん強く、香ばしくなってゆく。
カリッと揚がった臭豆腐は、辣椒醤(激辛唐辛子タレ)をバッとかけ回して供された。早速、ひと口。
「わふ、わ、わ、あつ!!」。揚げたて熱々の臭豆腐を口に放り込んだ僕は、悲鳴を上げた。はふはふと口内に空気を送り込んでようやく嚥下したものの、熱すぎて味が分からない。次こそはしっかり味わおうと、ふーふーふー×3回くらい冷ましてから、パクッ。
…おお、旨い!今度は会心の笑顔だ。外側はカリッとサクサクで、一転、内側はふんわりじゅわり。豆腐の中からあふれ出す熱々の熱気と臭気(笑)と共に、大豆の濃い旨味と熟成した発酵の味わいが広がる。うわ、とても美味しい臭豆腐だなあ。
辣椒醤の刺激もいい。だが、これだけ臭豆腐そのものが旨いなら、この刺激はむしろ邪魔かも。そう思って、お代わりは辣椒醤なしにしたところ、ビンゴ!臭豆腐本来の魅力が先ほど以上に広がり「これは旨い!」と僕は声を上げた。
しかも、その様子を見た店主が「お、旨いかい?本当は辣椒醤なしの『原味』が一番旨いんだ」などと言うものだから、僕は気を良くしつつも、「辣椒醤をつけるようになったのは、やはり新中国成立後なのかなあ」などと考えたのだった。
では、この真っ黒臭豆腐は、どうやって作るのだろうか。漬け汁(その名も臭水)の製法をみると、瀏陽豆豉(長沙市瀏陽特産の黒い豆豉)を煮込んで冷まし、水と筍・椎茸・大蒜・白酒・かん水・緑礬(硫酸第一鉄)などを加え、半月以上発酵させるそうだ(半年以上という説もある)。
すると、瀏陽豆豉の黒色に緑礬が作用して、墨のように黒くなるのだという。漬け汁さえできれば、あとは簡単。四角く切った豆腐を数時間以上浸し、黒く染まったものを揚げるだけだ。
長沙に臭豆腐の専門店はたくさんあれど、自分で漬け汁を作る店ばかりではなく、他所で買ってきた臭豆腐を揚げるだけの店も多いそうで、そこがこだわりの差になるようだ。五軒ほど食べ歩いてみたところでは、確かに明確な味の違いがあった。
だが、いわゆるキツネ色の臭豆腐と比べて味や匂いがどう違うのかと言われると、正直、悩む。インドールという有機化合物由来の糞便臭(←ストレート過ぎますかね)は両者に共通している。匂いの強さは店によって違ったので、黄金色と比べて強いとも弱いとも言えない。ただ、さすがは臭豆腐の本場だけあって、匂いがきちんと強く、豆腐そのものが美味しい店が多かったように思う。
なんだか面白そうだ、とりあえず食べてみたいなと思った人に、我ながら素敵なアドバイスをひとつ。屋台を探す前に、近くのコンビニで冷えたビールでも買ってから向かうと、臭豆腐の美味しさと楽しさが数倍になりますぞ!(笑)。
≫次回予告:江蘇省蘇州市で食べるべき料理3選(2019年6月20日更新予定)