2018年、80Cが選ぶ中華的キーワードはコレだ!

ウェブ投稿記事117本、Facebookポスト178本、Twitter ツイート815本、Instagramもやってます。これらの反響と動向を踏まえ、編集部が選んだ2018年の中華的キーワードはこちらです。

南方中華(なんぽうちゅうか)―名菜ではない料理に新鮮味

2018年は広大な中国大陸の中でも、雲南省、湖南省など、これまで日本で提供する店がほぼなかった、中国西南部~南部の味わいが注目されました。

こうした動きを牽引したのが、荒木町の「南三(みなみ)」です。オーナーシェフの水岡さんは雲南、湖南、台南の料理のエッセンスを融合し、ハーブや発酵の技を駆使した料理でゲストを魅了。脳内で現地の味を再編集し、新たな料理として提案したことで、日本人に中国南方の食の魅力を伝えました。

荒木町に新店!水岡シェフが作る南方中華料理 | 南三(みなみ)

同じく中国南方に多く住む少数民族の料理をベースにした、代々木上原「matsushima」は、ついにミシュランガイド東京2019に初登場。爽やかな辛さが特徴のひとつである湖南料理は「香辣里(しゃんらーり)」「李厨上野店」といった新店で味わえるようになりました。

また、中国のハワイ・海南省の料理は「椰子鶏」がオープン。今後は中国南方の地方料理の中でも、貴州省や広西チワン族自治区などの料理を出す店が顕在化してくる可能性も。2019年以降は、八大菜系に入る名菜ではない、中国郷土料理の広がりに期待が高まります。


中国ローカル麺―蘭州拉麺とビャンビャン麺に熱視線

2017年から2018年にかけては蘭州拉麺店が続々オープン。オーダーに応じて太さや形を変え、手延べで仕上げる蘭州拉麺は、すでにラーメンカルチャーのある日本に「手延べラーメン」という価値をもたらし、中国好き、中華料理好き、ラーメン好きの三方向から注目され、広がっていきました。

本場で蘭州拉麺食べ比べ①|蘭州拉麺の基礎知識

これまでも手延べラーメンの店はあったのですが、契機となったのは2017年、本場甘粛省蘭州市の老舗「馬子禄(マーズルー)牛肉面」の暖簾分け店のオープンです。同様に、他の麺でも本場の有名店が開業すると、注目される可能性大ですね。

蘭州を旅するように蘭州拉麺を楽しもう!in JAPAN

また、蘭州拉麺に次いで、中国ローカル麺で“きている”のがビャンビャン麺。記事ランキングでも4位と10位に登場している、陝西省生まれの手延べ麺です。

中国ローカル麺は、山西省の郷土料理店「山西亭」も火付け役。小麦粉だけでなく、燕麦、蕎麦、じゃがいもなどで作った麺は、形も風味も食感もさまざまで、中国料理の奥深さを感じさせてくれます。

また四川省からのポストになりますが、ビャンビャン麺よりさらに太い铺盖面(プーガイミィェン)は、今年最も見られたツイートです。今の東京なら、どんな個性的な中国ローカル麺が来日しても、受け入れられる気がします。


ローカル小吃―中国版「吉野家」や「銀だこ」が増加

今年は中国の街場の味わいが楽しめる場が増えました。すでにトピックに挙がった沙県小吃や蘭州拉麺も、観光客がわざわざ目がけて行く店ではありませんが、中国人はもちろん、在住者は当たり前のように目にしている“普段メシ”の代表です。

そこで中国三大ファストフードといえば、沙県小吃、蘭州拉麺、黄燜鶏米飯(編集部の独断です)。黄燜鶏米飯(ファンメンジーミーファン:鶏肉のの香辛料醤油煮込み ライス添え)のみ、都内への出店はまだですが、大阪には現地チェーン「楊銘宇黄燜鶏米飯」がオープンしています。

2019年は、このような中国版の「吉野家」や「銀だこ」のような店が、日本に増える可能性大。最近は西安バーガーこと肉夹馍(ロージャーモー)や、ひとり麻辣火鍋とも言える麻辣烫マーラータン:日本では麻辣湯とも)の店も増加。おやつに大人気の鴨脖(ヤーボー:鴨の首肉を卤水で煮たもの)の専門店も、西川口、池袋、亀戸、新小岩、小岩などにできています。

西安名物が流行?末広町「MOOGA(モーガ)」で食べる肉夾饃と凉皮セット

これらローカル小吃店の増加は、日本人に新たな食体験をもたらすとともに、中国から来日した留学生や駐在員を、ほっとさせてくれる存在になるかもしれませんね。


飲茶―飲食景気の指標!? 楽しめる場が続々と

80Cではあまり紹介できませんでしたが、今年は飲茶の当たり年でもありました。世界一安いミシュランレストランとして評判になった、香港の人気点心店「添好運(ティム・ホー・ワン)」は日比谷で連日の大行列。

添好運のメニュー。

銀座SIXの「JASMINE 和心漢菜」では、3月から平日ランチタイムに3,500円で点心のオーダーバイキングを始め、90分制ながら、店で手づくりの点心が、あれもこれもと食べられるようになりました。

「JASMINE和心漢菜」のふかひれ入り蒸し餃子 青紫蘇風味

さらに11月にオープンした「YAUMAY(ヤウメイ)」は、ロンドンの「ハッカサン」「パークシノワ」などのヒット店を手掛けるALAN YAU氏プロデュースした点心専門店として話題に。寿司カウンターにインスピレーションを得た点心カウンターなんて、なかなか日本人が思いつくものじゃありませんね。

ひと昔前は、新宿「東京大飯店」や、広尾「香港ガーデン」などで、ワゴンで運ばれてくる点心が楽しめたものですが、時代とともに閉店。以後、本格的に飲茶が楽しめる店は「家全七福」「ザ・ペニンシュラ東京 ヘイフンテラス」のような高級店やホテルに限られていましたが、飲茶沙漠だった東京に職人が戻り、楽しめる場が増えたのは喜ばしいことですね。


麻辣―豊かな香辛料の世界の扉を開く

今年は麻(マー)=花椒のシビレが注目された年。「マー活」という造語も生まれ、編集部もメディア露出が増えました。80Cウェブサイトに「麻辣」で検索して来られる方は安定して多く、2018年に掲載した記事のなかで、9.9%が麻辣関連の記事でした。※「麻(マー)」単独の記事はありません。

麻辣ザリガニもカエルもスコップで登場!新派四川料理「一路香」で痺れよう

麻(マー)のもととなる花椒は、ともすると痺ればかりに注目が集まりますが、中国では主に肉の臭み消しを目的として、下味付けやスープなどに数粒使う方が身近かと思います。また、辣(ラー:唐辛子の辛味)もいたずらに辛い料理に注目が集まりがちですが、何事もやりすぎは禁物ですよ。

80Cでは、これまでさまざまな麻辣味を紹介してきたこともあり、今後は、酸辣(酸っぱくて辛い)、香辣(香り高く辛い)、鮮辣(フレッシュな旨みがあって辛い)、糟辣(漬物など発酵の風味のある辛さ)など、中国料理の奥深い香りと辛味の世界を紹介していきたいと思います。

2019年もおいしい中華で幸せに!

ここまで駆け足で、2018年の東京を中心とした中国料理シーンをご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。

ご紹介したまとめは、あくまでも80C(ハオチー)という中国料理メディアから見える視点と数字であり、違うポジションから見れば、違った中国料理の世界が見えることでしょう。

また、トレンドワードからは現地系中華が元気に見えますが、日本人の腕利きシェフの店の料理のすばらしさにも触れておきたいところです。ここ数年、中国料理のシェフの技術交流は非常にさかん。古典に学び、中国に学び、友でありライバルに学び合う姿がそこにあります。

厳選された日本の食材と水、油を巧みに使い、丁寧な仕事をした中国料理は、日本人のみならず、中華圏のお客様も感動する味わいになっているはず。和食のみならず、これから日本で極上の中国料理を楽しまれる諸外国のゲストが増える日を願っています。

80C編集部では今年も素晴らしいレストラン、屋台、料理人、そして食を愛する人々との出合いがありました。そのすべてに感謝をしつつ、2019年もおいしい中華で幸せになれるような情報を提供していきたいと思います。

それでは皆様、よいお年を!


text:佐藤貴子(サトタカ)
research:小杉勉